嫌いじゃないんですけど・・・
「す、スコーピオ様。これって・・・」
蔓によって空中に持ち上げられているアズラート様を、スコーピオ様が小さな火を飛ばして地上に降ろしました。
地面に落ち、喉を押さえて咳き込んでいたアズラート様は、走り寄ったレームス様によって抱えられ、火の粉を払い逃げ惑って蠢く蔓の下から連れ出されました。
そんなレームス様とアズラート様を追いかけようと伸ばされる蔓に、スコーピオ様に怒っているように叩き付けられようとしている蔓、そして私にも伸ばされる蔓にも、自我があるように感じられます。
そんな事があるんでしょうか。
人よりも書物などを読んでいると自負している私も、自我を持って動く植物の存在を見聞きしたことはありません。そんなものがあるのなら、大盤振る舞いで触手ジャンルを開拓しましたのに。
「精霊の力を吸って、変化したんだろうな。魔物化、みたいなものか?・・・・まぁ、自我を持つ植物が無いわけでもないからな。」
魔物・・・。人間の負の感情などから生まれる歪みに、動植物、稀に精霊や人に憑くことで生まれる存在ですね。私達の国々があるこの大陸でも生まれ、人々の脅威となっています。でも、多くの魔物や魔族は西の海を渡った先にある大陸に集まり、魔王を中心にした国を作っているそうですが、滅多に人が辿り着ける地ではなく、詳細を知るものはほとんどいないのが実情です。
ただ、魔物などの脅威によって、その本当かも分からない悪名が轟いています。
って、スコーピオ様。今、何をボソッと仰いました?
「あるんですか!?」
だったら、どうしてゲームには登場し無かったのでしょうか。
敵を倒しながら愛を育むシナリオだったので、敵として出てきてもおかしくないですよね?だって、定番中の定番じゃないですか、触手って。
あっでも、そうなると18禁に突入しちゃいますよね。男性向けでもないですし。BL系でもないですし。
「・・・・・・昔、クロノス様がお作りになった。魔大陸に自生させてあるらしい。」
あぁ・・・・・。クロノスさんが作ったものなら、ゲームの中の世界には無かったものなのでしょうね。盛り上がりを見せた私の二次元脳が萎みました。クロノスさん達のネタに使ってもいいですが、何だかクロノスさんが作ったものに関わると碌なことにならなさそうですし・・・。
それにしても、クロノスさん。色々やらかしまくってたんですね、生前。そりゃあ、ユージェニーさんに馬鹿息子って誹られますよ。
フェーリ様が御両親に報告出来なかった悪戯というものも、聞きたいような聞きたくないような。そんな気分にさせますね。
「さて、どうしたものか。火は使えないし。フェーリ様の力を吸ったのなら、放っておいて外に出られたら危険だな。何より、フェーリ様に何かあれば『地の御方』が危うい。」
『地の精霊王』ですか。
確かに、娘であるフェーリ様が大変な事態になったら、お怒りになられるでしょうね。日本人としては大地の怒りというと、地震などが浮かんできました。
それにしても、火が使えないとなると・・・。動き回っている蔓に火なんてつけたら、森中に延焼します。火の精霊は他の精霊よりも制御が苦手だと言われていますから、動き回っている中に火をつけて他に燃え移りそうにならないよにするなんて事、難しいですよね。
外に出たら、人々を襲いまわるだけではなく、きっと農業も壊滅でしょう。
ただでさえ悪魔と呼ばれるバンムレットが力をつけて自分で移動するなんて農家にとっては悪夢でしかありませんよ。
どうしましょう・・・・・・
「燃やしてもかまいませんよ。」
襲い来る蔓を避け、スコーピオ様に庇って頂いたりしながら、頭を唸らせ、妙案を練りだそうとしていましたが、どうにも何も出てきません。
そんな私達に、フラフラと歩いていらっしゃったフェーリ様が穏やかな声をかけられました。
「フェーリ様?」
「私などよりも、これが森から出てしまって起きる被害を考えなくてはいけません。
スコーピオ様。遠慮なく燃やしてくださいな。」
フェーリ様の潔すぎる決断に、誰もが言葉を失います。
「いえ、しかし。」
「お父様のことは気になさらずに。知識の王と呼ばれているのです。何が最善であったかくらい判断出来ます。森にいる精霊たちに協力させても、どうしようもないでしょう。育みの光も、植物の糧である水も、地も、何の役にも立ちませんもの。ですから、さっさと燃やしてしまって。」
そうは言われても、フェーリ様が消えるかも知れないのに決断することは。
それに、それらの属性が駄目だというのなら・・・・
「半分は人です。もしかしたら、リリーナさんが造られた冥府に行けるかも知れませんよ。そうならば、お母様とお兄様と一緒に、時が来るのを待つだけです。」
フェーリ様の強い力の篭った目に、スコーピオ様が手に炎を生み出しました。
そして、それを恐れた蔓たちが一層動くを活発化させ、誰彼構わず襲い掛かってきました。
その内の一本が、ここまで歩いて来られたのが不思議なくらい、立っているのもやっとなフェーリ様に向かいます。
「フェーリ様!」
私は、慌ててフェーリ様に飛び掛り、その体を突き飛ばしました。
これから、何が行なわれ、フェーリ様がどうなろうとしているのかも理解していましたが、それでもフェーリ様が攻撃されているのを放っておくことなど出来ません。
「リリーナさん!」
「リリーナ!」
お二人の声に、地面に伏したまま上を見上げると、格好の獲物と思ったのか一本どころか束になった蔓たちが私に向かってきているのが、まるでコマ送りのように近づいてきているように見えました。
「まったく。本当に君は優しいね。」
冷たくも暖かい、黒一色が目の前に広がりました。
もしかして、狙ってたのか?な彼、登場。




