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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
十二章

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痛み分け

 午後になり、ナルでログインすると、

「よっ、春果ちゃんの彼氏!」

挨拶よりも早く、ライムが言った。もう伝わっているのか。ルリはちょうど離席中のようだった。蘇芳がまだ来ていないのは幸いだったが、この分ではしばらくからかわれ続けるのだろうと覚悟し、開き直ってやることにした。

「彼氏じゃなくて彼氏のフリですうー。そういう海鳥ちゃんはいつ赤城の彼女になるんですか」

「ああああほか!ならへんわ!!」

案の定、ライムは急な返しに狼狽した。

「そっかーならないのかー。……こんにちは、海鳥ちゃん」

「……こんにちは、駆くん。いい天気やな」

痛み分けだった。

「え、ならないの?」

ルリがタイミングよく戻ってきて、会話に参加した。言ってしまえば、これは赤城と海鳥をいい加減くっ付けてしまおうという作戦でもある。情勢は二対一になった。

「せやから、うちと赤城が釣り合うわけないやろ?もっと可愛い子選び放題やのに、なんでうちやねん」

「もう、海鳥ちゃんも駆君と同じこと言う」

ルリの姿は見えないが、おそらくまた口を尖らせている。仕方がないではないか、我々はそういうものなのだ。

「巧が海鳥ちゃんがいいって言ってるんだから、いいと思うんだけどなー」

きっと、赤城が借り物競争に出て俺と同じお題を引いていたら、迷わず海鳥を抱えてゴールしていただろう。例の対人戦の後も、何度か勝負を挑んで負けているようだ。ようだ、というのは、二度目以降、ライムが頑なに観戦を拒むので、俺とルリには勝敗しかわからないためである。

 「その話はもうええ。それより、自分ら来週のアップデート内容見た?」

俺をからかうつもりが、いつのまにか自分が渦中に放り込まれていたライムは、うんざりした声で話題を変えた。

「見た見た」

俺もそっちの話がしたかったので、追随する。

「らぶぃくんでしょ!」

ルリが一際楽しそうな声を上げた。

「そっちかい!」

キレのいいツッコミがいるというのは素晴らしいことだ。

「ごめんごめん、学園フィールドのことだよね。やっぱり、学生大会でも使うのかな?」

「可能性は高いよね。……遮蔽物多いから、遠距離の射線通らないんだよなァ」

校舎内に入られたら、遠くから狙撃支援は難しい。ある美さんのゴシブラの出番がないかもしれない。

「かといって校舎の中やと狭すぎて、刀よりでかい武器は突っかえんで。グラウンドはともかく、校舎内は圧倒的近接有利フィールドや」

フルパワーで動けるのは双剣か拳くらい。刀や片手剣はものによる、といったところだ。灼鉄剣は大振りなので、微妙かもしれない。

「うわー、なんか緊張する」

遠距離の援護がないということは、不測の事態も自分で対処せねばならないということだ。常に二人組を維持し続ければ、ある程度はそれも回避できるだろうが、他のチームだって考えていることは一緒だ。まずチームの分断を狙ってくるだろうことは、容易に想像できる。

「ギルドの連中に声かけて、練習試合組んだろか?」

「本当?それは助かる」

対人慣れしたチームと練習ができるのはありがたい。百鬼夜行のみで構成されたチームなんて、練習どころか一方的に殲滅されかねないが。

「どうせいつでもコロセウムにおる連中やし。強いのがおる言うたらホイホイ来ると思うで。ナル、覚悟しとき」

「ええー……」

ホイホイ来そうなメンバーに数名心当たりがある。下手するとメインがバレることも覚悟せねばならないな、と心に留める。

「囲まれた時に、一人でなんとかする練習かあ……」

ルリはルリで、唸っていた。

「そんなに難しく考えなくても、やり方はいろいろあるよ。味方がいるところまでひたすら逃げるっていうのも一つの手だし」

「もしほんまに一人やったら――ゴーレムとか、調教モンスターとかで仲間を増やすのもアリやな」

「ゴーレム錬成って、あれあさんが使ってた奴だよね?どんな風に使うの?」

らぶぃくんがゴーレムになると聞いて、気になっているらしい。

「作ったゴーレムに簡単な命令をいくつか設定して、壁役にするんだよ。使ってるのは魔法使いが多いかな」

「回復やったり魔法攻撃使える奴もおるで」

「楽しそう!最近、錬金術スキル使い始めたんだ。簡単?」

「ゴーレム作るの自体は簡単だけど……性能重視だと素材がねえ……」

「せやな……。それこそ、商店街にでも訊かんと、Cランク以上の土なんか手に入らんのと違う?」

「そうなんだー……」

ある美さんに泣きつけば無償で融通してくれるかもしれないが、ルリはあまり人に頼りっぱなしになることを好まない。

「ただの土ならその辺の山からでも採取できるけど、性能が安定しないんだよねえ。召喚する度に新しい土が必要になるから、コンスタントに高性能なゴーレムが欲しかったら、結構コストかかるよね」

「ランク上げるだけやったら、拾った土で作りまくればええけどな。ほんで、ここぞ!って時に高い土使えばええんよ」

「そっか!じゃあ、やってみようかな」

どうしてもらぶぃくんと一緒に戦いたいらしい。ルリがゴーレム錬成について調べ始めたところで、

『パーティメンバー蘇芳がログインしました』

「おいーっす……」

システム音声と共に、元気のない蘇芳の声がした。

「眠そうやな」

「当り前だろ……」

昨日、打ち上げに連行されて夜遅くまで宴会に付き合わされたらしい。人気者も大変だ。

「最近まともにランク上げしてなかったから来たけど……。やる気出ねえ」

よりによって、一番飽きのくる八十の壁の真っただ中だ。単調な作業になってしまうので、眠くなることこの上ない。

「俺も、なんか今日調子良くないんだよなァ」

朝起きたときは、昨日の疲れが残っているのだろうと気にしていなかったが、だんだん悪くなっている気がする。頭が重いし、少し寒気もある。

「風邪引いたんと違う?」

「え?まさかァ」

心当たりは十分にあった。なんせ、昨日さんざん雨に降られたのだ。

「熱は?」

「計ってみろよ」

全員に急かされ渋々体温を計ってみると。

「どうだった?」

「……三十七度八分……」

無情な電子音と共に表示された数字は、見事なまでに風邪を示していた。

「普通に熱あるやんか!」

「もうゲームやめて寝てなよ!」

「えー」

ぶっちゃけ、このくらいの熱だったら今までも普通に遊んでいた。インフルエンザのときなんて、少し熱が下がってきた途端にここぞとばかりに据え置きゲーを遊び倒していたくらいだ。全然問題ないのだが、

「えーやない!寝り!」

「そうだよ!酷くなったらどうするの!」

「はーい……」

安静にしていないと、家まで来てベッドに縛り付けられそうな勢いだったので、諦める。

「俺も寝直そうかな……」

「アンタはランク上げや!」

「えー」

蘇芳の不満の声を聞きながら、仕方なくログアウトする俺だった。

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