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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
一章

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石とスキルとメイド服

 とーすとの装備システムの良い点のひとつに、アバターの性別の縛りがないことがあると俺は思っている。

 せっかくだから、その良いところを存分に生かした格好がしたい。そう考えた結論が、男性アバターにミニスカメイド服だった。こだわり派なので、ヘッドドレスと爪先の丸いエナメル靴も揃え、アクセサリーはニーハイソックスとガーターベルトだ。

 ――正直、こんなことになるなら、もっと普通の格好をさせておけばよかった。

 後悔先に立たず、マットに正座した俺の前には、ドン引きした顔の二人が並んでいる。

「ちょっと弁解させてください。趣味じゃないです。ネタです」

「うん、いや、わかるけどさあ……」

ちなみに、先ほどのアイオラドラゴンから、マサオのもとにまさかの全石が落ちたので、狩りは早々に引き上げになった。解体ができるのは単騎で撃破したモンスターのみなので、しゅがーとタクミには素材がいくつか落ちただけだった。今は三人とも、ワープアイテムで街に戻ってきている。街の隅に座った状態で受信機能を切っているので、アバターは動かない。

「ネタ装備なのにめちゃくちゃ強かったよね?」

「どっかのジャージ男思い出すな……」

赤城が、眉間の皺を揉んで伸ばしている。すみません、そのジャージ男のサブです。

「佐藤君、ランクいくつ?」

「えっと……。百、二十っすね……」

自分もランク百二の真青は、へえ、すごいね、という反応だったが、メインでないことを知っている赤城は、うわあ、と今日一番の引きを見せた。

「それにしても、ネタ装備で強くて、名前の両側に×が付いてて、本当にくろすみたいだね」

「真似してるところはあるね」

ははは、と乾いた声で俺は笑う。なんせサブですから。

「佐藤駆だから、しゅがー(砂糖)の両側に×(かける)が付いてるんでしょ?お洒落だね」

「ああ、そういうことか!ただの飾りのX(エックス)かと思ってた」

アバター名は他人と重複ができないので、名前に記号で装飾を付ける文化は、かなり広まっている。名前の両側に×が付いているアバターもそれなりの数いるので、名前が似ていてネタ装備を使っているというだけでは、中の人までイコールにはならないようだった。助かった。

「ねえ、石見せてよ」

「え、ええー……。これ以上引かれるのは嫌だ……」

「一緒に大会に出るんだから、スキルも知っておきたいし」

お願いお願い、と身を乗り出す真青。俺は従うしかなかった。何度も言うが、卑怯だと思う。

「俺はいいや、見てもよくわかんねえし」

そう言うと、赤城はマットに寝転がって腹筋を始めた。このマット、そういう使い道か。自由すぎるだろうげきま部。

 俺はモニターの前に戻り、装備画面を見せた。横から覗き込む真青の顔が近い。なんだか、ふんわりいい匂いがする気がする。

「本当、引かないでね……」

「なになに……。うわっ」

引かないでと言った早々に引かれた。死にたい。

「全装備スロット八個開放に、石も全部全石じゃん!気持ち悪っ!」

気持ち悪いとまで言われた。殺してくれ。

「課金?」

「いや、スロット開放アイテムは使ったことないです」

「じゃあ、裁縫スキル?」

「そうです。Sランクまで上げると安定して八個開くんです」

「……なんで敬語なの?」

 装備のスロットは、NPCが売っているものが一律二スロットで、モンスターからのドロップ品だと、大体三~四つ開いている。稀にもっと多いスロットの装備も落ちるが、確実に八スロットの装備を手に入れるには、課金アイテムを使うか、料理と並んでマゾスキルと呼ばれている裁縫スキルの熟練度を上げて、作るしかない。

 もちろん、平均的な四スロットの装備に+30のステータスの付いたスキル石でも、ゲーム自体は問題なく楽しめる。二人もそうしている。しかし、せっかく八個までスロットが開くのなら、極めたいじゃないか。王冠のような一部イベント装備を除いてほとんど全ての装備を生産で作ることができるということは、つまり極めろということだろう。ですよね?

「しかも、ハリセンに付いてる石のステータス、+90とか89とか、なにこれ。こんな石あるの?」

「しってるか、捨て石を千個集めて合成すると、ベースにした石のステータスが1プラスされるんだ」

もうどうにでもなれと、俺は穏やかな心で言った。

「知らない!ていうか、千個貯めて+1って、マゾすぎない?」

石は同じステータス同士ならまとめられる。ただし、平均値になる上、十個単位でしかまとめられない。千個貯めるには、インベントリの空きが最低でも百マス必要になる。それでやっと、1上がるだけ。強めの敵を狩って、稀に落とす高ステータスの石を狙ったほうが、まだ生産性がある。サービス開始当初からあるシステムだが、今や死にシステムと呼ばれ、存在すら知らないプレイヤーも多かった。

「そうでもない、初心者区域のモンスターって高確率で捨て石落とすから、何時間かやれば案外……」

大抵のプレイヤーは捨て石をその名のとおり捨ててしまうが、たまに露店でまとめ売りしていることがあるので、定期的に巡回しては買い占めている。

「単位がおかしいよさっきから……」

くろすが、ランクだけでなく石のステータスも熟練度も全てカンストしていると言ったら、この美少女はどんな顔で罵ってくれるだろうか。ちょっと興味はあったが、俺にはまだそこまでの勇気はなかった。

「驚いたなあ。強い人が入部してくれてよかったけど、くろすもこんな感じだとすると……。大会、自信なくなってきちゃった」

真青は俯いてしまった。俺は慌てて慰める。

「まだ時間あるし、個人戦じゃないからスキルと戦術でなんとかなるかもしれないよ」

「そうかなあ」

「つーか春果お前、大会にMASAOで出んの?」

「それも考えなくちゃ……」

『ともぴ』が大会に出られなくなった時点で、二人は半ば出場を諦めていたのだ。急に出られるようになったところで、準備不足は否めない。

「大会の要綱が出たの、冬だったよね。それから三月までに、サブ育てたりしてないの?」

「してたよ。でも、ちょうど壁に差しかかったところで智が引っ越しちゃって、それっきり……」

「俺はもっと低いな。春果と違って、家でも毎日やってるわけじゃねえし」

「八十の壁は越えときたいね……。三ヶ月あれば、なんとかなるかな」

低ランクでも、装備さえ揃えれば充分に戦えるところがとーすとの良いところだが、それでも、ランクがまったく関係ないわけではない。アバター本体のスロットの数は、ランクが十上がるごとに一つ開き、八十一で八つ目のスロットが開くのだ。スロットが一つ多いということは、使えるスキルもステータスも一つ増えるということなので、優勝を目指すなら八十越えは必須と言えた。

「壁越えてもさあ、今度はコストオーバーで使えないスキル出てくんじゃん。どこまでランク上げりゃいいんだよって話」

淡々と上半身を起こしては倒しながら、途切れ途切れに赤城が言った。

 石次第でどんなスキルでも使えるとはいうものの、石を付ければすぐにいくつでもスキルが使えるというわけではない。全てのスキルにはコストというものが設定されており、アバターのランクに応じて、コスト合計の上限が決まっている。装備している石のスキルの中から、使うスキルをコスト上限内で選んで登録することで、初めてスキルが使えるようになるのだ。世間では強いスキルの付いた石が持てはやされるが、バランスとコストを考え、自分のプレイスタイルに合った石を選ぶことが、楽しいとーすとライフには不可欠なのだった。

「さっき落ちた全石を売って王子様ブラウスを買って、残ったお金で良い石を買えば、少しはマシになるかな?」

「そういう手もあるね」

「それでも、買った石の熟練度上げがあるんだもんなあ……」

熟練度を上げるのは、一般的には面倒くさいことらしい。それもそうだ、普通は、経験値がほとんど入らない低ランク地域を、捨て石集めに何時間も徘徊するようなことはしないのだから。

 ひたすら腹筋をしながら会話を聴いていた赤城が、ふと起き上がり、真剣な顔で言った。

「つーかさ、せっかくチーム戦やるなら、ユニフォーム欲しくね?」

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