旅の道連れ
二話目。
ドキドキと、部屋を離れ、普段仕事をしている区域へと戻ってきても鳴り止まない心臓の音を落ち着かせようとしていた私に、侍女頭が声をかけてきました。
アウラ様から話は聞いたと、明日から数日休みを取ることの承諾が降りたことを侍女頭に伝えられました。精霊に頼みごとをされたという事も伝わっているらしく、休暇としてではなく皇宮外への派遣という風に処理されるそうなので、給料はちゃんと出るそうです。ありがとうございます。
その旨を、買い込んだ数々の新作について語り合いたいと御願いされていたフレイ姫様に伝えて、申し訳御座いませんと謝罪します。
帰ってきたら他にも色々ネタが出来たのでお話しますねと伝えました。
その言葉に、フレイ姫様だけでなく同僚たちまで期待に満ちた目を向けてきたのは、ただただ笑うしかありません。
「それでは行ってまいります。」
次の日の朝、眠い目をこすって、恐れ多くも見送りに来て下さったフレイ姫様や同僚たちに頭を下げて、荷物を手に皇宮を後にします。
何時ものように、部屋から精霊に運んでもらえば楽ですが、一応正式に仕事として処理されて外に出るので、皇宮から出たという証明が必要らしいということで、歩いて皇宮を出て、しばらくしたら精霊の何方かが迎えに来てくれると言われました。
さて、誰かが来る様子が全然ないので、そのまま真っ直ぐに城下へと降りて行きましょう。ついでに、久しぶりですから、お店とかも覗いてみましょうか。最近の休みはクロノスさんたちで潰れてしまっているので、本当に久しぶりな気がします。部屋にある小腹が空いた時用のストックなどは、ネタを代価に友人たちに融通してもらっているので何とかなっていますが、やっぱり自分好みのものを選びたいですし。
城下の大通りについてもやってこない精霊さん。
これは、買い物をしてなさいって事ですね!と天啓を受けた私は、お菓子屋さんや雑貨屋さん、書店になど顔を出し、これかれ遠出するんだよなってタイチさん辺りにツッコミを入れられそうな、なかなかな荷物を作り出しました。
「あっ、あれは、今話題の焼き菓子!滅多に手に入らない一品じゃありませんか!」
もう持てないから大人しく待ってようと思った矢先、侍女たちの間で話題になりながらも、人気があり過ぎて即日完売で手に入らないとヤキモキさせている焼き菓子が目に入りました。
腕にかかる重さも忘れ、駆け足で店に入っていこうとしました。
「おい。まだ買う気か。」
グエッ
後ろから襟元を掴まれて、走り出した体を急停止させられました。
「だ、誰ですか?」
買い込んだ荷物を地面に落とし、自由になった手で喉を押さえて咳き込みます。
苦しかったぁ・・・
涙目で見上げると、真っ赤な髪の男の方が呆れた顔で見下ろしてきていました。
火の民?
あまり他国では評判の良くない、自分達に誇りを持ち過ぎている火の民は『火の精霊王』のお膝元である国元を離れることは珍しく、他国で見かけることがあるとしたら傭兵などを生業としている人くらいです。『光の精霊王』の厚い加護を受け、その治癒の恩恵を受ける世界中の高貴な方々を得意先としているこの国は平和そのもので、傭兵が立ち寄る場所ではありません。なので、火の民特有の真っ赤な髪はとても物珍しく、目立つものです。
「クロノス様に頼まれて、迎えに来た。遅れて、すまなかったな。」
っということは、精霊。しかも、色と姿から見て火の高位精霊様ですか。
「だが、これから出掛けようというのに、こんなに荷物を作ってどうするんだ?」
「えっ・・・と、どうしましょう?」
そんな真面目な顔で見られると、本当にどうしようかと思えてきます。
本当に、この荷物どうやって持っていくつもりだったんでしょうか?
やっぱりストレス溜まってましたかね?買い物でストレス発散する癖は、私には無かったはずなんですが。
「・・・グランツを呼び出して、部屋まで運ばせよう。流石に持っていけないだろう。」
グランツ?あぁ、光の第五位様ですか。
男の方らしいので、私が働いている区域は男子禁制の為、御姿を拝見したことはありません。精霊なのに律儀な方ですよね。
「あぁ、そうだ。俺は、火の第一位スコーピオだ。」
地面に落としたままになっていた荷物を持ち上げ、スコーピオ様が手を差し出して挨拶してくださいました。条件反射でその手を握り返して、私も名前を名乗りましたが・・・
えっ?第一位、様ですか?
クロノスさん。闇に光だけじゃなく、火まで巻き込んでいらっしゃるんですか?
「言っておくが、『火の精霊王』はこの件には関わっていない。もしも俺以外の火の精霊に関わることがあっても、不用意に話はしないでくれ。頼む。」
渋い憂い顔の叔父様という感じのスコーピオ様の態度は、とても火に属する方とは思えない穏やかなもので、驚きます。
もっと粗野というか横暴なイメージでしたから、火って。
あっ、でも・・・
「100年程前からの『火の精霊王』様のイメージって、スコーピオ様みたいですよね。それまでは、横暴とか傲慢とかな書かれ方していたのに。」
ふと、精霊が出てくる話などが載っている本を思い出し、思ったことそのままにポロリッと出してしまいました。
スコーピオ様は、とても暗い笑みを浮かべて、それを聞いていました。




