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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
十二章

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コイバナ

 風邪は日が暮れるにつれて悪化し、熱に加えて咳と鼻水まで追加されていた。大人しくログアウトしておいて正解だった。せっかくの休みなのに、夕飯も作れないとは情けない。体育祭以降、いいところなしだ。

 翌日になっても症状が快方に向かわなかったので、仕方なく学校を休み病院へ行くと、夕方にはすっかり熱も下がった。

「駆君!もう大丈夫なの?」

「うん、明日は学校行くよ」

「まだ鼻声じゃねえか」

「ほんまやん。それでもゲームはしにくるんやな」

だいぶ調子が戻ってきたので、少しだけとーすとにログインしてげきま部に参加すると、皆さんから散々心配された。まだ寝てろと言われたが、いい加減寝すぎて目が冴えてしまったし、アップデートも近いので休んでいる場合ではない。無理やり参加して、しかし鼻声と咳で喋りづらいので、黙々とランク上げに勤しんだ。


× × ×


 火曜日の朝には、少々鼻声は残っているものの随分調子が良くなったので、通常通りに登校した。すると、

「あっ!佐藤来た!!」

「へっ?」

教室に入るなり、真青とよく話している女子、金子さんと藤田さんが椅子やら机を蹴散らしながら駆け寄ってきた。

「ちょっとこっち!ハリアップ!」

「えっあの……」

金子さんに腕を引っ張られ、藤田さんに背中を押され、前後ろになっている彼女らの席まで連行される。真青の話では、俺が真青の後ろの席を手に入れた運命の席替えの際に、くじに不正をして手に入れた席順らしい。藤田さんの席に座らされると、金子さんの席には真青が座っていた。眉を下げて、苦笑いしている。

「佐藤、春果と付き合い始めたってマジ?」

ひそひそと小声で詰め寄る金子さんに、

「え、うん、まあ……」

おずおずと頷いた。

「じゃあ前に赤城と別れたって言ってたのも?」

「だから言ったじゃん」

藤田さんの追求に、真青が口を尖らせた。

「だって、その後もフツーに仲良いからさあ」

「あの時だけ喧嘩したんだと思ってた」

案の定だ。

「まあ、最近急に佐藤と仲良いなーって思ってたけど」

「そうそう、話してみたら気が合ってね」

「へー?どんな話してんのか全然想像つかない」

「あの……俺そろそろ、自分の席に行っていいっすかね……」

最初の確認以降、完全に蚊帳の外だった。放ったらかされたまま女子トークが始まってしまい、居心地が悪い。影が薄いと、こういうことが度々起きる。油断した頃に急に存在を思い出されて、ボロが出ては困るので、俺は早急に退散するべく腰を浮かせた。が、

「あっちょっと!ねえ、どっちから告ったの?」

ほら来た。しかもクリティカルアタックだ。

「えっ、それは……」

真青がしどろもどろになっている。そんな細かいところまで打ち合わせしていない。強いて言えば、真青が持ちかけてきたので告白は彼女からということになるのだろうが、

「私」「俺だよ。真青さんからなわけないじゃん」

俺は、真青の声に被せて言った。矢印の方向が、真青アイドルからファンに向いていてはいけない。この世の掟だ。

「恥ずかしいから、あんまり突っ込まないでほしいなァ。……もう行っていい?」

「あ、うん……」

今度こそ立ち上がった俺を、二人がぽかんと見上げて頷いた。俺が立ち去る後ろで、ひそひそと女子トークの続きが聴こえる。

「佐藤って、思ってたのと性格違うかも」

「あたしも。草食系だと思ってた」

「優しいんだよ、駆君」

おお、女神が誉めてくれている。仲睦まじく見せる芝居だとわかっていても、それだけで、俺の心は晴れやかになった。

『なんかごめんね。ありがとう、駆君』

チャイムが鳴る頃、まだ二人に捕まっている真青からメッセージが来た。

『いいってことよ』

『問題ない』と親指を立てたはーてぃくんのスタンプを送っておいた。


× × ×


 気を取り直して、放課後のげきま部。ナルのランクは七十八になり、ようやく、壁を越える兆しが見えてきた。

「まじで速え。俺も一応、解体仕入れたんだけどなあ」

解体は、低ランクのうちは逆にドロップ率が落ちるのが難点だ。開発も、スキルを使ってほしいのなら序盤のクエストで使わせるとかして、早めに育てることをお勧めしたほうがいいと思うのだが。

「巧、抜かれちゃったね」

「さすが廃人やな」

「廃人に廃人って言われたくないなァ」

ライムのランクは現在百十二。真青のメインのランクをとっくに超えて、俺のしゅがーに追い付く勢いだ。

「うっさいわ」

それは置いておいて、なんとか六月のアップデートには間に合いそうで安心する。学園エリアが実装される前に、壁を抜けておきたかった。

『ねえ、赤城も真青さんから俺と付き合うふりするって聞いてるよね?……からかわないんだね』

昨日は、風邪を引いていたので気を遣ってくれたのかもしれないと思っていたが、今日になっても何も言ってこないので、逆に訝しんでいた。思いきり弄られる覚悟をしていたというのに。ということで、一対一会話で訊いてみた。

『だってお前ら、俺と海鳥くっつけるために、例の噂消そうとしてくれてんだろ?』

さすが赤城、しっかりお節介に気付いていた。

『なら、からかう必要ねえし。むしろ、ふりと言わずマジでくっつけ。そしたら俺もやりやすい』

『何を仰るやら……』

やりやすいって、何をするつもりだ。まさか、ゲーム内だけでなくリアルでもオープンアタックに転じるつもりか。やめておけ余計逃げられるぞ。と思いつつも、俺と似ているなら押しの強いのに弱いかもしれないので、何も言わない。

『からかってほしいならからかってやろうか』

『勘弁してください』

だはは!とマイク越しに豪快に笑うこの男には、一生勝てそうにないなと、俺はため息をついた。

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