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17 卒業




 受験を終えると、もみじ達は中学を卒業することとなる。


 もみじ達の学校は、高校受験の結果が分かる前に卒業式を迎えるスケジュールになっていた。他の学校がどうなのかはよく分からないのだが、安岡中学校の3年生は非常に複雑な気持ちで体育館での卒業式の予行演習に臨んでいた。


「あぁー、長いー」

「もう~、シャキッとしないとまた怒られるよ~?」


 もみじの文句を、隣に座っていた一華が注意する。


 もみじ出かけた欠伸を押し込みながら、檀上で行われている練習を見る。

 今は、卒業生代表である生徒会長が挨拶の手順を確認している所で、正直もみじ達からすれば退屈極まりない時間ではあるのだが、こういう時に欠伸をしていると、どこからともなく担任が注意してくるので気を付けないといけない。


 それにしても……。


「――ねぇねぇ、浅賀君! 試験の手ごたえはどうだった?」

「えっと、まぁまぁかな?」

「絶対嘘だー! 浅賀君って頭いいから、絶対余裕で合格でしょ!」

「そんなことないよ」

「またまた~。うちらも受かってたら、また一緒の学校だね!」


 女子の集団がイケメンを取り囲む図を見て、何故だか分からないがもみじはイライラし始める。


 普段は藤田や石垣、もみじや一華などが浅賀の周りにいるため積極的に話しかけてこない同級生たちだったが、出席番号順に並ぶ今回は、浅賀の周りには石垣だけしかおらず、話しかけやすいのだろう。石垣はもはや空気になろうとしているようで、その話に入ろうとはしていない。賢明な判断だと言えよう。


 しかし、担任の先生も担任の先生だ。


「……欠伸したら注意するくせに、何であの連中には注意しないのかなぁ」

「まぁ、いつもは私達が傍に居るから話しかけづらいんだよ、きっと」

「それなら、話すなっての……」


 もみじの恨み言を聞いて、一華はじっと顔を覗き込む。

 

「……え、何?」

「もみじって素直じゃないよね~って思って」

「はぁ? どういうこと?」


 本当に意味が分からないもみじは、怪訝な表情を一華に向ける。一華は目を丸くさせてもみじを見た後、少し間を置いて小さな声で呟いた。


「……そっか、無意識なんだ」

「だから、さっきから何言ってるの?」

「何でもないよ~。それよりも、高校受かってたらいいね~」

「……あ、その話題は禁句だから」


 両手で耳を塞ぐもみじを見て、一華は楽しそうに笑った。







 時間というのはあっという間に過ぎていくもので、3月中旬の朝、もみじはこれからもう着ることのない中学の制服に袖を通した。


 学校に着くと胸に花のコサージュを付けさせられ、退屈な式が始まる。正直、あの練習は必要だったのかと思えるような長ったらしい式を終えてると、最後の学級活動をしてから解散となった。


 しかし、ここに居る殆どが同じ高校へ行くわけだから、別に涙を流すようなこともない。これが、少し都会の中学校になったら変わるのだろうけど。



 最後なので、制服をぐちゃぐちゃにして帰ろうかと思っていた矢先に、母親から「次は双葉が着ることになるから、絶対に汚さずに帰ってくること」と釘を打たれたため、それは未遂に終わった。


 しかし、逃げられないものもあり……。


「――齋藤先輩! あの、第二ボタンを下さい!」

「――はぁ?!」


 1年生の女子にせがまれて、もみじは困惑の表情を浮かべる。

 よく、漫画などでこういう光景を見ることがあるが、まさか女子からそれをせがまれるとは思っていなかった。


「てか、どうして第二ボタンなの?」

「えっと、それは……」


 何故か頬を赤らめている彼女に、もみじは首を傾げる。何か重要な意味がありそうだったので聞いた見たのだが、要領を得ないので諦めた。


 さて、どうしたものか。


 ボタンを上げるのは別に問題ない。もみじはあまり物に執着がないし、この制服を着ることもないのでもみじにはもう関係がなかった。何なら、この制服ごとあげてもいいと思ったが、そうしたら流石に母親に怒られてしまうのでやめた。


 ボタンは予備があったはずだから一個あげてもさほど問題は無いだろう。ちょっと怒られてしまうかもしれないが……。


「まぁいいや。はい」


 もみじは第二ボタンを取って彼女に差し出す。まさか、貰えるとは思っていなかったのか、彼女はぱぁっと顔を明るくする。


「――ありがとうございます!! これ、宝物にします!」


 何度も頭を下げて去っていく背中を見つめながら、複雑な気持ちで校門あたり立っていると、とある光景が目に飛び込んできた。いや、その光景はあまりにも目立つので、「見えてしまった」と表現する方が正しいかもしれない。


「またやってるねぇ~」

「――うわっ!? びっくりしたー」


 声の方を振り返ると一華が立っており、同じものを見ながら複雑な表情を浮かべている。


 その、同じものとは……。


「イケメンを取り囲んで、あいつらボタンの争奪戦してるんだぜ? 笑えるよな!」

「そういう藤田は、全部残ってるわね」

「――うるせっ! 俺は一華にあげるんだからいいんだよ!」

「もみじの前でそう言うのやめてよ~」


 金色のボタンが全部残っている藤田と、それを貰う約束をしているのだろう一華のイチャイチャを見ながら、もみじは冷たい目を彼らに向けた。


 すると、藤田を追ってやって来た石垣が場に加わる。何となく状況を察したようで、苦笑いを浮かべながら、もみじの傍にやってくる。


「あれ、ボタン一個無くなってる」

「あぁ、さっき一年の女子が欲しいって言ってたから一個あげた」


 石垣は「あ、そうなんだ」と相槌をうちつつ、どことなく悲しそうな表情を浮かべていた。どうしてか分からないもみじは少し怪訝な視線を彼に向けた後、耳に届く黄色い声の方に再度視線を戻す。


「――にしても、ボタン何て貰ってどうすんのかねぇー」

「……齋藤はボタン貰いに行かなくていいのか?」

「はぁ? 誰に?」

「浅賀、とか?」


 何か探るように石垣はそう言う。まさかの名前に、もみじは吹き出してしまう。


「何であいつのボタンなんか貰うのよ。何なら一華のボタンのが欲しいよ」

「……そうか。そうだよな」


 もみじの答えに何となく納得する石垣。


 結局、浅賀は誰にもボタンを上げなかったようで、その後無傷でもみじ達のグループに合流し、「虎屋」でご飯を食べに行くのだった。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


もうそろそろ、ようやく高校編が書けそう!

正直もっと早く入るつもりだったのですが、人物を深堀出来たし、良かったのかな?

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