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   最初のお仕事

ヒロインが倒すべき、ラスボスとして登場した『風の精霊王』。

まさか、ヘクスの口からその存在を聞くことになるなんて驚きました。

封印された彼女のことを精霊たちは忌避しているものだと思っていたからです。


ゲームの中ではアリシアが旅を進め、魔物や邪精霊などを倒していくことで知っていく『風の精霊王』という存在。


自分が寵愛する一部の人間たち-『風の民』と称される人々だけを、己の居城を築いた天空の島に住まわせて恩寵を与えていたとされ、その身勝手さを注意した他の精霊王たちと諍いを起こし、小さな諍いは戦争となり、精霊王と精霊王の戦いは世界に多大な被害をもたらす程となった。

そのまま戦いを続ければ、世界が滅びてしまうと考えた精霊王たちは『風の精霊王』を封印することにした。それまでに人々が健やかに過ごせるようにと多くの恩寵を与えていた精霊王たちに対し、『風の精霊王』は天空の島の上にしか恩寵を与えようとしなかったおかげで多くの余力を残していた為、精霊王たちが彼女を倒すことは難しく、封じこめるしか方法がなかったのだ。

側近である高位精霊第五位がその命を呈して彼女を庇った為に一度は失敗に終わったものの、精霊王たちは何とか『風の精霊王』を封じることが出来た。

幾重にも重なる精霊王たちの力に包まれた彼女は、彼女の居城であった天空の島の最奥に安置されることり、大きな傷跡を世界に残した彼女のことを精霊たちは恐れ、配下であった風の精霊たちは他の精霊王たちを恐れ、その名を口にすることはなくなっていった。


それから月日は流れ、ゲーム本編の時代になると世界で多くの歪みが生まれるようになり、それに取り付かれ魔物や邪精霊が多く現れ、人々に被害をもたらすようになる。

シナリオの終盤になると、封印の綻びから歪みを作り魔物たちを操っている『風の精霊王』という存在が明らかになっていく。


クロノスが言う、アリシア(ヒロイン)が『風の精霊王』と『森の精霊』になるという二つのルートには、『風の精霊王』が深く関わってくる。


封印から目覚めた彼女は、体の所々が崩れ落ち、銀の髪がくすみ、世界への憎しみに心を捕らわれてしまった『風の精霊王』。彼女を倒すことで『風の精霊王』になる逆ハーエンドを迎え、彼女を説得し浄化することで『森の精霊』となり新しく生まれる男性型の『風の精霊王』との未来を歩む隠しエンドを迎える。

ゲームでは、それでハッピーエンドになっていた。だけど、クロノスたちの言うことが本当なら、その先にあるのは世界の混乱と破壊。

それを阻む為に動くということは、ゲームのシナリオは一体どうなってしまうのでしょうか。


すでに、ゲームとの相違があることにも気づいた。

『闇の精霊王』だ。

彼は、『風の精霊王』が封印される以前から、彼女を愛し、例え彼女にぞんざいに扱われても思い続けていた。ゲームでも、攻略キャラに見紛うばかりのキャラとして人気もあった。

風の精霊に愛され、『風の精霊王』と似たところがあったアリシアにほんの少しだけ興味を示すものの、彼の目はただ封印された『風の精霊王』へと向けられ、彼女がラスボスだと始めから気づいていたにも関わらず、自分の役目を配下へと押し付け、彼女が眠る棺に寄り添い続けていた。「こうして眠る彼女は僕だけのものだ。」「彼女が望むのなら世界が壊れてもかまわない」とか問題発言とスチルに、公式に粘着系ヤンデレと称されていた。

そんな『闇の精霊王』が他人と関わり、外の世界にいたのだ。

スチルに見た、ドロドロとした闇を従え今にも倒れてしまいそうなか細い姿ではなく、配下に対して怒鳴ったり、表情を豊かに変える様子は、どう見てもゲームとはまったく違うものだった。





「はい、到着っすよ」


移動している間は目を瞑っているように言われ、素直にそれに従った私は、周囲の様子が分からないままにヘクスに横抱きにされました。

目を瞑ることで色々考えてしまったり、思い出したりとしている内に、ヘクスの声が聞こえ、床に下ろされた。

全然、移動したような気配は感じられなかったけど、瞑っていた目を恐る恐る開けてみれば、確かにそこは自分の部屋ではなかったのです。


赤や緑、黄色や橙色、青や紫、様々な色の淡い光を放つ拳程の大きさのガラス玉が床一面に並ぶ、薄暗い空間が広がっている。

灯の玉の数は数え切れぬ程で、幻想的な光景を作り出しています。



「ここは何処なんでしょうか?」



少しでも足を動かしたら、灯の玉を蹴り飛ばし、壊してしまう気がして恐ろしく、最小限の動きになるよう注意しながら、傍にいるヘクスの服を突きました。


「此処は、地中の奥深くっすね」

「地中?

 こんな空間があるなんて・・・」

「一応、少数民族とか辺境の国とかには、此処の話をそれとなく流してるんっすけどね。でも、まだまだ、気づかれる訳にはいかないんで、大国には流れないように小細工したんっすよ。」


「リリーナには、『冥府』を造って貰いたいんだ。」


クロノスの声が聞こえたので、声の方向へと顔だけを動かします。

だって、本当に蹴っ飛ばしそうなんですもん。


「その格好は必要なんですか?」


安全という漢字が書かれたヘルメットに繋ぎの作業服、所謂土建屋さんのような姿をしたクロノスが、一際大きな灯の玉の傍で体より大きな紙を持って立っていました。

「何か作る時の正装だって、タグが言ってたんだけど?」

「まぁ、確かに正装っちゃ正装ですけど。」

クロノス自身が人形のように見える為、子供の玩具のように見える。


「それで、『冥府』ってどういうことなんです?」

「今のところ、死んだら『冥府』に落ちて生前の罪を償い転生するっていう話を、少しずつ流してあるから、お前には『冥府』の詳細な内容と描いた物語を造って欲しい。

変化の力を持つ転生者のお前が書き描き、多くの人々が目にして覚える事で、その物語は真実に。

魂の循環が始まることになる。」


ドヤ顔をして偉そうに胸を張るクロノス。


それって、めちゃくちゃ大変なことじゃないですか。


「あっ、ここにあるのは保管しておいた死者の魂なんだよ。

 大半は転生させるようにとってあるんだけどな?

 ここから何人か、精霊にして欲しい奴等がいるから、それもよろしく?」


拒否権ないし、フレイ様の「一人ホラゲー」回避にも繋がるしって引き受けましたが、これって過労死も覚悟するくらいのブラックなお仕事じゃありませんか?


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