攻めてみた。
「び、びっくりした…」
自分にだけ聞こえる、本当に小さな声で呟きました。
胸はドキドキと鳴って、張り裂けそうになっています。
口付けされました。
額に。
近づいてきたプルート様の顔に驚き、体を凍りつかせてしまった私の額に、プルート様は口付けをして、すぐに離れていかれました。
「叔父様?」
フェーリ様が非難を露にする声でプルート様を咎めてくれているようですが、爆発しそうな心臓に手を当て、自分を落ち着かせようと躍起になっている私は気に留めることも出来ませんでした。
「彼女が不安になってしまったみたいだから、僕から護りをつけてあげただけだよ。」
ようやく顔を上げることが出来た私が見たプルート様は、心外だと顔を歪めて、フェーリ様に言っています。
「リリーナ。この護りがあれば、君の危険にすぐに僕が駆けつける事が出来るからね。大丈夫、何があっても君を護るよ。」
にっこりと笑うプルート様。
先程のこともあって、多分私の顔はトマトみたいに真っ赤になっている気がします。燃えるように顔が熱いです。
そ、そういう所を見せていればいいんじゃないですか?
モッテモテですよ。
だから、私な…
「リリーナ。ここに来たのはフェーリの話を聞きに?」
「えっ?」
「えぇ、そうなの。わたくしの事を物語にしてくださるそうなの。ねぇ、リリーナさん。」
プルート様から雲隠れする準備です、なんて正直に言うわけにもいかず、困っているとフェーリ様が助けてくださいました。
「そうなんだ。でも、僕に言ってくれれば良かったのに。王だと言っても基本仕事らしい仕事なんて無いから。君を案内するくらい出来たんだよ?」
プルート様はそう言って、チラリッと作業中のスコーピオ様を見ました。
だって、それは…
「嫌だわ、叔父様ったら。自堕落な叔父様が動いたら、他の方々がいぶかしむからに決まっていますでしょ?」
「そうなの?でも、ね。だからと言ってスコーピオを一緒に行動させるなんて。あいつが出て来たらリリーナが危険だよ?」
「あの御方だったら大丈夫でしょう。だって、口煩いスコーピオ様の事を厭ていらっしゃるもの。スコーピオ様が傍にいないと清々することはあっても、居所を探すことなんてありませんわ。」
またまた、フェーリ様が助けて下さいました。
もう、フェーリ様に足を向けて眠れません。
それにしても、スコーピオ様も何か事情をお持ちなのですね。
もしかして、スコーピオ様の物語も書くことになっているとか、そういう事でしょうか…。一度、クロノスさんとちゃんと話をする必要があります。
簡単に引き受けてしまったけど、色々な方から聞くクロノスさんの話から、注意が必要な方だということがよく分かります。
説明で言っていた世界を救いたいという考えには嘘は無さそうでしたが、嘘をつかないまでも、語っていない事はありそうです。
あと、プルート様の意識から外れる作戦を立て直さないと!
ドキドキとときめいたりとうっかりしてしましましたが、全ては平穏無事な人生を終える為です。前世では最後まで終えることが出来なかった人生を全うすること、それが私の最終目標ですから。誰にも憚ることなく同人活動するのも楽しいですが、仲間が増えていくのも楽しいですが、ちょっとだけ計画に関わっている事も楽しいですが、私の願いは平穏な人生なんです。
手遅れなんて言わせません。
「リリーナさん。こちらに居ても手伝える事のないでしょうし、わたくしの家に参りましょう。そして、わたくしの話を聞いて下さいな。」
何度目かの決意を胸にしていた私の腕を引き、フェーリ様が歩き出した。
私が「えっ」とか「うわっ」と驚き戸惑っていてもお構いなしに足を進めて行きます。
なんだか、そんなちょっと強引なところがクロノスさんに似ているなぁと感じました。




