エルシェード
「う、うっかりときめいちゃった・・・」
自分に愕然とします。
駄目。駄目です。
うっかりしちゃ駄目じゃないですか、リリーナ!
幸せな一生を送る為にも、ヤンデレにときめいたら駄目ですよぉ!
でも、ヤンデレじゃなかったら・・・・
って考えるのも駄目!
顔良し、声良し、ヤンデレ除いたら性格良し、地位も名誉もあるって最良物件かも知れませんが、ヤンデレなんです。恐怖のヤンデレなんです。人気があって市民権を得ているヤンデレですけど、実際にあったら大変なヤンデレなんですぅ!
必死に自分を説得していた私でした。
その後ろでは、プルート様とスコーピオ様、そして地の高位精霊第4位のエーデ様という女性の精霊が力をあわせ、バンムレットが駆除されていきます。
「姫様。やっぱり主様には言いましょう。私が手伝うよりは主様に来て頂いた方が確実かつ安心ですから。」
エーデ様は、フェーリ様が生まれた時から世話をしていたそうで、根を一つも残さないようにする為にフェーリ様が呼ばれると、すぐに駆けつけてきました。
そして、フェーリ様の様子に愕然とし、プルート様とスコーピオ様の説明に青褪め、涙を流してフェーリ様を抱きしめていました。
「姫様に何かあったら、主様が御嘆きになります!」
「だからこそ、お父様には言わない方がいいのよ。お母様の時も、お兄様の時も、大変だったでしょう。」
「でも!」
何時まで経っても終わりそうにない言い合いを止めたのは、プルート様でした。
「それくらいにしておけ。フェーリが自分の意見を変えない事くらい分かっているだろう。それよりも、さっさとバンムレットを駆除するべきじゃないのか?」
「・・・・・・そうですね。分かりました。」
今、バンムレットの動きを止めているのはプルート様です。そして、駆除をしてくれるのはスコーピオ様。フェーリ様を助ける為に必要な方々に視線を向けられ先を促されては、しかも二人共エーデ様よりも属性は違えど格上の存在、エーデ様は従うしかないでしょう。
「エーデ。地中の根が燃え尽きたか確認してくれ。」
「分かりました。」
スコーピオ様とエーデ様が地中から伸びている主茎を前にして、並んでいます。スコーピオ様が主茎に指を置き火をつけ、バラエティー番組に出てくる爆弾の導火線のように主茎が燃え、地中へと向かっていきました。
「大丈夫。心配する事は無いよ。」
プルート様が私の肩に手を置いて、優しく話しかけてきました。
スコーピオ様とエーデ様が次々とバンムレットを駆除し、残りもあと少しというところまできていました。
「スコーピオは制御においては『火の精霊王』よりも上だからね。根が少しであろうと残ることはないから。」
あ、あれだけ反省したというのに、優しく微笑まれるプルート様の顔を間近に見ると、顔が熱くなってしまいます。きっと、傍目から見たら頬が赤くなっているのが分かる気がします。
プルート様にばれるのが嫌で、顔を逸らしました。
「あ、バンムレットを持ち込んでしまったアリシアはどうなるんでしょうか?」
話を逸らそうと、気になっていたことを口にしました。
一応、ヒロインであるアリシアがどうなるか。アリシアに何かがあれば、ゲームの始まりはどうなるのでしょうか。他の誰かがヒロインに成り代わる?それとも、ゲーム自体が無かったことになるのか。
ゲームが無くなったら、クロノスさん達がいう世界の危機がどうなるのか・・・
「人の世のことは、よくは分からないけど・・・多分、親が注意を受けるくらいになるのではないかな?子供が訳も分からずやった事だと判断されるだろうし、それを厳罰に処せば声を上げる者たちも現れるだろう。精霊の加護で国を守ってくれる王家であろうと反旗を企む人間は必ずいるものだからね。」
そういうものなのでしょうか。
「それに、風の精霊たちが五月蝿いからね。」
「?」
何故、そこで風の精霊が出てくるのでしょうか?
「あの娘、風の精霊達のお気に入りみたいでね。下位・中位の風の精霊が引き寄せられているくらいに、風の愛し児のようだよ。」
その声に、なんだか嘲笑うようなものが含まれていた感じがして、プルート様がそんな声を出すなんて思ってもいなかった私は顔を上げてプルート様の顔を見上げました。
すると、プルート様の顔に浮かんでいたのは懐かしそうな微笑です。
私が思った声の質は、ただの勘違いだったのでしょうか。
「リリーナさん。」
首を傾げていると、フェーリ様が近寄ってきました。まだ顔色も悪く、少しフラフラとしていますが、少しだけ調子を持ち直したようにも見えます。
「ご迷惑をおかけしました。それに、ごめんなさい。ここに来た目的とは反することになってしまって。」
そういえば、そうですね。プルート様から姿を消す為に、ここに来たのでした。偶然とはいえ、プルート様着ちゃいましたし・・・。
本当に偶然?なんて思わないでもないですが、ちゃんとプルート様には内緒にしてくれている筈ですもの。
「いえ、いいんです。それにしても大変でしたね。」
「えぇ。今までで、こんな事は初めて。でも・・・フフッ。流石はエルシェードだわ。」
「どういう事ですか?」
フェーリ様の顔にも、プルート様のように懐かしそうなものが浮かびました。
「レームスたちも知らない事だから、リリーナさん内緒にして下さいね。」
子孫でもある国王陛下にも内緒にすること?
知りたいような、知りたくないような・・・・
悩みましたが、フェーリ様はすでに私の耳元に顔を近づけていて、聞くしかなさそうです。
「エルシェードがこの程度の騒ぎは起こすのは当たり前なのよ。だって、お兄様の血ですもの。」
「えっ!?クロノスさんの・・・し、子孫?」




