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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
八章

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72/118

みどりの日

 午後は、かにたまの加わったげきま部に参加した。壁を越えたルリはとりあえず百を目指してクエストに勤しみ、ランク百五だというかにたまは、

「名前、変えたいわー」

蘇芳とナルの分のクエスト品を集めるのを手伝いながら、呟いた。

「なんで?」

「自分で言うのもアレやけど、あんまりテキトーに付けすぎやんか。三人ともかっこええ名前やのに、一人格好つかんわー」

おばけアコヤを、弓を使って俺と同じ戦法で大量に仕留めながらぼやく。

「別にいいと思うけど……。呼びやすいし」

俺とかにたまがあまりにもリズミカルに殲滅していくので、蘇芳はやってられっか!と言って、タゲの被らない遠くに行ってしまった。ということで、ほぼ背中合わせのような状態で二人でアコヤ退治をしている。

「いーや、折角グリーン担当やし、それっぽい名前付けたいわ。名札買うわ」

サブアバターを作るとランク上げが一からになってしまうので、別の名前で遊びたいがランク上げは面倒くさいというプレイヤーへの救済措置として、『神の名札』という課金アイテムでアバター名を変更することができる。大会は課金アイテム禁止だが、ステータスに関わらない部分への課金は禁止されていない。同じく、キャラメイクをやり直すアイテムとして『魔女の鏡』というものも存在する。

「名前、何にしよか」

「スベスベマンジュウガニとかでいいんじゃない」

喋りながらも手は止めないかにたまに、背中越しに適当に相槌を打つ。

「それ毒ある奴やろ!てか、蟹はもうええ!」

「いてっ」

背中に手刀でツッコミが入った。くろすと違い、ナルの奇襲許可設定はオフにしているのでHPが減ったりはしないが、衝撃はある。

「だって、メインがタラバでしょ?蟹シリーズにしないの?」

「蟹シリーズてなんやねん。……ん?うち、メインの名前言ったっけ?」

しまった、口が滑った。

「あ、いや、百鬼夜行で鎖鎌使うのって、タラバって人くらいだったと思って……」

「まあ、確かにそうやけど。真空刃の威力が高くなる言うだけで、基本的にはネタ武器扱いやから、人気ないんよ。面白いんやけどなー」

どうにか誤魔化せた。それはさておき、ネタ武器を愛するところまで似ているのか。前世で双子だったか、魂が二つに分かれたとかじゃあるまいな。

「ほんまは、デスサイスが欲しいんやけどな」

「デスサイスかァ。ロマンだよね」

デスサイス――豪奢な装飾をあしらった、漆黒の大鎌。分類は大剣で、鎖鎌同様特殊な形状をしているので扱い辛いが、やはりカマイタチスキルでボーナスが付く。しかし、生産するにはショール城という、腰を抜かす人続出のお化け屋敷系上級ダンジョンに行き、緊急ボス『十三番目の姫君(トリスカイフィリア)』が落とす、黒き宝玉というアイテムを手に入れなければならない。これが、全く落ちないのだ。武器の外観があまりにも心の中の十四歳を呼び覚ますので、好きな武器ランキングでは灼鉄剣と人気を二分しているが、需要に全く供給が追いついていない。さらに、灼鉄剣と比べると実用性が低いので、わざわざ性能のいいものを作ろうとする職人もごく少数。八スロットともなると、露店ではまずお目にかかれない。

「ある美さんに訊いてみたら?持ってるかもよ」

「仮にアルミ様が持っとったって、こっちの手持ちが足らんわ。相場いくらやと思てんの。昨日挨拶して、協力するとは言うてくれはったけど、貰うには高すぎるやんか」

実は黒き宝玉も、海龍のヒレ同様貢いだことがあるので、持ってるかも、ではなく確実に一本は所持しているはずだ。ソロで倒してSランクの解体スキルが使えれば、いくら落ちないと言っても確率はかなり上がるのだ。

「じゃあ、レンタルする?」

アイテムインベントリからぞろりと噂の大鎌を取り出すと、

「あーっ?!なんで持ってんねん!!ちょっと振らして!!」

自分の弓を放り出して食いついてきた。俺が持っていないわけがないだろう。かにたまは目の色を変えて俺の手からデスサイスを奪い取り、最寄のアコヤを吹っ飛ばして歓声を上げた。

「やっぱりええなー!なあ、コレほんまに借りとってええ?」

「いいよー」

「ほんなら、自前で手に入るまで借りとくわ!」

そう言って、上機嫌で石をセットし、鎌を振り回し始めた。またそのうち作ればいいので、半永久レンタルで構わない。かにたまが喜び勇んでアコヤを切り刻む姿を、しばらく呆れて見ていた俺だったが、

「……二人とも、今日なんか静かだね」

ふと、先ほどから、ルリも蘇芳も大人しいのが気になった。

「えっ?別に、普通だよ?」

「お前こそ、今日は元気だなあ」

なんだか、語調に皮肉が籠っている気がする。俺の隣で遠くに見える蘇芳の姿を見ながら、かにたまが言った。

「あっ、わかった!うちらが仲良しやから、新入りにナルが取られた思てやきもち妬いてんねやろ!」

「えっ?!」

なんだそれは。かにたま、もとい海鳥とは妙に反りが合って話しやすいのでつい喋りすぎるが、だからと言って二人をないがしろにしたいわけではない。

「ちげーよ!」

「そんなんじゃないって!確かに、仲いいなあとは思ってたけど……」

蘇芳が即座に否定し、ルリも慌てた様子で反論した。

「心配せんでええって、昨日も言うたやん」

「昨日?何かあったの?」

「なんでもないよ!」

昨日、二人は結局とーすとをやっていたというのは聞いた。ある美さんも交えて女子同士で親交を深めていたらしいが、ルリの焦り具合を聴くに、どうやらそこでのっぴきならない話題があったらしい。

「そんなことより!今日、水曜日だよねっ!」

ルリがあからさまに話題を変えた。

「せやな。それがどうかしたん?」

ニヤニヤしながら、かにたまが訊き返す。

「てことはさ、佐藤さんちの夕ごはんの日じゃない?」

そうだ、普段は学校に行っているので観られないが、今日は休日なので例のワイドショーが見られる。時刻は丁度、四時を回る前だった。

「ちょっと中断して、観てみようよ」

「ええな!実況や実況」

そういうと、ごそごそと音がした後、かにたまがその場に座り込んで動かなくなった。PCの前を離れるために受信を切ったらしい。

「じゃあ俺も、たまには観ようかな」

正直、母が仕事している姿を観たことはあまりない。昔からやっている料理教室には幼少期に何度かお邪魔したことがあるし、本の出版の際には、使い慣れていない自分のノートPCの前で唸っているのは見ていたが。

 同じように受信を切り、音声機能だけを保持してリビングのテレビの前に向かった。テレビをつけると天気予報をやっていて、明日は雨が降るらしい。そして、『CMの後は佐藤さんちの夕ごはん!』というテロップの後、CMが始まった。

「あっ!らぶぃくんだー」

噂の、いい声で喋るらぶぃくんのCMだった。ちょっとしたコント仕立てのアニメCMに、真青が歓声を上げている。

「あのウサギこんな声してんのかよ」

人気声優を使っているらしい。予想外の溌剌とした良い声に、赤城が噴き出した。

「はーてぃくんの声渋いなー!」

爽やか系のらぶぃくんとは裏腹に、はーてぃくんは低音の響くハードボイルド系の声だ。

「ぴーすぃーちゃんの声ホント可愛いね」

歌を披露するぴーすぃーちゃんに、真青が関心しきりだった。よく聴いてみたらこの声、昨日観た映画の黒髪の子と同じではないか。人気のアイドル声優らしい。

「この曲、CD出るんやってな」

「マジかよ」

「結構いい曲じゃない?」

明るくポップな曲調で夢や希望を歌う、正統派アイドルソングだった。もはやこのウサギたちが何なのか、よくわからなくなってきた。その後、洗剤のCMやカレールウのCMなどを挟み、

『佐藤さんちの夕ごはん~!』

タイトルコールと共に、見慣れた顔が現れた。

「駆ママやー!テレビより実物のほうが美人やな」

『えー、本日の夕飯は、こどもの日、そして母の日が近いということで、お子さんにも作れる!簡単ちらし寿司です』

ゲストの俳優が紹介された後、アシスタントの芸人がフリップで材料を説明する。

『そういえば、佐藤さんも息子さんがいらっしゃるんですよね』

酢飯を作りながら、芸人の男性が話題を振る。

『いますよ。今高校二年生です』

『高校生ですかー。お母さんが料理が上手いって、食べ盛りの男子には嬉しいですよね』

ニュースキャスターの男性も相槌を打つ。

「マジ羨ましい」

加えて、赤城もぼそりと呟いた。うちで夕飯を食べて以来、インスタントや冷凍食品が味気なく思えて仕方ないらしい。

『それが、最近息子のほうが上手い気がするんですよ』

『えっ!息子さんも料理されるんですか?』

『はい、特に強制したことはないんですけど、いつの間にか手伝うようになって。高校生になってからは、お弁当も自分で作っていくようになりました』

『そうなんですか?!』

「そうなん?!」

芸人と共に、海鳥が驚いた。

「美味しいよね、駆君のお弁当」

「おん、金払うから俺の分も作ってきてほしい」

真剣な声で言う赤城だった。

『この前も、ついでだからって私の分まで作ってくれて』

うふふ、と猫を被った笑い方で嬉しそうにする母。すると芸人の視線が画面の下のほうに向いた。カンペが出たようだ。

『あっ、息子さんが作ってくれたお弁当の写真があるそうです』

「ぶっ?!」

思わず、冷蔵庫から取ってきた飲み物を噴き出しそうになった。切り替わった写真には、つい先日作った弁当を笑顔で頬張る母が写っていた。何をしてるんだ母よ。

『ホントに息子さんが作られたんですか?!ステキな息子さんですねー』

『ちょっと変わってるんですけどね。普段はゲームばっかりしてるし』

うっひゃっひゃと海鳥が笑う声がした。貴様だけは人のこと言えないだろう。どうせ連休中はひたすらコロセウムに入り浸るつもりだったくせに。

『まあそれは旦那の血かなァと思うと、怒るに怒れないんですよねえ』

『おっ?いつものノロケですね?』

うちの両親が仲睦まじいのは周知の事実で、鉄板ネタらしい。そのまま、話の流れはゲストの俳優に誘導され、違和感なく俳優が主演している映画の宣伝に繋がった。芸人の話術の為せる業だ。

「見てると食べたくなるからあかんな。お母ちゃんに今日ちらし寿司がええて言お」

彩りの綺麗なちらし寿司を食べている画面の向こうの皆さんを見ながら海鳥がぽつりと呟き、赤城は、はらへったー、と唸った。

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