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ヴァーテックス・クライシス ~星屑の魔女と、もう一つの真実~  作者: 輝夜
第二章:王家のまなざし

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第13話:遺跡の調査と目覚める守護者


【騎士団・演習地 / 水利制御施設・周辺】


「団長殿。少々よろしいでしょうか」

エリアーヌは慌ただしく指示を飛ばす騎士団長に、静かに声をかけた。

「うむ、《翠玉の託宣者》殿。どうされた?」

「先ほどの川の水位低下の件です。私見ですが原因は自然現象にあらず、上流にある旧帝国の遺跡にある可能性が極めて高いかと」

「遺跡だと? なぜそう思われる」

「私の『目』には大気中の魔力が不自然な形で上流の一点に収束していくのが見えます。あれは古代の魔道具が永い眠りから目覚め、暴走している兆候です」


エリアーヌの淡々としたしかし確信に満ちた説明に、騎士団長は腕を組んで唸った。

常識では考えられない話だ。だが目の前のこの人物は、同じく常識外れの「開かずの砦」を制圧した実績がある。

「…分かった。貴殿の意見を信じよう。して、どうすればよい?」

「まずは現場の確認を。私自身が赴き状況を調査する許可をいただきたい。つきましてはセシリア姫殿下の護衛を一時的に団長殿にお願いできますでしょうか」


その申し出に騎士団長はかぶりを振った。

「いや、私も行こう。原因が遺跡にあるのなら万が一の事態も考えられる。騎士団の責任者としてこの目で確かめねばなるまい。姫の護衛は副団長に任せる」

(…まあ、そうなるわよね)

エリアーヌは予想通りの展開に、仮面の下で小さく頷いた。




エリアーヌと騎士団長、そしてアレクシスを含む数名の精鋭騎士たちが川の上流へと向かった。

遺跡に近づくにつれて大地を伝わる「ゴウン、ゴウン」という低い振動音が、はっきりと聞こえてくる。

やがて一行の目の前に蔦に覆われた巨大な石造りの建造物――旧帝国時代の「水利制御施設」――が姿を現した。その入り口からは明らかに異常な量の魔力が、まるで呼吸するように漏れ出している。


「…本当に遺跡が動いているというのか…」

騎士団長は信じられないといった様子で呟く。

「ええ。これは内部の動力炉が何らかの理由で再起動した結果でしょう。放置すれば川の水を全て吸い上げるか、最悪の場合動力炉が暴走しこの一帯が吹き飛びます」

エリアーヌは冷静に分析結果を告げた。


その言葉に騎士団長は難しい顔で沈黙する。

(…止めるべきか? だが下手にいじってさらに事態が悪化する可能性は? しかしこのまま放置もできん…)

彼は王国騎士団の長として重い決断を迫られていた。やがて彼は覚悟を決めたように顔を上げる。

「…よし。責任は私が取る。今止められるのなら止めておくべきだろう」


そして彼はエリアーヌに向き直った。

「しかし《翠玉の託宣者》殿。なぜ貴殿なら止められると断言できる? まるでこの遺跡の構造を知っているかのようだが…」

その鋭い問いにエリアーヌは動じない。

「知識があるだけです。机上の空論かもしれませんが試す価値はあるかと」

その言葉に騎士団長はしばらく彼女の仮面を見つめていたが、やがてふっと息を吐いた。

「…よかろう。貴殿の知識とこれまでの実績を信じよう。では、やってみていただけるかな?」




【水利制御施設・内部】


一行は遺跡の内部へと足を踏み入れた。

その瞬間だった。

遺跡の奥から石を引きずるような重い足音が響き渡り、一体の巨大なゴーレムが姿を現した。全身を古代の合金で覆いその赤い単眼が、侵入者である彼らを冷たく捉えている。施設の防衛システムが同時に再起動したのだ。


「なっ…!総員、構えろ!」

騎士団長が檄を飛ばし騎士たちが一斉に剣を抜く。だがゴーレムは彼らの攻撃をものともせず、巨大な腕を振り回し騎士の一人を吹き飛ばした。

「ぐわっ!」

騎士団長も自ら剣を抜きゴーレムに斬りかかるがその分厚い装甲に、刃は甲高い音を立てて弾かれる。逆にゴーレムの薙ぎ払うような一撃を避けきれず、団長の肩が浅く裂かれた。

「団長!」

アレクシスが悲鳴を上げる。


その時だった。

「――失礼します」

凛とした声と共に一陣の風が戦場を駆け抜けた。

エリアーヌだ。彼女は暴れるゴーレムの腕を駆け上がりその肩へと軽やかに飛び乗る。そしてゴーレムの首の後ろにあるわずかな装甲の継ぎ目。そこにある動力供給ラインを寸分違わずナイフで断ち切った。


ギギギ…という断末魔のような軋みを最後に、ゴーレムは全ての動きを止めただの石像と化した。

そのあまりにも鮮やかで人間業とは思えない一連の動きに、騎士たちはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


「…さあ、道が開けました。制御室へ急ぎましょう」

エリアーヌは何事もなかったかのように遺跡の奥を指差した。その仮面の奥の瞳は既に次の「研究対象」である、暴走する制御盤だけを見据えていた。


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