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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
九章

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勉強会

 再び休日がやってきた。由芽崎市立図書館に十時集合ということで、俺が意気揚々と出かける準備をしていると

「最近、楽しそうだねえ」

久しぶりに休みが被った父が、寝間着のスウェットと寝癖の付いた頭で見送ってくれた。

「そう?いってきます」

「うん、いってらっしゃい」

 そして、集合時間よりも十分ほど早く図書館に着いた。広々とした敷地に佇む近代的な建物で、手前には芝生が敷かれ公園のようになっている。

 駐輪場にバイクを停め、室内にいるには勿体ない天気だなァと空を見上げていると、

「駆君!」

背後から、快晴の青空が降ってきたような、涼やかな声がした。さすが、優等生は十分前行動など当たり前だ。

「あ、真青さんおはよ……」

「あーっそのまま!」

「へっ?」

カシャ、といつか聞いた音がして、振り向きざまの俺の顔にスマートフォンを向ける美少女と目が合った。

「えっ、あっ?!」

一瞬何が起きたのか分からなかったが、まだヘルメットを被ったままだったので、前髪を下ろしていなかったことに気付いた。

「えっへへー、早く来てよかった!」

「また?!」

「今度は堂々と撮ったもん」

何故貴女は俺のノー前髪スタイルを撮りたがるのだ。慌ててヘルメットを脱いで、前髪を戻しながら抗議した。

「写真は事務所通してください……」

「えーっ」

真青がいつも持ち歩いているスマートフォンに俺の写真が保存されているなど、彼女の正気が疑われてしまう。しかし、当人は意に介さない。と、そこでやっと、俺は真青の格好を直視した。

 裾がフリルになった細身のワンピースにショートパンツを合わせた、活動的ながら可愛らしい服装。そして――いつも下ろしている黒髪を、うなじで結い上げ、バレッタで簡単に留めていた。

「どうしたの?」

ぽかんと口を開けて固まってしまった俺に、真青は首をかしげた。

「あ、いや、なんでもないです……」

懐かしさすら覚える、彼女と同じ髪型。性格も雰囲気も全然違うし、別に重ねているつもりは全くなかったのだが。なんで敬語なの?と無邪気に笑う真青に、曖昧に笑い返して誤魔化した。

「先に中入ってようよ」

「うん……」

まだ来ていない二人に『奥のデスクスペースにいるからね』とメッセージを打つ後ろ姿を、俺は複雑な気持ちで見るしかなかった。


 なんとか気を取り直して、館内のデスクスペースを四人分確保して座り、俺と真青はそれぞれテキスト教材を鞄から出した。

「駆君、苦手な教科ってある?」

「むしろ得意な教科がないなァ。応用が苦手っていうか」

基本的なことは理解できるのだが、少し捻られるとすぐにミスをするのだ。満点は小学校以来取っていない。

「ゲームだと、面白いことするのにね」

真青はくすくす笑う。本当に、何度見ても彼女の笑顔は魅力的で、状態異常の魅了チャームとはきっとこういうものなのだろうと感じた。もちろん、現実の俺は魅了無効のスキルは持っていない。赤城なら持っているかもしれない。

「好きなことじゃないと、身が入らないんだよねえ」

「そっかー。じゃあ、なんでゲームが好きになったの?きっかけは?」

俺の隣に座り、さっそく問題集を開きながら真青は訊ねた。

「きっかけ?」

言われて、改めて考えてみる。

「うーん。初めは、父さんがやってるのを横で見てたんだ」

それから、遊び方を覚えて父と一緒に遊ぶようになり、そのうち一人で遊ぶようになった。もはや、そこにゲームがあったから、としか言いようがない。遺伝子に刻まれた何かなのではという気がしてくる。

「そんなに真剣に考えさせるつもりじゃなかったんだけど」

しまった、真青を困らせてしまった。今日は勉強をしに来たのだ。雑談で手を止めている場合ではない。

「いや、考えたこともなかった。真青さんは?なんでゲーム始めたの?」

見た目はとてもテレビゲームなどするようには見えない。浮世に触れていなさそうというか、流行りの少女漫画くらいなら読んでいるだろうか、くらいにしか思っていなかった。

「私?私はねえ、……小学校上がる前に、両親が離婚してね。家にいる時の遊び相手がゲームくらいだったんだよね」

何気なく振ったつもりが、ヘヴィな話題にシフトしてしまった。これだから会話のキャッチボールは難しい。

「人見知りだったから、友達もあんまりいなくてさ」

「へ?そうなの?」

コミュニケーションの鬼は、幼少期から鬼だったのだとばかり思っていたが。

「巧は友達いっぱいいたから、あんまり頻繁に家に押しかけるわけにもいかなかったし」

「あはは……」

容易に想像できた。人を惹きつける力というか、カリスマ性というか。彼についていけば楽しいことがあるに違いない、と思わせる空気があるのだ。きっとガキ大将だったのだろう。

「あ、そっか」

「どうしたの?」

「俺がゲームを好きになった理由なら、思い出したよ」

「なになに?」

どうして思い当たらなかったのだろう。簡単なことだった。

「自分じゃない誰かになれるからだよ」

目立つのは怖い。しかし、憧れがないわけではない。地味男子同盟に甘んじながらも、赤城のように輪の中心にいるような人物になれたら、と思うことは、度々ある。それを叶えてくれるのがゲームだった。ゲームの主人公はいつだって、一番強くてかっこよくて皆に慕われているから。俺の答えに、真青は小さな口をぽかんと開けて、しばし俺の顔を見ていた。至近距離過ぎて前髪の効果が薄い。

 そろそろ耐えられなくなってきた頃、真青は不意に噴き出して、言った。

「だから、とーすとのアバターも全然違う顔にするんだ?」

「そ、それは、単純にあんまり自分の顔が好きじゃないだけで……」

くろすは三白眼のギザ歯、しゅがーは正統派イケメン、ナルは少しだけ寄せたが、コンプレックスの目元は釣り目にした。

「あ、もしかしてカワイイって言われるの嫌だった?ごめんね?」

「うっ」

改めて謝られるのも、気にしていることがバレて恥ずかしい。それを隠すべく、手で更に顔を覆う俺。そして、

「でも、駆君ホント、全然変な顔じゃないよ?猫っぽくてかわい……あっ」

謝った傍からまた口を押える真青だった。

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