悲しい夢
可のなく不可もなく、プルート様には無事何事もなく部屋まで送って頂きました。
部屋に帰った時には夜もすっかり更け、侍女仲間たちの部屋からは明りがすっかり消えているような時間でした。
確か、昨日の仕事終わりに連れて行かれましたよね、私。
一回も寝た記憶がないのですが?
知らず知らずの内に貫徹しちゃいましたか?
ずっと昼も夜も分からない、薄暗い冥府だとか闇の城だとかに居たせいで、すっかり時間間隔がおかしくなっていたようです。
貫徹していたというのに疲れも感じておらず、それもあって数時間しか経っていないように感じたのでしょう。よく考えれば、話を考えて書くという行為を複数分行っているのです、数時間しか経っていないわけがありません。
あまり疲れていないように思えますが、明日は仕事です。
さっさと眠ってしまおうと、寝る準備をして、ベットに潜りました。
・・・・・・
裏切る?
何を言っているんだい、君は。
僕は始めから、彼女だけの為に動いていたんだよ?
これは確か、ゲームの一場面。
『風の精霊王』が堕ちた邪精霊と戦う直前。
世界の混乱の原因が綻びかけた封印の中から漏れ出る『風の精霊王』の仕業だと突き止めたアリシアたちが、封印を強化する為に全ての精霊王の力を集め、封印の間に駆けつける。アリシアたちが天空の島に降り立った時、忍び寄ってきた『闇の精霊王』が精霊王たちの力が込められたアイテムを奪い去り、封印を強化するのではなく解除する為に使ってしまった。
これは、ボロボロと封印が崩れて、ゆっくりと蓋が開いていうく棺の前に立った『闇の精霊王』と話をするという場面だ。
その名で呼ばないでくれるかな。
気持ち悪い。
僕の名をつけて欲しいのは、彼女だけなんだから。彼女はそれを受け入れてはくれなかったけど、ね。あぁ、どれだけ、どれだけ!この時を待ったのか。封印の中に眠る君を見つめ続けるのも幸せだった。君との思い出を思い出すだけで幸せだった。この世界で君のことを考えているのが、覚えているのが僕だけだと考えるだけで魂が震えるほど幸せだった。
でも、やっぱり動いて笑って、涼やかな声で笑う君こそが、僕の愛した君のあるべき姿なんだ。さぁ、早く、早く、はやくはやくはやく!その愛らしい姿をまた僕に見せておくれ!
好感度がある程度上がると、名前を持たない精霊に名前をつけてあげることが出来るっていう選択肢が出てきた。その中で『闇の精霊王』は比較的簡単に名前をつける選択肢が出てきた部類だった。それも、『風の精霊王』の封印を解く為に信頼を得ようとする布石だったと後から分かるのだが。
この『闇の精霊王』の狂ったような笑顔の映像が流れた後、邪精霊となった『風の精霊王』が登場し、有無を言わさずに戦闘することになった。
誇り高く、美しく笑う『風の精霊王』の姿のスチールと、邪精霊となりボロボロな姿で狂った笑いを浮かべるスチールが交互に写る。そして、うっとりと背後から彼女を抱きしめて笑う『闇の精霊王』。
どうして。どうして。
あぁ嫌だ。いやだいやだいやだ。
僕から彼女を奪うのか!
僕のたった一人の人を!
『闇』を受け入れてくれる唯一の人を。
僕を切り裂こうとしない、消そうと傷つけない、無視したりしない、暴こうとしない。ただ、僕を僕として受け止めてくれる彼女を。
戦闘が終盤になり『風の精霊王』が消えかけると、涙を流して睨みつけてくる『闇の精霊王』の怒号が差し込まれる。
戦闘が終わって『風の精霊王』が消えた後、呆然と佇む彼にアリシアが声をかける。三つある選択肢の内ある一つを選ぶと、彼は『風の精霊王』の後を追うという終わりを迎える。あとの二つは「アリシアに慰められてアリシアを受け入れる」と「アリシアに憎しみをぶつけて姿を消す」というものだった。
書き手さんの中には、せめて創作の中だけでも二人を幸せにしてあげたいと、闇×風を作る人もいて、泣ける話が多かったことを覚えている。
まぁ、一番多かったのは結ばれることなく片思いで終わるっていう不憫系だったのだけど。それは、それで泣けた。
でも、この世界ではプルート様には友達がいるんだし、少なくともゲームの中よりは幸せなのは考えなくても分かる。良かった。声優さんが張り切ったせいで泣けて泣けて、初見では戦闘に身が入らなかった人間としては、もう二度とプルート様の怒号とか泣き顔とかは見たくないんです。
・・・・・・・・・・・
プルート様から、どうやって逃げ切るかって考えて寝たせいか、彼が夢に出てきてしまいました。しかも、よりにもよって彼に同情してしまうような夢の内容でした。
しっかりしなくては。
人間の短い人生。ヤンデレに関わるのはヤバ過ぎます。
綺麗な顔を拝めて、眼福な夢だったくらいにしておかないと。
「おはようございます。」
ベットにもぐりこんだまま、頭に手を押し当ててしっかりしろと自分を応援した。ふと、カーテンから差し込む朝日の柔らかい光が目に入り、何故か気になって仕方がなく、光が差し込む場所に顔を向けた。
朝日の光が差し込む中に、真っ白いドレスを纏ったアウラ様が姿を現れました。
にっこりと微笑まれたアウラ様。
呆気にとられていた私でしたが、朝の挨拶を送られたことで、慌ててベットから飛び降りた。
「おはようございます、アウラ様。
何か、御座いましたでしょうか?」
「朝早くにゴメンなさいね、リリーナ。
わたくし達の主人、『光の精霊王』ルーチェ様が貴女にお会いしたいと仰っているものだから。」
アウラ様が、にこやかに爆弾を落として下さいました。
精霊でさえも顔を忘れてしまったっと苦笑いを浮かべていると書物に書かれているくらい昔から、人前に姿を見せず、引き篭もりを続けていらっしゃる『光の精霊王』様が、私ごとき侍女に何の用があるというのでしょうか。




