拗ねるリネア 67
「あ、ラーシュ! なにゆっくりしているのよ!」
「え? リネア? どうして?」
驚いて聞き返すと、リネアは腕を組んで半眼になった。
「三ヶ月で王都に来る約束でしょ? 迎えに来てあげたのよ」
「え~、そこまでしなくても大丈夫なのに」
苦笑しながらそう告げると、リネアは頬を膨らませる。
「何を言っているの? 予想していた通り、まだ村にいるじゃないの。途中の村とかで会っていたら情状酌量の余地もあったけど、これは完全に有罪ね」
「いやいや、そんなこと言わないでよ。でも、お陰でこの村も強くなったからね。ようやく僕たちが村を不在にしても良い水準まで強くなれたと思う」
謝罪しつつ現状を報告する。それに、リネアだけでなくドラスも興味深そうに顔を上げた。
「え? 三ヶ月でそんなに変わるかしら?」
「むむ、興味深い。この魔の森での修練がどれほど影響を与えるのか、気になりますな」
二人が良い反応をしたので、上機嫌で答える。
「とりあえず、十人いたら無傷で中型魔獣を狩れるようになったよ。多分、三十人いれば大概の大型魔獣とか、ドラゴンも撃退できると思う」
そう告げると、二人は目を瞬かせ、次に村人達へ視線を向けた。
「……あの武器で?」
「鎧も盾も持たぬ者ばかりではないか」
信じられないといった様子でそんな失礼なことを言う二人。いやいやいや、武器は鉄製だけど、まだまだ現役だぞ。鎧も皮の部分が殆どとはいえそれなりに頑丈なのだ。
そう言おうとしたところ、ヤヌスとティノスが歩いてきた。
「いえ、ラーシュ殿の言葉は本当です」
ヤヌスがそう言い、ティノスが何度も頷く。それにドラスが眉根を寄せた。
「なに? 本当だと?」
ドラスが聞き返すと、ヤヌスが緊張した様子ながらしっかりと頷く。
「はっ! 事実、我らは三ヶ月ラーシュ殿の訓練を受け、二人とも倍以上は強くなりました。私は三段斬り、ティノスは飛燕斬を習得しております」
「な、ななな、なんだと!? たった三ヶ月で新たなスキルを習得したのか!?」
びっくりするドラス。目が飛び出てしまっている。その顔面に驚きつつ、リネアがこちらを見た。
「……それって、ラーシュの考えた訓練方法ってこと? それとも、魔の森の魔獣が強過ぎて、毎回死にかけるような戦闘をしてきたってこと?」
真剣な顔でそう質問されたので、首を左右に振って答える。
「いや、ヤヌスさん達が頑張っただけだよ? あと、強い魔獣を相手に頑張ってたのも良かったのかも」
そう言って笑うと、ヤヌスたちは顔を見合わせた。さっきの話を思い出したのだろう。しかし、ドラスが険しい顔でヤヌスたちを見据えて問いただすと、二人はあっさりと自白してしまった。
「……いえ、全てラーシュ殿のお陰です」
「……はい」
「ちょっと、二人とも!?」
簡単に裏切られてしまい、大きな声で抗議する。しかし、騎士団の上下関係は絶対のようである。
「……ラーシュ?」
リネアに半眼で名を呼ばれ、僕の心も折れた。
「……へい」
項垂れつつ返事をすると、リネアは深く長い溜め息を吐く。
「…………まぁ、良いわよ。それに、二人に妙な約束をしたってことは、テオドーラ王国で変に目立ちたくないってことでしょう?」
「そう! 流石はリネア様! 聡明でございまする!」
「……なーんか腹が立つけど、分かったわ。それじゃあ、ラーシュのことは内緒にしておくわね。でも、二人に教えた訓練方法っていうのは騎士団の訓練に取り入れるわよ?」
「あ、それは大丈夫。ヤヌスさん達が編み出したって伝えておいて」
「はいはい」
それだけのやり取りをして、やっと解放された。ぶつぶつ愚痴を呟くリネアを連れて、村の皆も集めて昼食会にする。まぁ、昼食会といっても肉を焼くばかりだ。
「やっぱり調味料があると美味しいね」
「はい!」
イリーニャとにこにこ笑い合いながら焼けた肉を食べていると、隣に座るリネアが口を尖らせた。
「……ちょっと? 王女の私は放置するつもり?」
「え?」
何か言われたと思い、振り返って首を傾げる。すると、リネアはウッと呻き、頬を赤くしてそっぽを向いた。
「な、なんでもないわよ!」
何故かプリプリ怒るプリプリ姫リネア。どうしてそんなにプリプリしているのか。どうも、久しぶりに会ったというのに、会ってすぐから機嫌を損ねてしまっている気がする。
ふむ、困った。
そんなことを思っていると、ふと、あることを思い出した。
「あ、そうだ。リネアにプレゼントがあったんだ」
「……え? ぷ、プレゼント?」
一言呟いただけなのだが、リネアが勢いよく振り向く。その勢いに驚きつつ、懐から丸い輪を取り出した。白と金色の金属を用いた、花を模したような形状の腕輪である。それを見て、リネアが珍しく目を丸くしている。
「これあげる。リネアに似合いそうだから買っておいたんだ」
一ヶ月に一度来てくれるようになった行商人から購入した代物である。村が物凄く暮らしやすくなったので、王都に行った時にリネアに御礼をしようと思って用意していたのだ。
その腕輪を、どうやらリネアも気に入ってくれたようだった。
「……あ、ありがとう」
そう口にしつつ、リネアは腕輪を受け取る。両手で包み込むように優しく腕輪を手にしたリネアは、顔の前に持ち上げてジッとそれを見つめていた。
「……付けてあげようか?」
「え、ええ……? いえ、そ、そこまで言うなら、まぁ、任せても、良いけど……」
歯切れ悪く返事をするリネア。とりあえず、付けても良いということらしい。それならと思って立ち上がると、リネアが背筋を伸ばしてピシッと座り直し、左手をこちらに突き出してくる。
「片手じゃ付けにくいよね」
そう言って、腕輪の留め具を外して開放し、リネアの細い左手首に装着した。パチリと音がすると、リネアは左手を持ち上げて顔の前に持ってくる。少し緩いが、リネアの白い肌によく映えている気がする。
「おお、似合うね」
そう言って微笑むと、リネアは「くっ!」と奇声を発し、顔を背けた。何が起きたのかとイリーニャと顔を見合わせたのだが、イリーニャが困ったように笑っていた。
その顔を見て、すぐに頭に視線がいく。
「もちろん、イリーニャの髪飾りも似合っているよ」
そう告げると、イリーニャは頬を赤くして、照れたように微笑む。
「は、はい。ありがとうございます」
その返事を聞き、リネアがぐるりと顔をこちらに向けた。
「……え? イリーニャにもあるの? しかも、髪飾り?」
リネアの目が怖い。
「そ、そうだね。だって、リネアは立派な髪飾りしてるし、ネックレスもあるし……」
そう答えると、リネアがイリーニャの髪飾りを確認して目を細めた。それにイリーニャが不安そうな顔になるが、すぐにリネアが困ったように笑ったので、ホッと胸を撫で下ろす。
「……はぁ。仕方ないわね。イリーニャなら許してあげる。私の友達だからね」
「あ、ありがとうございます!」
友達と言われて、イリーニャは本当に嬉しそうに目を細めた。
良かった、良かった。何故か緊張感が走ったが、無事に危機は回避されたらしい。
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