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   気づいたからには回避しましょう

「お茶、用意出来たよ?」

プルート様が戻っていらっしゃたのは、タイチさんたちとの相談が終わってすぐ後のことでした。


扉を開けることなくスゥッと入ってきたそのお姿は少し不気味だったとは言えず。何故なら、お盆の上にティーポットとカップ、クッキーが並べられたお皿を乗せて、笑顔を浮かべているその姿は、褒めて褒めてと近寄ってくる犬のようで。


「すまない。随分待たせたよね。お茶なんて飲むことないから用意が無かったんだ。地上まで手に入れに行っていたから時間がかかってしまった。」

そう言って、ポットから紅茶を注いだカップを手渡してくださいました。

いえ。普通に準備していらっしゃるとばかり思っていました。お湯を沸かしたり、そういうことをしていれば普通にかかる時間内だと思いますよ。

この城から出て、紅茶などを買いに行っていたなんて想像もつきません。


「おい!俺達の分はねぇのかよ!」

「リリーナだけってのは、随分だな。」

床に座り込んでいる私の目の前、床に置かれた本の上に腰を下ろしていたタイチさんと床の上で胡坐をしていたクロノスさんが、プルート様に文句をつけています。

いわいるヤンキー座りという奴で睨みあげている様子は、本当にガラの悪い・・・こういう人、時折見かけたなぁと懐かしく思います。テレビではもういないとか言っていましたが、田舎ではよく見かけたんですよねぇ。

ユージェニーさんは、プルート様が私とタイチさんとユージェニーさんが乗っている本の間に置いたお盆に飛び乗り、お皿に並べられたクッキーの一枚を手刀で割って手頃な大きさにして食べていらっしゃいます。

ユージェニーさんの大きさでやると、まんま瓦割りですね。迫力満点です。



「君達が使えるカップなんて無いだろ?

 今、買いに行ってきた店でも見なかったよ。」

って、もしかして一式買いに行かれたんですか?地上に・・・

「買いに行かれたのは、お茶葉のことではなかったのですか?」

「そもそも、精霊に飲食は必要ないからね。娯楽とか暇つぶしとか、人間に合わせてみるとか、そういうことで飲食をすることもあるけど。この城で何かを食べたとか飲んだってことは無いね。・・・君が初めてだ。」

は、初めて頂きました~

って、頬を染めないで下さい。あんた、乙女ですか!?

「・・・み、皆さんのサイズだったら人形用のものを使えば丁度いいんじゃありませんか?」

「そんなものがあるの?」

口元押さえて笑わないでもらえませんか、クロノスさん。これって不可抗力ですよね。私何もしてませんよ?タイチさんがチョロイって言うのがとっても良く分かる沸点の低さですね。

「私がお仕えしているフレイ王女がお持ちでしたよ?お人形が使うのに丁度いいサイズの食器とかお洋服とか。ちゃんと陶器で出来ていたので、使用しても問題ないと思います。お洋服も色々なものがありましたから、今度お持ちいたしましょうか?」

王子様風のとか、騎士風とか、ユージェニーさんには女王様風かな?

「そうだね。これから、しばらくの間はこのままなのだし、色々あっても困らないだろうね。それに、君も来てくれるのだし色々必要なものは用意しなくては。」

頭の中で、クロノスさんの王子様風とかタイチさんの着崩した騎士風とか、ユージェニーさんのハートの女王様とかを思い浮かべて、ちょっと興奮していましたら、プルート様問題発言第二段がきました。

「いえ、いえいえ!そんなことして頂くなんて、御迷惑はかけられません。必要なものなんて全然ありませんから!」

「そう・・・なのかい?」

しょんぼりされても駄目ですから!

負けてはいけませんよ、リリーナ!

子犬のような表情を見せていたとしても、この方の性質はよく知っているでしょ! ヤンデレもストーカーも、見ているだけでお腹満腹!関わるのはNGです。

「だけど、タイチたちの食器とかは必要だよね。」

なんで、そんなに立ち直り早いのですか。

「そうだな。リリーナ、今度来る時持って来いよ。」

「えぇ、分かりました。他にも人形用のもので良さそうなものがありましたら、お持ちしますね。」

タイチさんが助け舟を出してくださいました。

これって、もしかして「一緒に買いに行こうか」って繋がる感じだったのでしょうか。

タイチさんが助けてくださらなかったら、うっかりデートする事になっていました。

グッジョブです、タイチさん。その横で笑うのを我慢しているクロノスさんよりも頼りになります。兄貴ってやつですね。

「明日は仕事もありますので、そろそろ帰りますね。

プルート様、ご馳走様でした。」

これ以上、何処にあるのかも、何で反応するかも分からない地雷を踏む前におさらばさせて頂きましょう。

最後の一口を飲み込み、カップをお盆の上に返した。

「リリーナ。食器も無かったこの城に洗い場なんてあるわけないだろうから、これ持って帰れよ。」

ユージェニーさんが手刀で割った最後のクッキーを食べ終わったタイチさんが、お盆に乗った食器を指差します。

「そうですか?・・・そうですよね。使うのは私だけなのですから片付けくらいしないといけませんよね。」

確かにタイチさんが言うことはもっともですね。プルート様が洗い物をしている様子も全然想像もつきませんし。

お盆を持って立ち上がりました。

さて、どうやって帰るのかしらと今更ながらの考えに頭を捻っていると、プルート様がソッと手を差し伸べて、私が持っているお盆を取り上げてしまわれました。

「洗い場くらいあるから、任せてくれて大丈夫だよ。それに人間の中では、何事も経験だというのだろう。」

「で、でも・・・」

「それよりも、早く帰らないと明日が大変だよ。僕が送っていくから。」

まぁ、良い笑顔ですね。

気づかれないようにタイチさん達に視線を送って助けを求めましたが、目の前で腕を交差させてバツ印をつくって、口パクで何かを言っています。

《これは あきらめろ きをつけて かえれ》


うっかり、変なことを言いませんように。

部屋に帰るまでが戦いです。

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