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18 合否




 運命の日がやってきて、もみじはソワソワしていた。前回このバスに乗っていた時は、試験前という事もあって今とは違う緊張感があったのだが、今は、まさしく処刑台へ向かう囚人のような気分だった。


 合格の可能性は、もみじの感覚では半々だった。


「もみじ、その顔やめなよ~」


 隣に座っていた一華は、自らの眉間を指さしながらもみじに注意する。一華の余裕さが気に食わないもみじは、冷たい視線を一華に向ける。 


「……一華は余裕そうだね」

「まぁ、私は一年生の時から勉強してたからね~。学校の成績も問題ないし」


 正に、どこ吹く風と言わんばかりに一華はそう言い放つ。そのように言われると、もはやもみじに返す言葉はなく、その場にうな垂れる。


「私もちゃんとやっとけばよかったかなぁー」

「高校からはちゃんとやればいいじゃない。応援するよ~」

「うわ、上から目線な言い方ー」

「だって、実際そうなんだもん」


 止まらぬ一華の正論にもみじは憎たらしい物をみるような目で反抗する。ただ、さっきまでの嫌な緊張感はなくなっていた。







 約一週間半ぶりにやって来た神ケ谷高校は、受験の時にはいなかった保護者たちも相まって、多くの人でごった返していた。もみじ達が来た時間はそこまで遅かったわけでは無いのだが、もう発表されるボードの前に行くのは困難だった。


「これならもう少し早く来ればよかったね~」

「もう少し、なんてもんじゃない気がするけど……」


 三月の中旬とはいっても、朝はまだ寒い。にもかかわらず、この空間には熱気が立ち込めている。それは、10分やそこらで出来た大群とは思えなかった。


「あ、恭介だ~」


 一華が手を振っている前方を見ると、藤田が此方に手を振っている姿がある。近くには石垣が居て、どうやら二人は一緒にやってきていたようだ。それにしても……。


「……一華、藤田のこと下の名前で呼ぶようにしたの?」


 藤田の下の名前は恭介なのだが、一華が彼の事を下の名前で呼んでいるのを聞いたことは、保育園の時に一度二度あったぐらいで殆ど記憶になかった。


「中学卒業したところで呼び方を変えようって言われたんだ~。付き合ってるんだから、普通だろって」

「……ふーん」


 尚も手を振り続ける一華を横目に、もみじは適当な相槌を返した。そう言えば、最近二人の仲が深まっているように感じる。ここで敢えて聞くような内容ではないので流したが、この二人に何があったのか、もみじは気になって仕方がなかった。


 しかし、その疑問を吹き飛ばすような出来事が起こる。


「――あれ? 浅賀君だ。でも、隣に居るのって、確か……」


 もみじも一華の指さす方角を見ると、確かにそこには浅賀旺士郎の姿があった。背の高さとスタイル、そしてあのイケメンだからどこにいても目立つ。そして、隣にいるのは……。


「この間の可愛い子だ……」

 

 浅賀旺士郎の隣に立っているのは、受験の日にもみじとぶつかった、あの可愛い女の子だった。二人は仲良さそうに横並びに立っており、その姿は雑誌の一頁のようだった。


「それにしても、あの制服ってどこの制服かな~。この間も思ったけど、このあたりの中学校の制服じゃないよね?」

「……そうなの?」


 もみじは制服については全くの無知だったので、ここら辺の中学校のどこかだと勝手に思っていた。しかし、周りを見渡してみると確かにあの白いスカーフの学校はない。


「うん。あの白いスカーフって見たことない気がする。もしかしたら、ここら辺に住んでる子なのかもしれないけど、中学校は結構遠いんじゃないかな~」


 確かに、そういう可能性はあり得る。一華とて、県内すべての制服を熟知しているわけでは無いので、少し遠い学校の物だったら知らない可能性も十分にあり得る。


 それにしても遠い。おまけに丁度その間に背が高い男子たちの壁があって、二人の様子がよく見えなかった。


「……もみじ、そんなに気になるの?」

「え、何で?」


 突然の問いかけに、もみじは怪訝な表情を浮かべる。しかし、一華はチラッと下を見た後、もみじの足元を指さす。


「だって、つま先立ちしてまで見てるから……」


 指摘されてようやく気が付いたもみじは、一瞬で踵を地面につける。


「……別に。ボードの方見てただけだし」


 そう言って、何事もなかったかのようにボードの方を見る。すると、丁度時計の長針が0に到達し、タイミングを見計らっていたかのように、スーツの男性が大きな模造紙を抱えてボードの方へと歩いていく。


「――来た!」


 大きな歓声が前の方で上がる。落ちた人は茫然としているだろうから、その声は合格者の誰かのものである事はすぐに分かった。しかし、もみじ達のいる所は合格者の番号が張り出されているボードから離れすぎていて、数字が良く見えない。


 また、合格者たちは歓喜で周りが見えていないため前方を動かないので、中々前に行くこともできず、もみじ達はその場でやきもきしながら立ち尽くしていた。


 すると、一足早くボードの内容を確認してきた藤田たちが折り返してきた。顔は満面の笑みで、大きく手を振っている。


「一華~! 俺、受かってたぞー! それに、一華の番号もちゃんとあったし、俺らまた同じ学校だな!」

「そっか、よかった~!」


 二人は喜びで抱きしめ合っている。やはり、前まではここまで仲が良くなかった気がする。


 しかし、そんな事よりも今は大事なことがある。


「――私のは?」


 もみじは険しい剣幕で藤田に詰め寄る。本来ならば、二人だけの時間を邪魔するほど野暮な人間ではないのだが、今はそうはいかない。


 もみじに詰め寄られて、藤田は一瞬たじろぐ。そして、ゆっくりと口が開いて……。


「あ、それは……」







「ただいまー」

「お帰りー、お姉ちゃん! どうだった? 受かってた?」


 帰ってきて早々、双葉が玄関に立っていた双葉が詰め寄ってくる。今日が高校の合格発表だという事は出発前に話していたので、気になってずっと玄関で待っていたのだろう。


 可愛い奴だ。口には出さなかったが双葉のこういうところが可愛くて仕方がなかった。



 もみじは、玄関の段に座って靴の紐をほどく。そして、後方で自分の背中を見ているであろう妹に、親指を立てて合格したことを伝える。


「――よかったぁ~! お母さんにも言わないと!」


 双葉は導火線に火が付いたかのように、勢いよくリビングの方へと駆けていく。そして、数秒後にはリビングの方で妹の元気な声が響いていた。


 もみじは、ほっと胸を撫でおろしながら色々な思いを頭の中で整理していた。


 

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!


これにて、中学編は終了です。

長かったですね(笑)


次回からは、ようやく、ホントようやく野球の話が出来る!

楽しみに今から胸が躍っています。

(次回からとはいっても、本当に次回野球の話が書けるかは分かりませんが(笑))

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