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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
九章

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リーダー

 三日ぶりの学校に登校すると、鈴木が休みだった。

「なんか、昨日ロードバイクで出掛けて風邪引いたらしいぞ。ほら、昼から急に雨降ったじゃん」

「へー」

クラスメイトから、そんな話を聞いた。呪ったわけではないが、連休前の予想が当たってしまった。やっぱり休みの日は家に引きこもるに限る。


 昼休みの保健室で、俺たち四人は各々、弁当をつつきながら真剣な顔で唸っていた。

「何でもいいから早く決めろ。どうせ形だけで大したことはしねえんだから」

麻木先生が、ノートPCを開いてイライラと人差し指で机を叩いている。

「全うに考えたら、やっぱ春果ちゃんか赤城がやるんがええんと違う?」

「俺もそう思う」

海鳥と俺の意見は概ね一致している。なんせ、自分たちは云わば助っ人として参加しているだけなのだから。しかし、

「だから、春果がやればいいだろ?言い出しっぺで部長なんだからさあ」

「でも、四人の中で最弱だよ?巧のほうが向いてるって」

部長がやるべきと言い張る赤城と、どこぞの四天王のようなことを言う真青。こんな感じで、さっきから議論が平行線なのだ。

「もうジャンケンで決めろ。勝ったほうがリーダーな」

「負けたほうやなくて?」

麻木先生の提案に、海鳥が首をかしげる。

「勝ちに行くのに、負けたほうがリーダーやったら余計負けそうだろ」

超理論だった。すると、真青ががばっと顔を上げ、俺のほうを向いた。

「駆君、駆君はどっちがやったほうがいいと思う?」

「へっ?!なんで俺?」

突然話を振られ、俺は挙動不審になる。

「実質リーダーみたいなもんだろ。校内戦の時も代表みたいなことしてたし」

「ええー……」

あれは麻木先生の指示だったからであって、俺が進んで何かしたわけではないのだが。しかし、意見を求められたからには何か言わねば。少しためらってから、思っていたことを口にした。

「俺は……赤城のほうがいいんじゃないかなって、思うけど」

「あってめ」

「理由は?」

うらぎりものー、と叫ぶ赤城を制止して、麻木先生が訊ねる。

「チーム戦に慣れてて、周りのことよく見てるし……。いざという時に、リーダーが冷静だと助かる」

それに、先日のこともある。何でもないふりをして陰で努力する男、かっこいい。

「真青が冷静じゃないみたいな言い方だな」

「いやそういうつもりじゃないです!決して!」

ごめんなさい、そういうつもりでした。意地の悪い顔で笑う麻木先生は、俺が慌てるのを見て面白がっていた。酷い大人だ。

「せやなー、うちもどっちかって言うと赤城かなー。春果ちゃん、責任とかあると思い詰めるほうやろ?」

「あはは……」

会って三日ほどの相手に図星を突かれ、苦笑するしかない真青だった。

「俺がすげえ気楽みたいじゃねえかよ」

「違うん?」

「覚えてろよ」

赤城が睨みつけるも、海鳥はうっひゃっひゃと笑って意に介さない。ある意味相性は良いのではないかと、赤城が海鳥のことを気にしているという母情報を反芻しながら、議論に全く関係ないことを考える俺だった。

「じゃあ、赤城でいいか?いいな?申請出すぞ?」

また意見がとっちらからないうちに、さっさとまとめてしまおうと、麻木先生が急かす。

「わかったよ、やりゃいいんだろやりゃあ。どうなっても知らねえぞ」

頼まれると断れないとも言っていた、性根はお人好しの彼は、結局やけくそのように承諾した。

 やっと終わった議論の後、既に開いていた入力フォームに速やかに情報を打ち込みながら、麻木先生はぼそりと言った。

「そういや、お前ら中間は大丈夫だろうな。補習なんか喰らったら、大会出場できねえぞ」

一応部活だからな、というその言葉に、真青が赤城を見て、赤城が俺を見て、俺が海鳥を見て、

「なんや自分ら!こっち見んなや!見ないでください!ちゃんと頑張ります!」

海鳥が腕で顔を隠した。


× × ×


 「あかーん!いつも以上にあかん気がする今回!」

放課後になり、げきま部は物置教室、海鳥は一度家に帰ってからログインしていた。

「何が」

俺は蘇芳と共に浅瀬からジェイドフォレストへ移動して、浮遊霊の魂を狩り始めた。が、三十分ほど経ったところで、かにたま改め狐娘ライムが、悲鳴を上げた。

「数学も英語も全然わからん」

中間考査を控え、週明けから部活動停止期間になる。麻木先生に釘を刺されたこともあり、今日はログインして会話だけ参加しつつ試験勉強を、とやる気を出していた。が、いざ取り組み始めても、わからないものはわからないらしい。

「ちゅーか、春果ちゃんが頭いいんは知っとるけど、他の二人は?特に赤城」

「お?喧嘩売ってんのか?」

名指しされ、蘇芳がチンピラのような声で煽った。

「レッドは熱血馬鹿やて決まってるやんか」

「熱血でも馬鹿でもねえよ、残念ながら」

へっ、と鼻で笑うカエデレッド。いや、結構熱血だと思う。とは口には出さず、俺は二人の言い合いを黙って聞く。

「具体的には?」

「一年の学年末は、確か三十位だったよね」

昨日の反省を踏まえて再びランク上げに勤しむルリが、代わりに答えた。ちなみに、一学年三百人ほどなので、上位十パーセントに入っていることになる。

「死角無しやないかこのインテリイケメン!!」

ライムが激昂した。

「全然誉められてる気がしねえ」

誉めているのに罵倒にしか聴こえないという高等スキルを使われ、複雑そうな蘇芳。ライムはなおも突っかかる。

「へいニイチャン、得意科目は?」

「体育と英語」

即答だった。ぐぬぬ、と悔しそうな声がする。

「英語は、お父さんがネイティブだもんねえ……」

「どういう意味やの?」

ルリの言葉にライムが不思議そうに訊ね、赤城家の家族構成を聞いた瞬間、

「どこまでチートやねん!クォーターで英語ペラペラ、スポーツ万能で成績優秀、姉が読モ出身モデルて、前世で何の徳を積んだらそないなごっつい設定になんねや!恋シュミの攻略対象キャラか!!」

荒ぶるライムだった。カッとなると、ツッコミと方言がきつくなるようだ。

「知るかよ、じいちゃんと喋りたかったら英語覚えるしかないって言われて、父親の実家行く前に必死で覚えたんだよ」

健気な理由だった。赤城巧は幼少の頃から努力家だったようだ。

「あと、国語はあんま得意じゃねえ」

「それでも補習にはならへんのやろ!赤いのは名前だけか!」

全国のレッドに謝れ。最近はクレバーなレッドもいるぞ。

「はあ、もうええわ……。せやったら、駆は?」

ひとしきり叫んだ彼女は、同類を求めて今度は俺に話を振ってきた。

「良くもないけど、赤点取ったことはないなァ」

順位は大体二桁後半から三桁前半を彷徨っている。点数を見ても、どの教科も概ね平均点。得意科目はこれという主張もできない、地味すぎる成績だ。強いて言えば情報科と家庭科だけ突出して高いのだが、期末しか筆記テストがないので中間考査では役に立たない。

「くっ、裏切り者」

「てか、あねさん実際どれくらいヤバいんすか」

おそるおそる訊ねると、

「……学年末は英語数学日本史赤やったわ」

「ガチでヤバい奴じゃねえか」

あと一つ落としていたら進級も危うかったと脅され、春休みは補習で潰れたらしい。軽口を叩いていた蘇芳が、真剣な声色で呟く。すると、

「じゃあ、明日は図書館で勉強会する?」

女神の福音が鳴り響いた。

「ほんまに?!ええのん?!」

「うん、来週から私も試験勉強しようと思ってたし、誰かと一緒のほうが捗るでしょ。二人もやろうよ」

「えーっ!休みくらい休ませろ!」

せっかく女神が直々に誘ってくれているというのに、贅沢な不満を漏らす勇者もいたものだ。

「ここ一週間ほとんど休みだったようなもんじゃん。それに、部活停止になってもとーすとは家でできるから、全然できなくなるわけじゃないし。ね、駆君も来るよね?」

「アッハイ!」

やったぜまた私服の真青が見られる。女神を崇め奉る村人に、断る理由はなかった。

「そんなら、明日に期待して、今日は遊んだろ」

「それだよ」「そこじゃない?」

目先の楽しみにすぐ負けるという、彼女の欠点が発覚した。

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