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   冥府の話

世界の何処かにある洞窟に冥府への入り口はある。

死を迎えて肉体を離れた魂が飛び込んでいく暗い洞窟の入り口は、大きな岩で塞がれている。

昔は、入り口に岩は無く、時折生者が冥府に迷い込むことがあったという。


ある時、世界中を巡り人々に救いの手を差し伸べる『旅の精霊』が近くの村を訪れた。けれど村は大騒ぎの真っ只中だった。好奇心の強い村の子供たちが日が暮れても帰ってこない。洞窟の近くで遊んでいるのをみた者がいた。探してみれば洞窟の入り口で倒れている子供たちがいた。洞窟に吸い込まれていく死者たちに、冥府へと連れて行かれてしまったのだろう。

子供を思って泣き喚く母親たち。

村人たちは恐怖に顔をそめていた。


「死んだくせに悪さをする死者がいるものだな」


村人たちは、洞窟の前に進んだ旅人に驚いた。


「こんな時に通り掛かったのも何かの縁だ。子供らは連れ戻してやるよ。」


そう言って、旅人は洞窟の中へと入っていった。


旅人は風の精霊の力を借り、洞窟の中を下っていく真っ暗な坂道を飛び降りていく。

人間の足で進むとなると一月以上はかかってしまう道のりを進むと、ゴツゴツとして岩肌が続いていた壁や地面が、整地されたものとなり、タイルやレンガが敷き詰められたものとなっていく。

坂道が終わり平坦な道になると、大きな川が見える。

対岸の人影が小さく見える程大きな川を、死者たちが腰まで水に浸して黙々と列を成して歩いて行く。

死者たちを川へと導いているのは一人の老婆。


「おっ、いたいた。」


入り口で魂を失っていた子供たちが今まさに足を水に入れようとしていた。


風の精霊に命じ、6人の子供たちを風で絡め取らせ足止めをさせた。

驚いたのは、老婆と助けられた子供たちだった。

他の死者たちは列を乱されたというのに、ただ黙々と川へと進んでいった。


「危なかったなぁ~。

この川は、裁きの判別に使う死者たちの生前の記憶を剥ぎ取る『レテの川』。ちょっとでも足を入れていたら大変なことだ。上に帰るのも出来なかった。」


『旅の精霊』は子供たちを連れ、地上に戻ろうと来た道を振り返る。


「お待ち、クロノス様!死者たちを地上に戻すなんて許されるわけがなかろう!」

老婆が叫んで子供たちを引き戻そうとするが『旅の精霊』がそれを許さない。

「こいつらは死者の悪さで連れ込まれだけの生者だ。

寿命も来ていない、地上に戻すべき子供だ。

女王には後から俺が説明するから、今は黙って子供等を地上に返せ。」

『旅の精霊』の一喝により老婆はその手を引いた。


「さぁ、風の力で地上に帰るぞ。しっかりと俺に掴まっていろよ?」


「ここは何処?」


先ほどまで、他の死者たちと同じように、光を宿さない目でただ黙々と前に向かって歩くだけだった子供たちが地上に戻れると聞き、『旅の精霊』にしがみ付くことで、その目に光を取り戻した。

風の精霊の力を借り地面から足を離した『旅の精霊』と子供たちは飛び上がり、地下に広がった冥府を見渡せる程の高さになると、子供たちから疑問の声が上がった。


「ここは『冥府』。運命を終わらせ肉体を離れた魂が訪れ、次に向かうよう裁きを受ける場所だ。」


『旅の精霊』は地上に向け移動しようとする風を一端止め、子供たちに冥府の各所を指さして説明した。

「さっきお前たちが渡ろうとしたのが、最初に死者たちが渡る『レテの川』だ。ここで、死者たちは生前の記憶を洗い流して剥ぎ取る。」

先ほどまで居た川岸を指差した。

「あのばあさんは、その剥ぎ取られた記憶を集めるのを役目にしている。

集められた記憶は川を上がった先にある八つの裁判所へと送られる。」

川の対岸から少し死者たちの列が続いた場所に、次々と現れる八ヶ所の建物が見える。

「まず最初の裁判所では、罪無き者・罪を犯した者・大罪を犯した者を分ける。

ここで『罪無き者』は、幸せな運命を約束され転生するか、冥府の奥深くにある『楽園』でしばらくのんびりするかを選ぶ。

軽犯罪や過ちを犯したとされた『罪を犯した者』は、残りの七ヶ所の裁判所で『傲慢』『貪欲』『嫉妬』『憤怒』『暴食』『色欲』『怠惰』の罪を審議され、それらで下された裁きによって次の人生で歩む運命を決定され転生することになる。そうだな、人を裏切った奴は裏切られて苦しむ運命を約束されるっていう感じだな。

自分の意思で他人を脅かす罪を幾つも犯した『大罪を犯した者』は、そのまま『地獄』へと送られる。死にたいと思うくらいの苦しみを赦しが与えられるまで受けることになる。」

そして、8つの建物の先に指を向け

「あそこに見える大きな城があるだろう。

あれが、冥府を治める『冥府の女王』の住まいだ。全ての裁判の記録が女王によって確認され、認められた死者から転生していく。『楽園』に住む者たちも『地獄』に送られた者も、女王の意思によって転生するかどうかが決められる。

本当に恐ろしい方だ。でも、温情ある人だから、生きている内から色々と祈りを捧げていれば少しは裁きを和らげてくれるかも知れないぞ?」

城の先には、褐色の肌をさらした一帯と、花草や光に溢れた一帯が遠く見える。

それが『地獄』と『楽園』なのだという。


一通りの説明を終えると、『旅の精霊』は地上へと駆け上っていった。




「ほら。子供らは連れてきたぜ!」


洞窟から地上に飛び出た『旅の精霊』の周りを飛び回る六つの光の玉。

それらは母親や父親が泣きついている子供の体に吸い込まれていった。すると、息をする事も鼓動も失っていた子供たちの体が熱を取り戻し、深く息を吸い込み始めた。


「生き返った!!!」

「あぁぁ!!良かった!!」


「これに懲りたら、ここの近くに無闇に近づくなよ?

っていうか、このままだと危ないな。

入り口を塞いでおくか。塞いであろうとなかろうと魂の状態には関係ないしな。」

歓喜の声をあげる村人たちを背に、『旅の精霊』は腕を振るった。

すると、近くの地面が砕かれ大きな岩が掘り起こされ、その大岩が浮かび上がり、洞窟の入り口をぴったりと塞いでしまった。

「これで大丈夫だろうな。」


「あ、ありがとうございます。

 この御恩は決して忘れません。どうか御名をお教え下さいませんか?」


村の長が深々と頭を下げた。

「何、気にするな。俺はたまたま旅の途中でふらふらと通りかかっただけの精霊だ。」

『旅の精霊』はそう言うと、自分が置いた岩の中に体を沈めていった。

「あっ、お待ちを!」

「いやいや。早く女王に説明しに行かないと後が五月蝿いからな。」


こうして『旅の精霊』は立ち去り、後々子供たちから全てを聞いた村人たちは彼が各地で逸話を残す『旅の精霊』であることを知り、洞窟の先にあった死者が裁かれる冥府の存在を知る事になった。

『冥府』の存在は、村から街、町から国へと広がり、人々は死後の裁きを恐れ、『冥府の女王』に赦しを乞う祈りを捧げるようになった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「こ、こんな話でどうでしょうか?」

用意されていた机に向かい筆を進めていた背中に向けられた『闇の精霊王』様の鋭い視線。そらされることのないその視線に嫌な汗をかきながら書き上げた『冥府』の物語。


基本としては、ギリシア神話から。

裁判の仕方は、仏教から。

罪のあり方は、キリスト教。

冥府への道のりは、神道。


本当に、ごっちゃまぜにしてみました。

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