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8・俺、疑問を抱く

 防衛陣地での埋葬を終えてフリッツ岩村?へと向かってみれば、そこにはあり得ない人物が鎮座している。


「なぜ姫様がここに居るんだ?」


 俺はさも当然とばかりに陣幕の特等席に座り、何やらすでに作戦会議らしきものを始めている姿に驚き、誰とはなしにそう問いかけてしまった。


「驚くような話ではなかろう。これから、パーカッションロック付近から攫われたビュトー伯爵の救出に向かうんだ。殿下が指揮しなくてどうする?」


 耳に入ったらしい女性騎士がさも当然と言いたげにそう答えてくれる。だが、たしかその武闘派伯爵は、本来ならば後方の司令部で指揮に専念すべきという様な話が砦で行われていた記憶があるのだが?


「それはそうだ。伯爵は男。双剣と名高い武人ではあったが、相手は魔族だ。しかもジェネラル級とみられる個体が率いた群れ。そんな所に複数の男が増援として現れれば、狂喜した魔族どもを勢いづかせるだけではないか」


 件の騎士はそう返してくるのだが、そうは言っても、戦況は劣勢と言う報を受ければ増援を送らない訳にもいかないだろうし、ジェネラル級という上位種が居るとなれば、当然、強い武人が出張るというのは間違っていないように思える。


「ああ、其の方の言う通り。私も間違った判断だったとは思わん。倒せていたならばと言う条件付きで、だが」


 肩をすくめながらそう答えた騎士は、持ち場であるのだろう、姫様の後ろへ向かって行った。


 そうこうするうち、陣地掃討部隊の指揮官が姫様たち幕僚へと報告を終え、主だった隊長クラスが陣幕へと揃う。


 一応は俺も指揮官相当の地位と見なされるらしく、会議の末席に並ばされている。ユージンはその側近扱いとなるらしい。


「フリントロック村、並びに陣地の掃討大義であった。村の被害並びに陣地の戦況などは追って詳報を聞くとして、現時点での決定は、このまま残敵の追撃だ」


 作戦会議冒頭に姫様がそう宣言し、主だった幕僚や指揮官が意見や質問を行い、今後の行動の詳細が詰められていく。


 暗に決まったスケジュールに従うばかりの会議であるとか、やってもやらなくても代わり映えのしない集会が盛んにおこなわれていた召喚前の会社とは違ったその中身に驚きながら、俺はただただその場でその他大勢に徹していた。


 会議はそう長く続かなかった。


 状況確認や編成に関する問題が討議され、今後の編成が言い渡されていく。


「ドーカネ。お前は妾とともに本陣だ」


 村への作戦とは真逆の本陣への組み込み。


 よくよく考えてみれば、村へ向かったのは餌を与える為だろうかと思えてくる。


 陣地で攻防戦が繰り広げられていた場合、俺を陽動に使えると考えていたとか。


 しかし、すでに村が落ちていたので俺やユージンによるリーダーとなり得る上位種討伐を回避するため、陣地へと追いやられたという推論も成り立つ。


 そして今回は、伯爵が拘束されているらしい場所への進軍である。俺が先鋒に配されていたら大変なことになるかも知れんよな。

 ほら、ジェネラル級を一刀両断に出来るんだ。俺かユージンが首級を上げる可能性だってあり得る。いや、下手をしたら俺かユージンがその伯爵を救済しちまうかもしれんな、救出作戦だと言っているのに。

 

 あの陣地の惨状を見れば、伯爵が正気を保っているとも思えんし、仮に正気そうに見えても、ユージンの言う通りに数か月以内に狂うのだろう。今の俺なら、そんな武闘派貴族が暴れて周辺に被害が出るような禍根を断つために、見つけ次第救済する事を選択する。


 そんな事を思いながら、ふとユージンを見れば、なぜかニコリとこちらに微笑みかけて来た。いや、意味が分からないんだが。


 ユージンの微笑みの謎が解けないまま、次々と部隊長が陣幕を出ていき、早い部隊はすぐにも出発していく。


 そんな中で本陣は、二日ほどその場を動くことは無かった。


 本陣が動いたのは打楽器村へ向かっていた別動隊からの報告を受けたからだ。


「パーカッションロックに被害はなく、陣地を含め、辺りに魔族の姿も無い。伯爵たちを連れて整然と撤退した様だな。ホイールロックが仮の営巣地になっているのかも知れん」


 本陣移動に際して副官がその様な説明をする。


「皆、これは数十年に一度の『ありふれた活動期』ではなく、史書に記された『侵攻』をも想定した方がよかろうな。神殿め、一体どこで見抜いたのだ?」


 姫様は上座から副官の話を遮る様にそう話し、ユージンを睨む。


「殿下、神殿は二百余年前にも召喚に成功しております。その際は大規模ではあったものの、クイーンを含む巣それ自体が平原に進出する『侵攻』にまでは至りませんでした。いえ、召喚によって齎された強力な力によって、発展前に討伐せしめたのではありませんでしたか?」


 ユージンは姫様に対して毅然と反論する。


「そうか。ある程度の規模を見て、『侵攻』や『氾濫』を未然に防ごうとしているだけと申すか。よかろう、今はそう言う事にしておこう」


 姫様の神殿への不信感はかなり強いらしい。


 もしかしたら王位継承にまつわる争いが裏にあったりするのだろうか?


 そうであっても何ら不思議はないか、武闘派の伯爵だって姫様率いる王国軍の指示を待たずに独断専行したらしいし。


「では、前進する」


 その後、副官が何もなかったかのように宣言した。


 本営の大移動はゆっくりしたペースで進み、分派していた別動隊と合流、車輪村目指して前進していた。


「ホイールロック付近に魔族多数を確認。現時点で伯爵らの所在は不明です」


 前線部隊からの伝令がそう報告してきたのは三日後だった。

 きっと部隊は既に交戦しているのだろうな、この世界には無線の様に便利な魔導具は存在しないらしく、リアルタイムな戦況判断は出来ないのだし。


「大義である。本陣はこれよりホイールロックまで前進する。部隊には勝利を期待すると伝えよ」


 ほらな。

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