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   ルーチェ様の謀

プルート様は確かに性質の悪いストーカーです。

たった一人の為になら世界なんて何のそのなヤンデレです。

気付いたら、影からじっと見つめてくるんで不気味です。

最初は素っ気無かったくせに、段々愛想が良くなって怖かったです。

鬱陶しいと思うこともありました。

ニコニコ笑ってるのに目が笑ってなかった。

なんか体の中まで見られてそうな目で気味が悪かったです。


『風の精霊王』様のこと好き過ぎなのは分かりますが、彼女の話をする時にうっとりするのはどうかと思いました。

タイチさんは、彼女の旦那さんと子供さんも好きだったから、彼女のことは諦めてるっていってましたけど、全然諦めてないように見えました。

蹴っても殴っても、罵っても喜ぶって何処のドMさんですか!



「いえ、あのね。私、そこまで言っていないわよ?」

ルーチェ様の、あまりな言葉に頭の糸がプチーンという音をたてて切れた私は、椅子から立ち上がって拳を握りしめて、喉が痛くなりそうな声を張り上げています。

ルーチェ様の顔が引き攣っていようが、今の私には何も見えていません。




でも!

もしも本当にタイチさんが言っているように、『風の精霊王』様のことを諦められたというのなら、プルート様はとてもお強いくて、優しい方だってことです。

だって、あそこまで愛していらっしゃる方を、その幸せを願って諦めることが出来る人そうそういません。大好きな人に選ばれた旦那さんを好きになれる人もそういません。お子さんを可愛がってあげれるのも凄いことです。

優しくて、心が強い人じゃないと出来ないことです。


暗い?

闇を司ってるんですから、しょうがないじゃないですか。

闇を司る人のくせに、めっちゃ明るくてハイテンションな方が不気味です。

滅多に話さない?

夜を司る方なんですから、静かにして頂かないと困ります。安眠妨害になるじゃないですか。精霊は分かりませんが、人間は夜にゆっくり休まないと死んじゃうんです!

何を考えているか分からない?

考え駄々漏れの方が問題有りまくりです。下っ端の脇役ならともかく、一番偉くて指示を出すような人が考えが丸分かりな人だったら、敵に出し抜かれたり、侮られたりしますよ?


何かに執着し続けることが出来るってことは、一途で、自分をしっかりと持っているってことです。




もう、ゲームの中、今ある現実、人から聞いた話、ごっちゃ混ぜです。




一番に理解して支えてあげるべき、精霊王である貴女方がそんな風にプルート様に酷くあたったりするから、プルート様がああなってしまったんじゃないんですか?

御兄弟がしっかりとしていれば、少なくとも友達になるってだけで大喜びするような人にはならなかったはずです!





パンッッパンパン


ハッと気がつくと、目を大きく開けて驚いていらっしゃるルーチェ様が、手をたたき合わせて、拍手していました。


ルーチェ様が、にこやかに人の良さそうな笑顔でプルート様を悪く言っているのを聞いて、つい口が滑りました。

だって、皆がそう思うのが当たり前だと決め付けて、プルート様にお仕置きを加えようというのは何か違う気がするんです。

まぁ、面と向かって断るでもなく、無視したりと拒絶することのせずに、逃げるという選択肢を選んだ私が言えたことでは無いですが。



「申し訳ありません。プルート様は、前世の知識もあって闇を怖がらない私が珍しくて、『風の精霊王』様の話が出来る私が楽しくて、興味を覚えただけだと思います。

クロノスさん達に言われた通り、しばらくお会いしないようにして、興味をなくされた頃に謝罪しようと思っています。

なので、お仕置きなんていう話は必要ないことです。

お話はそれだけでしょうか。

それだけでしたら、仕事に戻りたいと思います。」


侍女服の裾を摘んで、頭を下げる。

先ほどの無礼なものいいと態度を許して頂けないかもと顔は強張っているが、その時はその時だと覚悟は決まっている。


「いいわ。

 気に入った。

 今日はもういいけど、また遊びにいらっしゃい。ダイエットの話もしたいしね。」


テーブルの上に肘を立て、組んだ手の中に顔を置いたルーチェ様が鮮やかに、先ほどのものよりも美しい笑顔を浮かべて、片目を一瞬つぶってウィンクした。

ホッと息を吐いて体の強張りを解いた私は、高位精霊たちが開いてくれた扉を潜って、『光の精霊王』の部屋を後にする。

バクバクとなる心臓に手を当てながら、肖像画に見下ろされながら、仕事場であるフレイ王女の部屋へと足を急がせた。





「ふ、ふふふ。

 とっても良い娘ね。良い娘。」

リリーナが去った部屋の中で、彼女を見送ったままの姿で肩を震わせてルーチェが笑っている。その姿に呆れながら、ルーチェの背後の壁に控えていたアウローラが、部屋を横切り、壁に垂れかかったカーテンを開き、そこに隠されていた簡素なドアを叩いてコンコンと軽く音を鳴らした。


ドアが内側に開いて、真っ暗なドアの中から『闇の精霊王』プルートが姿を現した。


白を基調とした部屋の中で、一際浮いて見える真っ黒な装いで、プルートは静かに進み出た。



「どうするの?彼女の考えは逃げる一択みたいだけど?」

首を傾けてプルートを見上げた。

「随分と、貴方のことを考えてくれているようだけど、辛辣なこと。」


「知ってるよ。彼女は何時も、僕のことを考える時は辛辣だった。そして、僕なんかに同情してくれたんだ。可哀想だって、前世では涙を流してくれていた。とても、優しい子だよ。」

生まれた時から永い付き合いであるルーチェでさえ、滅多に、いや見る事が無かった満面の笑顔で、プルートはリリーナが出て行った扉を見つめている。

「やっぱり。人の心を覗くのは止めなさい。失礼だし、もしもの時に傷つくのは貴方なのよ?」

「リリーナだからだよ。彼女の心は欺瞞でも愚鈍でもなく、清清しい程に純粋で自分に正直だった。心地よかったよ。」

「・・・・・まったく。」

プルートの友人になったタイチもタグも知らないだろう。クロノスも知っているかどうか。『闇の精霊王』が人の心を覗けることを。夜を司り、それに纏わる眠り、夢をも司っている闇は、夢に通じる心にも干渉する事が出来る。とはいっても、心に干渉するということは扱いが難しく、ヘタをすれば干渉した心を壊してしまいかねない。その力は精霊王と高位精霊だけが扱えるものだった。その為、人々がその事実を知ることはなく、人の心に興味を持たないプルートたちにその力を使う機会が滅多にないことで精霊でさえも知るものは少ない。


プルートは全て気付いている。リリーナの心を覗いたことで全てを。

リリーナがプルートをどう思っているか。

プルートの好意を恐れて、タイチたちと画策して逃げようとしていることも。

けれど、プルートは怒りを覚えることなく、逆に喜んでいた。

タイチも、クロノスも、そしてリリーナも。

プルートを極力傷つけない為に、それらをしようとしている事を知っているからだ。



「諦める様子はないわね。」


「諦める?どうして?彼女は心の底から僕を嫌ってるわけでも嫌悪しているわけでもない。そして、彼女の心を知った後でも、僕が彼女に嫌悪を抱いたわけでもない。むしろ、僕の心はとても温かなものに包まれているよ。

でも、どうしようか。

逃げる、なんてされた事がないから。どうすれば彼女に振り向いてもらえるだろうか。」

かつて愛した『風の精霊王』は、プルートに対して逃げるなんて絶対にしない人だった。むしろ、立ち向かってくるような人だった。プルートはそれを真っ向から受け止めるということを繰り返していたから、始めから逃げていくリリーナをどうやって追いかけるべきか、頭を悩ませた。


「うちの息子の嫁が言うには、どうしても結婚したいと思ったら、押して押して押しまくって突き落とすってするといいって。それで、うちの息子と結婚したって言っていたわね。」

私が知っている方法はそれくらいよ、とルーチェが笑う。

母以上の人でないと、と婚期を逃しまくっていたのに焦らない息子に嫁いだ嫁は、ルーチェとは正反対の、哀願動物のようは姿形に剛毅な性分を宿した女だった。

「そうか。・・・参考にする。」


「ふふふ。貴方が素直に返事をするなんて。それに、素直に招待に応じたことにも驚きよ。これからも、もっと会いに来てくれてもいいのよ?リリーナもいるのだし。」

「リリーナに会いに来ることはあっても、ここには来たいとは思わないよ。」

リリーナを思って顔を綻ばせていたプルートだったが、からかい混じりに声を上げたルーチェには冷たい眼差しを落とした。


「頑張ってね。」

可愛い弟の味方なルーチェ様。


忘れられがちだが、悪友の中で最年長なプルート様。一つ上手なところもあるんです。

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