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   ようやく気づいた・・・完全に

世間話ですよ、本当にただの世間話してたくらいなんですよ?


あの冥府となる地下空間でのこと。

薄暗い広い空間で、机と紙、ペンを用意され、さぁさぁ好きに作業してくれといわんばかりに放置されました。目の端には、ボーっと突っ立っているようにしか見えないプルート様が写る中、指示された通りに

脳内の神話やら何やらを引っ張り出して話を作っていた私。

でも、でもですよ?一人っきりの自分の部屋とかでなら無言で、いや鼻歌を歌ったりブツブツねたを口ずさみながらなので本当は無言でってことは無いんですが、一人なら問題はなかったのですが、チラチラと自分以外の存在が写りこむ状態で独り言は無理ですし、鼻歌も無理です。だけど無言は気まずくて気まずくて、そういうことってありますよね?


何となく、不穏な感じをタイチさんから受けました。

絶対勘違いしている気がするのですが

言い訳がましいですが、本当に世間話をしただけなんです。


「あぁそうだなぁ。確かに、そりゃあ気まずいわな」

「ですよね。そうですよね!」




話掛けてきたのはプルート様からでした。

気まずいは、神話を組み合わせるとはいえ舞台設定を考えるのは面倒くさいわで溜息をついた私に、「疲れたのか?」と声を掛けてくださいました。

「いえ、いえいえ。そういう訳ではありません。

それに、私なんかよりも『闇の精霊王』様の方がお疲れじゃありませんか?気づかれないように空間を広げるなんて、人間の私には想像もつかないくらい大変な筈ですもの」

なんか、前世で好きだった漫画にそんなキャラがいたよなぁなんて思いながら返事を返しました。

「疲れる?そんなことは感じたことがないな。」

「そうなんですか?やっぱり精霊と人では違うのですね」

「他の精霊については分からないけど、僕は全ての闇を司る王だからね。」

「そういえば。冥府には精霊は訪れないのでしょか?文献などで精霊が死んだなんていう話を見たことがあるのですが?」

「精霊は力を使いすぎると消えて自然の中に還っていく。『高位』や『上位』、あと例は無いけど『王』も消えた後に核が残り、そこから次が生まれてくる。珍しい文献もあるんだね。僕でさえ二・三度しか見たことないよ、精霊が消えることは。」

そいわれた思い出すと、その話が書いてあった書物は、前世でいえば白い手袋をしてピンセットで捲るような、とても古くてボロボロな状態だった。内容は面白くて興味深くて、息を極力しないようにと読んでいて、凄い顔だと兄弟たちに笑われたのを一緒に思い出す。

「なんだが、読むのも怖いくらいにボロボロの書物でしたね。」

「じゃあ、タイチが印刷技術を作ったばかりの頃かな。あの時なら、風の第五位についてだろう。」

「風の第五位ですか?」

そんな事は書いてなかったと思います。精霊が死ぬのを見たということと、最後には宝石が残ったってことくらいですね。

「『火』と『水』が彼女に攻撃した時に、風の第五位は彼女を庇って核に戻った。その直後、彼女は封印されたんだ。第五位の核は、封印後に新たな風の第五位を生み出したはずだよ。」

書いてあった宝石が核なのですね。

「はず、ですか?」

「興味が無いからね。」

興味ないんですか?『風の精霊王』の部下の方なのに?

「核から精霊はどのように生まれるのですか?」

「その精霊が司る属性の場所に核を置いてんだ。そうすると核に力が集まり、十分な力が溜まれば精霊が生まれる。消えた精霊とは姿形も性格もまったく違うものになる。」

「それでは、『風の精霊王』様が封印から目覚めた時には悲しまれますね。会った事もない部下の方を目にされたら。」

「・・・・そうだね。悲しむだろう。彼女は優しい人だったから。」

自分のせいで死んでしまった部下の立場に、まったく違う存在がいたら、その事実を突きつけられるようで悲しいし苦しむだろうなと軽い感じで口にしてしまいました。

でも、プルート様はその様子を『風の精霊王』で思い浮かべたのか、少し泣きそうな顔になっています。か、感受性が高いっていうのでしょうか?


その後は、普通に「好きな色」とか「休日は何をしている」とか「どんな本を読むのか」とか、そういう質問をしあったりとか、話をしたりとかしました。

気まずい状況もなくなったので、話ながらでも手はスラスラと動きました。

やっぱり、仕事の環境って大事なものですよね。





「おい、それって見合いの席みたいになってねぇか?」


途中まで、うんうんと相槌を打ちながら聞いていてくらたタイチさんが、頭を抑えていらっしゃいます。


見合い、ですか?

あれですよね。「まぁまぁ、あとはお若い方たちで。ホホホホ」っていう、おばさんが言って部屋を出て行くやつ。


「趣味聞いたり、好きなもの聞いたり、んなもん見合いの席で聞きあうことだろ。確実に、目ぇつけられてんじゃん。」

タイチさんが笑い声を上げているんですけど、そんなこと仕事仲間とか友達にも聞くようなことですし、気をつかってくれたのかも知れませんし・・・

「あいつにそんな気遣い出来るわけあると思うのか?他人に関わったことなんて、ほとんど無いようなボッチだぜ?クロとタグと俺が始めての友達とか言っちまうような、な。

あぁそういやぁ、俺があいつの友達認定された時があんまり強引な感じだったから、俺とタグで教育したんだった。

仲良くなりたいと思ったら相手と会話を交えて、相手がどんな人間が知れよ。そして自分の事も少しは知ってもらって、相手が拒否らなかったら、そこから話を深めていけって言ったことがあったような、ないような・・・

いやぁ、世間知らずのボンボンに色々教え込むのは面白かったから、他にも色々言った記憶があるな。」

随分と、友人をボロクソに言うのですね。こういうのが悪友というのでしょうか。ドキドキ。いい言葉ですね、悪友。

「つ、つまり・・・」

「お前、どう考えても「話を深めていく」段階じゃねぇ?

この部屋に来る時も随分時間かかったみたいだし。あいつに、ここに向かう廊下の空間弄られたんだろ。」


「えぁ、でもプルート様は『風の精霊王』様一筋ですし!?ここに来る時も、あの時も、『風の精霊王』様を思っていらっしゃってましたし。」


「えっ?あれ、お前知らないのか?聞いてねぇの?

あいつ、もうふっきってんぜ『風の精霊王』。旦那と子供のことも大好きだし。」

聞いてません!!

えっ?何ですか、それ。シナリオとの差が大き過ぎませんか?

旦那さんと子供さんって誰?

居ませんでしたよね、ゲームには。




「・・・こりゃあ・・・悪質じゃねぇか?」

パニッくっている私には、そんな声は届きません。

「なあ、助けてやろうか?

同郷のよしみもあるし、あいつを焚きつけているのも俺たちみたいなもんだしな。

あいつから逃がしてやろうか?」


傍から見るから、ヤンデレうま~執着ストーカーうま~なのであって、自分が好かれるなんて想定外な私は、その言葉が救いの手、蜘蛛の糸のように見えました。

それぐらいのパニック状態です。

まさかリリーナに対プルートでの最低限以下の情報しか与えてないとは知らなかったタイチさん。

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