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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
十章

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ヌシ狩り

 「キャスト、電磁砲ナマズ!」

まずは弱点属性で、どのモンスターでも大体弱点に設定されている鼻先に一撃。巨大金魚はぎゃおお、と吠えて湖に潜ろうとし、着水の衝撃でフローラの村が吹っ飛びそうな量の水が、全体に津波となって襲いかかる。ミカミカが手を離さないように周りの面子が彼女を支え、

「キャスト、タートル四方ダイス

店長が、自分たちが津波に飲み込まれないよう盾で囲う。他の商店街メンバーも、各々飛行具で空に浮いたり同じように盾で防いだりと、対処には慣れたものだった。

「あーさん、波より高い位置に盾出せる?」

「おっけー」

「キャスト、跳躍ラビット

上空に出現した盾に飛び乗り、

「ミカミカ、もう一回引き上げて」

「はいっ!」

名前を呼ばれ、ミカミカが慌てて竿を立てリールを巻いた。

「キャスト、毒刺オコゼ

ぱくぱくと開閉する不気味な口目掛けて毒矢を放つ。外側は硬いうろこに覆われている化け物金魚だが、体内は柔らかいのだ。

「よくもまあ、動き回るまとの口の中なんか、狙えるよな」

「ウヴァロ杯もあれやられたもんなー」

「普段ぼけっとしてるくせにな」

「弓や銃はのんびり屋さんほど上手いって奴?」

地上の皆さんが完全に観客だった。俺しか戦っていないので、ヌシのターゲットは完全に俺に向いている。金魚はもんどりうって暴れた後、鼻先に光る球が収束し始めた。そして、パカッと口を開けたかと思うと、青白い光線が真っ直ぐに俺目がけて飛んできた。飛びのいた直後、あーさんが作った盾が砕け散る。落下しながら、攻撃の反動で動きが鈍くなった怪魚の鰓の隙間目掛けて数発打ち込み、

「キャスト、氷陣シロクマ

着水直前で、湖面に向けて氷属性の範囲攻撃スキルを一発。

「ほぁーっ」

波の形そのままに凍り付いた水面に着地すると、ミカミカが歓声を上げた。着水していた胴体部分が氷漬けになり、上を向いたまま身動きが取れなくなったヌシが、抜け出そうと暴れる。張った氷はさほど分厚くないので、すぐに割れてしまうだろう。猶予は少ない。

「ところでさ、いつも思うんだけど、毒で仕留めたら食べた時に当たらないのかな」

あーさんが不意に、緊迫した空気を霧散させた。

「加熱処理してるから大丈夫なんじゃね」

ウサギ先生も適当に返す。

「じゃあ刺し身は?」

「それもそうか。空気に触れたら無毒化されるってことでどうだ」

「それなら納得できるかも」

最終的に、無駄に科学的な見解に落ち着いていた。こっちは必死だというのに暢気なことを。

「あのお、今のうちにこう、お腹をざくーっと斬っちゃったらダメなんですか?」

ミカミカが、素朴な疑問を口にした。俺が先ほどから頭部しか狙っていないのが気になったらしい。

「倒すだけなら、それでもいいんだけどね。なるべく綺麗に倒したほうが、いいアイテムが出やすくなるんだよ」

「へえー」

「特に肝は、腹に穴開けたりするとほぼ採れねんだよ。そういう意味でも、仕留めるのには弓とか銃が向いてる」

大人たちからそんなレクチャーを受けている声を聞きながら、

「誰か、目玉欲しい人いる?」

狙いを付けたまま、俺は全員に向かって訊ねた。

「どうするー?」

すると、大丈夫ーとかいらないでーすとか、口々に聞こえた。

「要らないってー」

「じゃあ潰すよ?キャスト、電磁砲ナマズ

クールタイムの終わった強烈な一撃で、夢に見そうなおどろおどろしい目玉を、まずは左から射貫く。と、HPバーがごっそり削れ、より一層激しく暴れ出した。氷にひびが入り始める。

「あーさん、マオマオ、ここからあっちに向かって、階段みたいに盾作れる?」

「おっけー、オレ上段ね」

「わかった」

俺の指示で二人が作った階段に飛び乗ると同時に、湖面の氷が割れた。距離を詰める俺に、そうはさせまいとヌシは巨大な尾びれを翻して攻撃してくる。足場を壊される瞬間胴体に飛び移り、頭部に向かって駆け上がると、至近距離からもう片目に向かって風斬砲を放った。

「くろすさん、こっちっす!」

両目を潰されHPの残りも少なくなり、いよいよ全身で暴れ始めた怪魚に振り落とされた俺に、飛行具の幻獣グリフォンに乗ったろびんが手を伸ばした。先ほどの津波の際に、上空に避難していたようだ。

「ありがとーっ」

その手を掴み返して引き上げてもらい、グリフォンの背から執拗に頭部を狙う。

「なんであいつ、ウチの住民じゃないんだ?」

釣り竿から手を放すまいと必死のミカミカを支えながら、ぽつりとウサギ先生が訊ねた。

「誘っても断られんだから仕方ねえだろ」

五人を囲う大きな盾を張ったままの店長が答える。

 商店街の名は一種ブランドのようになっていて、生産を始めたばかりのプレイヤーが引っ切りなしに入れてほしいと懇願してくるのだそうだ。しかし、無暗に人数を増やしても治安が悪くなるので、基本的にはメンバーからの紹介制を取っているらしい。ギルドマスター副マスターとリアルの知り合いで、あーさんやみい子さん、その他大勢の団員と交流がありながら、未だソロを貫いている俺が不思議でならないようだった。

 二人の会話に、あーさんがぽつりと言う。


「くろくん、一人ギルドやってるからねえ」


「そうなんですか?!」

ミカミカが過剰に反応した。

「こら、よそ見すんな」

「はっ、すみません」

ゴチャゴチャ言っている地上を無視して、ろびんに攻撃を喰らわないギリギリまで近づいてもらい、鼻目がけてトドメの電磁砲を浴びせる。と、怪魚は耳を劈つんざくような断末魔を辺り一面の森に響かせ、再度津波を起こしながら、湖に沈んでいった。

「スッゲー、マジでソロで倒しやがった」

「お嬢ちゃん、引き揚げろ」

「はいっ」

抵抗の無くなったリールをせっせと巻き上げ、ウサギ先生の誘導で桟橋の上に打ち上げられた琉金の周りに、わらわらと団員たちが集まってきた。ざっと二十人ほどはいるだろうか。相変わらず集まりの良いギルドだ。

「キャスト、解体」

肉切り包丁を向けると、動かなくなった巨体の縦横に赤い光が走り、一瞬でバラバラになる。

「鱗、尾びれ、胸びれ、背びれ、骨、魚肉――あ、肝出たよ」

インベントリに収納されていく部位を確認すると、お目当ての肝も無事にドロップしていた。もっと綺麗にやれば、目玉と頭部も部位になるのだが、今回は速さを選んだのでこんなもんだ。

「おー、さすがだな。相場の二十万でいいか」

「いいよー。他の部位も欲しい人いたら買ってってー」

尾びれは特殊なドレスの素材になり、胸びれ、背びれは装備、骨は武器の素材になる。これだけ生産廃が集まっていると、買い手はいくらでもいる。最終的に魚市場の競りの様相を見せ始め、一番高値を付けた団員が買うということになった。

「マオ、釣りって楽しいね」

盛り上がる商店街の住人たちを、俺の隣で見ていたミカミカが、マオマオに言った。

「うん。いろんなことできるよ。服作ったり、野菜育てたり」

「ホント?服作るの、楽しそう」

その話を聞いていたウサギ先生が、不意に挙手した。

「よし、尾びれも俺が買う。今回の功労者に一着仕立ててやるよ。いいだろ?」

「ふえっ?!」

仲の良い商店街は満場一致で文句なしということになり、ミカミカが慌てている。

「よかったじゃん。いつまでも店売り装備じゃ、味気ないしね」

あーさんが微笑んだ。店売りの作務衣を愛用しているくせに、どの口がそれを言うか。ツッコミ待ちだろうか。

「え、でも……」

「羨ましい」

マオマオにまで言われ、おろおろと俺の顔を見上げる。

「貰っときなよ」

俺がそう言うと、

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」

ミカミカは、恥ずかしそうにはにかんだ。すると、団員たちはにやにやと顔を見合わせ始め――ろびんが突然せーの、と合図をして、

「「マザー・グランデにようこそ!」」

青空に、新たな異邦人を歓迎する花火が上がった。

 こうしてまた一人、とーすとの住人が増えたのだった。

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