意外すぎます。
「突然呼び出してしまって、すまなかったわね。」
失礼ですが、そんなに細いわけではない、油断するとダイエットが必要となる体型の私が三人程横に並ぶ必要がある、ボン・ボン・ボンなお体をゆっさゆっさと揺らされて歩いてこられる方が、もしかして、もしかしなくても、『光の精霊王』ルーチェ様なのでしょうか。
艶はないものの黄金の波立つ髪や、まっすぐに向けられる強い力を含んだ黄金の目は、確かに『光の精霊王』といっていいものでしょう。
ですが、ギリシャ神話のアポロンとか日本の天照大神とか、某小説の麗しき太陽神とか某漫画の光の大精霊とかを扉が開くまで想像していた私は、目の前にいらっしゃる方と『光の精霊王』という肩書きを一致させるのに大分時間がかかりました。どちらかというと、前世でよく観ていた世界の驚く映像を紹介する番組に出てきた、某世界の秩序たる大国の、自力で歩けなくなった体型の方が結びつくのですが。
いえ。駄目ですね。どんな姿であろうと、何か深い訳があるはず。これもきっと、この世界の人々が思い描く光がこうなのでしょう。
「ほらぁ、リリーナ嬢ちょー驚いてんじゃん。だから、いい加減痩せろって言ったじゃないですか、御主人様。」
白い服の前を肌蹴たチャラそうな少年が、間延びした声で冷たい目をルーチェ様に向けている。
「あっ、俺は光の高位精霊第四位。リュシオン。よっろしく。」
ルーチェ様相手にそんなふうにしてもいいのかと、私が見ていたのに気づいた少年が手をヒラヒラと振って笑顔を見せてくれました。
「痩せるねぇ。面倒くさいわぁ。」
「毎日ゴロゴロしてお菓子食べて、ゴロゴロしてっていうのを止めたら、すぐ痩せますって。クロ様の計画も最終段階に入ってるんですから、痩せてババーンと皆の前に姿見せましょうよ。」
そんな生活なら、そりゃあ駄目ですよ。
って、精霊もそんな理由で体型が変わるんですね。
「あっ。異世界に、何かいい痩せる方法って何かないの?」
「・・・・間食を止めて、散歩などの適度な運動、野菜などを中心とした食事ですか?寒天とかは試したことがあります。あとは・・・」
少年だけでなく、ルーチェ様や部屋の中にいた他の光の高位精霊様たちにまで期待の篭った目で見られ、前世で聞きかじったダイエットの話を語っておきました。
あの後。
部屋にいた全員で顔を突きつけあって、様々なダイエット方法のどれを試すのか、どういった計画でやっていくのか、などを決めていきました。
熱く語り合って、気づいた頃には、大きな窓から覗く太陽が空の一番高い場所にありました。
あれ?
私の今日のお仕事はどうなったのでしょうか?
「ご安心下さい。陛下に、痩せる方法に詳しいリリーナ様にお話を聞きたいと伝えたところ、喜んで手を回してくださることを約束してくださいました。」
温かなお茶をカップに注ぎながら、微笑みを向けてくださる第三位のミロワール様。
それって、それだけ皇王陛下もルーチェ様の体型について考えることがあったということではありませんか?明日から、仕事中だろうと侍女仲間や貴族の女性たちに色々話を聞かせろと言い寄られそうですね。嫌な予感に背筋が凍ります。
「今日、貴女と呼んだのはね。聞きたいことがあったからなの。」
小さなテーブルを私とルーチェ様が囲んで座ります。机の上にはお茶が注がれたカップが二つ。ダイエットの為に、お茶菓子も砂糖やミルクもなしです。
「貴女がクロの計画に協力してくれるのは聞いているわ。私も協力者の一人。お礼を言わせてもらうわ。私がどういう風に計画に関わっているかは、クロに御願いされているから今はまだ内緒なのだけど、貴女がしていることに協力する余裕はあるから、何時でも相談して頂戴ね。」
人差し指を口元で立てられ、左目を一瞬つぶってウィンクしたルーチェ様。
さっき、リュシオン様に見せて頂いた、初代様を拾われた頃の御姿を写された肖像画。その高貴で麗しい美女の姿でなさったら、様になりすぎて女である私でさえ見惚れてしまうことだろう。そりゃあ、あんな美女に手を差し伸ばされたらクラッとしちゃいますよね、初代様。分かります。
「貴女に聞きたいことっていうのはね、プルートについてなのよ。
クロに聞いたのだけど、あの子貴女に目をつけたらしいわね。
大変でしょう。あんな性格だもの。気が長い私たち精霊でさえ、嫌気がさすもの。
人である貴女には耐えられるわけがないわ。」
なんだか、とても棘がある言葉を綺麗な笑顔で吐かれる。
「本当に、鬱陶しい子だわ。昔からそうなのよ。暗いし、何を考えているか分からないし、滅多にしゃべらないし、だというのに物陰からチラチラ見ているし。ちょっとしたことをネチネチとしつこいし、頑固だし。きっと、貴女があの子に関わって疲れていると思って話を聞きたいと思ったの。言って頂戴。貴女の話次第では、私があの子を仕置きしてあげる。」
「そういう言い方は無いと思います。」
あぁぁ。あんまりなルーチェ様の言い方に、口が滑りました。
だって、ニヤニヤ笑いながら言われるんですよ?
同じ精霊王、兄弟みたいなものじゃないですか。なのに、こんな風に言われるなんて!!




