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   気づいていなかった。

「あら。レームス、アズラートも。」


「あ、アズラート様?」


首に剣を差し込まれている為、身動き出来ません。

ですが、私の背後を見て弱弱しく微笑むフェーリさんの呼んだ名前の一つは、よく知っている名前でした。


「お止めなさい。二人は、わたくしの大切なお客様だから。」

 

子供に言い聞かせるような、フェーリさんの柔らかな声に、剣が引かれていきました。スゥッと見えなくなっていく剣で、私の髪が少し床に落ちてしまいました。

わぁ、いい切れ味ですね。

そんな風に思うことで恐怖を和らげる努力をし、私は後ろを振り返りました。


澄んだ翡翠のような目は、ヴァルト王国の王族の証。


振り返った先にいたのは、そんな翡翠の目を持った、髭が素敵な壮年の男性と、その一歩後ろにいる長い耳を持つ少年でした。私に剣を向けていたのは男性の方でした。男性には見覚えはありませんが、少年には見覚えがあります。

私が仕えるフレイ王女の婚約者、ヴァルトの第三王子アズラート様です。確か、今年で10才になられる筈です。

そして、ゲームにおける攻略キャラの1人でもあります。

始めて、ゲームに出てくる、精霊以外のキャラに会いました。感激しているのを顔に出さないようにしないと不信に思われますね。頑張りましょう。

変人奇人と有名なエルフを母に持つ、世にも珍しいハーフエルフのアズラート様は、家族や周囲から遠巻きにされて育ち、ヒロインに出会った時から普通に接して貰えたことで惹かれるようになるって設定でした。


「この者たちが危害を加えた訳では無いのですね、おばあ様?」


壮年の男性が、渋く重い声でフェーリさんに問いかけます。

あっ、もしかしなくても、私達がフェーリさんをこんな風にしたと思われてます?・・・よく考えると、私達の後から来たということは黒く焦げている森の様子を見てきたということで・・・確かに怪しいですよね、私達。

「えぇ。むしろ、倒れているわたくしを助けてくれたのですよ。」

「・・・そうですか。」

フェーリさんの微笑みに、男性が剣を鞘にしまってくれました。

「失礼しました。愚かな勘違いをした事を許して頂きたい。

私は、ヴァルトの王レームス・フュー・ヴァルト。我が王家の祖であるフェーリ様を助けて頂いた事を深く感謝致します。」

お、王様がそんな簡単に頭を下げていいんですか?アズラート様まで。

でも、おばあ様と呼んだ事から、それだけフェーリさんを慕っているということなので・・・・、いいんですか?


あれ?

私、何か大切なことを聞き流してませんか?


えぇっと・・・この方は王様で、つまりアズラート様の御父様。

その王様が、フェーリさんをおばあ様と呼んで、王家の祖って言いましたよね。

で、そんなフェーリさんは、『霊廟の森』にいる『森の精霊』で。そうなるようにしたのは、クロノス様で。クロノス様はフェーリさんのお兄さん。



「えっ!」


「まさか、お前。」


大変な事に気がついてしまい、声を出して驚いてしまった私に、皆さんの不思議そうな視線が集まりました。

その中で、スコーピオ様だけが何に驚いたのか察しがついたようで、呆れる余りに引き攣らせた顔になっています。



何で、気づかなかったんでしょうか?

ヴァルト王家の祖は、『地の精霊王』の御息女を母に持つ方。つまり、フェーリさんが『地の精霊王』の娘様ということです。「さん」付けしちゃ駄目ですよね。「様」ですよね。

ちゃんと考えてみれば、分かる事なのに・・・。

『地の精霊王』の奥方と息子さんのお墓がある森を司るなんて、『地の精霊王』の許しが無くて出来ることではないじゃないですか。

しかも、奥方と息子って。


でも、『地の精霊王』ってあれですよ?『知識の精霊』『知識の王』って言われるくらいの、知性あふれる方。言っては何ですが、ユージェニーさんって肉体言語系の女傑じゃないですか、イメージですけど。全然正反対じゃないですか。それで夫婦なんて思いつくわけがありません。

イメージにしたら、エリートな学者さんとレディース総長・・・・

あれ、いいかも知れません。

ちょっと萌えるシュチュではありませんか?

そういえば、そんな感じのカップルが出てくる漫画とは好きでした。



「それで、一体どうしたのですか、おばあ様」

ほんの少しだけ妄想を始めていた私でしたが、目があった時のスコーピオ様の痛い子を見る目と、真剣な表情でフェーリ様のすぐ横にしゃがみ込んで聞くレームス王の声に、正気に戻りました。


「最近、少し眩暈がするなとは思っていたのだけど、ここ三日動くのも億劫になってしまって。どうしようかと思っていて、気づいたらリリーナさんとスコーピオ様がいたのよ。」


まだ青褪めていらっしゃいますが、先程よりははっきりとした声でフェーリ様が答えました。首を傾げられている様子に、私はバンムレットについて聞いてみることにしました。


「フェーリ様。この花には見覚えは?」

「最近見るようになった花ね。お墓の周りに何時の間にか咲いていたわ。」


「それ!まだ残ってたのか!」


持ってきていた白い花をフェーリ様に見せると、これまでレームス王の後ろで静かにしていたアズラート様が叫びました。


「くそ!全部、駆除したと思ったのに。」

えっと、アズラート様が原因を知っているということでいいですか?

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