13 野球クラブ
※視点変わります
河川敷のグラウンドには小学1年生から6年生まで、幅広い年齢の少年たちが集まっていた。そして、彼らと向かい合うように比較的大柄な中年男性と二人の少女が立っている。
「えー、今日から齋藤と木村が新しくメンバーに加わる。仲良くするように!」
「よろしくお願いします!」
「よ、よろしくお願いします……」
二人の対照的な挨拶に、少年たちから拍手が送られる。彼らは以前から二人の事を知っているので、特に気まずい感情もなく、比較的に歓迎ムードが場を覆っている。
大柄な中年男性であり「安岡ファイヤーズ」の監督を務めている中村は、少年たちの温かい拍手に小さく頷きながら次の指示を出す。
「とりあえず今日は低学年の練習に混ざってみようか。お試しってことで」
「「はい!」」
齋藤双葉と木下紗月は元気よく返事をして練習に向かう。「安岡ファイヤーズ」は最初のアップの時間は学年など関係なしに行い、キャッチボールまで済ました後に高学年と低学年に分かれて練習を行うのだ。
本来ならば、小学5年生の双葉たちは高学年の練習に参加するのだが、初めての練習への参加であるし、中村は口に出さなかったが、女子だからという理由もあり低学年の練習への参加となった。しかし――。
「あれが齋藤もみじの妹か。顔はよく似てるな」
「顔だけじゃないみたいですよ。ほら、投げ方までそっくりだ」
キャッチボールを見ただけで、非凡な才能を持っていることが分かる。小気味いいフォームから放たれるボールは綺麗な弧を描いて紗月のグローブへと吸い込まれていく。距離にして大体40mくらいだが、まだまだ長い距離を投げられそうだった。
流石は「齋藤もみじの妹」といったところだろう。それにしても――。
「それにしても、木村って女の子もちゃんとキャッチボールできてるじゃないか」
中村は紗月のキャッチボールを絶賛する。正直、双葉についてはある程度予想が出来ていた部分もあった。しかし、一緒についてきた女の子はいかにも運動が得意そうなタイプには見えなかった。双葉の様に、今の距離をノーバウンドで投げる力はないが、ワンバウンドでもコントロールがよく、双葉の胸あたりにちゃんと投げられている。これから練習して行って、体力がついて来れば末恐ろしい存在になる予感が、中村の中で芽生えていた。
◇
中村たちが二人の事を絶賛している時、キャッチボールを終えた二人は次の練習のためにグラウンドの反対側へと移動していた。高学年と低学年でグラウンドを対極で使うようになっているため、双葉たちはグラウンドの反対側へ移動しなければならなかったからだ。
「双葉ちゃん! あの、お兄さんと最近会ったりした?」
「え、お兄ちゃん? 昨日学校の近くで会ったよ! 野球クラブに入るって言ったら『顔出す』ってー」
「え? お兄さん来るの!?」
紗月は驚きの声を上げる。そして、両腕を広げて新品のユニフォームを双葉に見せる。
「……ねぇ、私変な所ない?」
「え? いつも通り可愛いよ?」
「そっか、うん、大丈夫だよね……」
双葉の言葉を受けて、自信をつける。丁度双葉たちがグラウンドの反対側に移動した時、向こう側でなにやら男子たちが騒いでいる声が聞こえる。
「あ、野球部の兄ちゃんだ!!」
「あ、ホントだ!!」
この間、グラウンドでお兄さん――浅賀旺士郎から野球道具を貰っていた男子たちは、大きな声を上げながらその人物の元へと走っていく。
「おい、まだ休憩じゃないぞ!」
中村は、もの凄い勢いで走っていく男子たちにそう声をかける。しかし、彼らは聞く耳を持たずに全速力で走り去る。中村は小さなため息をつきながらその後ろ姿を見つめる。
彼らが向かう先に一人の男性が見える。すらっと背が高く、若い男性。高校生くらいに見えるが、ここらではあまり見かけたことがない。しかし……。
「どこかで見たことある気がするけど……。思い出せないなー」
「ありゃー、浅賀旺士郎じゃないか?」
「浅賀!? あの有名な?」
コーチの三浦の言葉に中村は声を裏返す。浅賀旺士郎と言えば、シニアの名門出身の金の卵ではないか。
「知らなかったのか? 何でも神崎のばあちゃんの孫らしくてな、高校からはこっちの学校に通うんだとさ」
初耳だった。しかし、ここらの高校で浅賀クラスの才能を発揮できるのは。
「――おいおい。まさか縞黒とか言わないだろうな」
「さあねぇ。まぁ、全国区の選手だからゼロとは言わないだろうが」
三浦コーチもそこまでの情報はつかんでいないようで、両手を上げて分からないというポーズをとる。しかし、いつの間にか反対側から走ってきていた新入部員によってその疑問は解消される。
「お兄ちゃんなら神ケ谷高校に進学するって言ってたよ! お姉ちゃんが家で怒ってた」
齋藤双葉は、中村たちにそう告げて、少年たち同様に浅賀の元へと走っていく。その後ろを木下紗月まで追っているのだから、中村たちは一瞬あっけにとられる。
しかし、神ケ谷高校に浅賀旺士郎が入学するとは。
「中村さん、こりゃあ初優勝が拝めるかもしれないなぁー」
「そうだな、悲願の初優勝が目の前にあるな!」
二人の中年親父は久しぶりに少年のような目でそう言い合っていた。
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