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15・俺、悩みが余計に増えた

「やはり、聖女でしたね」


 会議が終わり、姫様や特級魔獣が居なくなった後、ポツリとそう口にした天使。

 だが、その口調は魔獣の呪いに酔いしれたものではなく、落胆、憂い、哀しみなどの複雑な色を含んでいた。


「僕が殿下に直答した聖女隊についてですが、彼女達は地方の修道院においてその武功を認められた者が多数含まれています。王家や貴族が組織する騎士団への入団資格がない村人でさえ、修道士隊で武功を挙げれば聖女隊への入隊資格を得ます」


 まあ、それは分からなくはない。戦国時代の日本でならば、天下を取れた秀吉だって、それ以前では無理な偉業だっからな。

 彼の出自が一介の農民かは分からないって説もあるが、源氏や平氏に連なる家柄ではなかっただろう。 


 そんな身分制社会で成り上がれるツールが信長の実力主義だったのだから、修道院ってのも、似たようなシステムを有しているんだろうな。


「僕の父は修道士隊に殺されました。救済ではありません。父は僕や兄を襲いかかる魔族から守ろうと飛び掛かり、払い除けられただけでしたが、運悪くそこへ修道士隊が駆けつけ、魔族諸共叩き潰されたのです」


 まさか、天使にそんな過去があったとは。


「修道士の言い分は、『魔族に触れた男は救済以外の道なし』でした。その時は納得しましたが、神殿の救世処では、父の様な男性は助けられ、家族の元に戻れる様にしているのを知り、愕然としたものです」


 そら、服が破れているとか怪我をしていたら、魔族に襲われた可能性を疑うのは分かるが、だから救済しましたは拙速すぎるよな。


「修道院は慈悲を積むことを良しとしていますが、修道士隊や、とくに聖女隊では、救済こそがこの世を救うと信じて疑っていません。もちろん、分からなくはないんです。目の前で夫や息子が救済され、中には自ら父や恋人を救済した隊士もいますから。ただ、理解は出来ますが、納得は出来ないんです。少しでも助かる見込みのある人は、まず救世処へ向かわせる余裕くらいあるはずですから」


 そう言い終わった天使は、俺を見据える。上目遣いでグッと来るものがあるが、どうやらそんな雰囲気ではない。


「マッチロック村への偵察には、男性もかなり含まれます。犠牲ゼロで帰って来る事はないでしょう。我々が討伐に向かった際、生き残った男性は聖女隊に見つかれば惨たらしく救済されてしまいます。ドーカネさま、彼女たちより先に僕たちで救済する。その覚悟を持って臨んでください。最期くらい、楽に逝かせてあげるのが本来の救済なのですから」


 そう微笑むユージンはまさに天使であった。


 あの魔獣が絶対に拝めない笑顔だ。俺はその笑顔に勝ちを確信した。


 二日後には偵察隊が出撃していった。共に汗を流した野郎共からも選抜されており、他人事ではない。

 そうか、共に汗を流したあの連中が向こうで捕まってしまっても、躊躇なく救済する。確かにこれは覚悟が必要だ。


 偵察隊の出撃と共に、村に残る俺たちも戦闘準備を整える。

 もしかしたら偵察隊の攻撃がきっかけとなり魔族が来襲するって可能性もあるからだ。


 緊張した日々が六日ほど続き、伝令が「偵察隊を追う魔族なし」との報告を行った事で、幾分か警戒を緩め、帰還を待つ。


「結構やられたな」


 村へと帰還した者たちはボロボロだった。

 まるでこの村を落とした直後と変わらない。


「威力偵察ですからね。必要な情報を得るまで攻めていたんでしょう」


 ユージンがそう説明してくれた。


 その後に行われた戦況報告では


「二度の攻勢を掛けた結果、魔族は間違いなく組織的な統制が取れており、欲望のままに男を襲うよりも、組織だって防衛に当たる場面が多く、魔法を放つ個体や武器の扱いに慣れた個体を群れとして動かす存在、カーネル級を三体確認しております」


 これは村の攻防時を超える数であるに留まらず、千かそこらという当初の魔族戦力の見積もりからの乖離が大きいという意見が多数出された。


「はい、外周からの偵察では千程度との見積もりでしたが、交戦から得た情報を加味すれば、三千を超えるのではと愚考いたします」


 それは人の戦力に換算すれば優に一万を超える。防衛に隙があれば先日入った砦さえ落ちかねないとか。


「待て、三千だと?それでは今の戦力では難しくないか?」

 

 姫様がそう疑問を口にする。


「そんな事はありませんわ。聖女隊五百を甘く見ないでくださいまし」


 その疑問に魔獣が吠える。


「ソルジャーやコマンドではなく、相手はキャプテンの群れだぞ。思い上がるのもいい加減にしろ!」


 姫様が即座にそう切り返すが、まるで引かない魔獣。


「殿下は聖女の力をいささか見くびっておいでですわね。貴女に迫る実力者ばかり、五百でしてよ?キャプテン級とて聖女隊だけで千は引き受けてご覧にいれますわ!」


 完全に挑発である。下手に対立すれば暴走しかねないと直感した。


「そうか。では、聖女隊が敵千を受け止めろ。だが、先陣は騎士団だ」


「ええ、かまいませんわ。騎士団が崩れても、聖女隊が支えてさしあげます」


「この・・・!」


 姫様はそこで口を噤み、偵察隊の隊長へと顔を向ける。


「ジェネラル、もしくはクイーンについては何か分かったか?」


「はい、戦闘に際し、内部の偵察を試みましたところ、幼生体らしい姿を確認しております」


 俺は姫様に視線を向ける。姫様も一瞬俺を見てわずかに首を振った。

 これは下手に反応するなって事だろう。その指示に従い素知らぬ顔を通した。


「おや?幼生体とはクイーンが既に出現したのかしら?それとも、ユージンさま?何か心当たりはありませんこと?」


 おいあの魔獣、ゴブリンについて知ってやがる!


「はい、幼生体が発見されたというのであれば、クイーンが存在すると愚考いたします」


 ユージンは事も無げにそう返答するのだが


「そうかしら?男がジェネラルに産ませた怪物ではありませんこと?」


 あいつ、絶対知っていやがる。それで俺の天使を揺さぶるとはどういう了見だ?


「人と魔族の間にその様な事で出来るのでしょうか?」


 あくまで冷静にそう返すユージン。


「そうですの。では、現地で確認しませんこと?」


 性色者(プレデター)は鋭い視線を天使へと向けてそう口にする。


「はい、現地で確認したいと思います」


 ユージンも最後までしらを切りとおすことにしたらしい。おいおい、どうすんだよこれ・・・・・・

 

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