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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
八章

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一方、女子会

 駆と麻緒がフードコートにいる頃。

「いざ急にお休みやーいう話になると、することないな」

「だよねえ」

「赤城は?」

「誰かと遊びに行ったんじゃないかな。元々アウトドア派だし」

ルリとかにたまはとーすとにログインして、コロセウムの二階のカフェのテラス席で、だらだらと駄弁っていた。

「うちらもどっか遊び行く?」

「……一回ログインすると、外に出る気失せない?」

「……わかる……」

何しろ、本当に外にいるような日差しと風を感じるので、引きこもっているという実感が薄れてきてしまう。彼女たち――かにたまは男性アバターだが――は、『日焼けしないし歩き回っても足も痛くならない』という、仮想現実の恩恵に、完全に甘んじていた。

「てか、春果ちゃんも遊びに誘われたりしてへんの?」

「ずっと前から、ゴールデンウィークは予定あるって言って断ってたから。海鳥ちゃんは?」

限定メニューのフルーツタルトにフォークを刺しながら、ルリが訊き返した。

「うちは元々引きこもる気満々やで。百鬼夜行のメンバーが、対人戦エリアアップデート直後の連休によそに遊びに行くやなんて、考えもせんよ」

未だかつてないアクティブメンバー数や、と笑った。

「そっか、対人戦好きなんだもんね。しなくていいの?」

「夕方から、ギルド内で総当たり戦でもして遊ぼうかーいう話が出てんねん。せやから、それまでは適当やな」

かにたまはアイスティーの氷をかき混ぜながら答える。と、そのテーブルの上に、不意に影が落ちた。二人が同時に顔を上げる。

「こんにちは」

「アルミさん!こんにちは」

凛と佇む着物の女性に、ルリがぱあっと顔を輝かせた。かにたまは対照的に、口を開けて驚く。

「今日は、いつものメンバーではないのですね」

「はい。今日はナルは用事があるみたいで、欠席です。あ、大会に出るメンバーが増えたんですよ」

かにたまを示して紹介すると、アルミニウムは涼やかな視線で瞬きした。

「そうなんですか。Aluminum*です。よろしくお願いいたします」

「あ、はい、かに☆たまです。よろしくです。ほんまにアルミ様と知り合いなんやー」

ルリが立ち上がって椅子を引き、アルミニウムは礼を言って相席する。

「ということは、カエデ装備をもう一着、仕立てる必要があるのでは?」

早速メニューに目を落としながら、アルミニウムがぽつりと言った。

「あ、そうですね」

「……昨日は、彼は何も言っていませんでしたが」

彼とは、言わずもがな奴のことだ。昨日言ってくれれば今日中に仕立てたのに、それともまた自分で作るつもりかと言いたげな空気が伝わってきた。

「昨日、ナルと会ったんですか?」

「ええ、夜に偶然。このエリアを探検していたようです」

「そうなんですか」

夜も遊んでるんだ、と素直に感心するルリ。そして、かにたまが思いついた顔で訊ねた。

「アルミ様って、ナルのメイン知ってはりますんやろ?」

「ええ、まあ」

人懐こい笑顔に圧されて、アルミニウムが戸惑いがちに頷く。ルリが首をかしげた。

「しゅがーじゃないんですか?」

「しゅがー?……ああ、あのふざけたメイド服ですか。あれもサブですよ」

NPCを呼び止め、アイスカフェオレを注文してから、アルミニウムが答えた。

「えーっ!だって、しゅがーもランク百二十って言ってたのに。それじゃメインは?」

「わたくしも詳しくは訊いておりませんが、行動範囲やスキルコストから鑑みると、カンストか、それに近い数字ではないかと思います」

「ほんでほんで?正体は誰なんです?勿体ぶらんと、教えていただけません?」

焦らされ、そわそわとかにたまが答えを急かす。が、アルミニウムはその顔を一瞥し、

「隠しているということは、言いたくないのでしょう。わたくしがその意に反するのは憚られます」

静かに回答を拒否した。

「そんなぁー」

かにたまは、大げさに肩を落とした。

「なんでやろ、スッゴイ気合いの入ったネカマで姫プレイでもしてるんかいな」

腕を組んで、自分好みの美少女仕立ててるとか?とあらぬ予想を立て始める。が、すぐに飽きたのか、再びアルミニウムに訊ねた。

「せやったら、どないしてナルのメインはかぐや姫と仲良くなったん?馴れ初めは?」

「貴方も、随分ぐいぐい来る方ですね。……彼も、そんな風に話しかけてきて、何を言ってもめげないので諦めただけですよ」

NPCがアルミニウムの注文を運んできて、静かに去っていった。

「なるほど。マゾやもんな。しかも黒髪の美人大好きやもんな」

うちとそっくりやん、と言いながら、にやりとルリのほうを見て笑った。

「そういえば、部屋に綺麗な人と一緒に写った写真もあったもんねえ」

一方で、視線の意図には気付かず澄玲と写った写真のことを思い出しているルリに、かにたまとアルミニウムがそれぞれ、ダメだこれは、と言いたげな顔をした。

「綺麗な人、というと……。もしかして、くろのすさんでしょうか」

「「くろのすさん?」」

二人が同時に聞き返す。

「一年くらい前まで、彼とよく一緒に遊んでいた女性ですよ。とても美しくて聡明な方で――それこそ、でれでれ、という擬音がしそうなくらい懐いていましたね」

「よくもまあ、美人と次から次に縁があるなあ。羨ましいわ」

真剣な顔で呟くかにたまだった。

「今は?」

「さあ。ここしばらくお見かけしませんから、引退されたのかもしれません」

「……」

ルリが、長い睫毛を伏せて何か思案していた。かにたまが訊ねる。

「どないしたん、ルリちゃん」

「え?ううん。私、ナルのことなんにも知らないんだなあと思って。喋るようになってまだ一週間くらいだから、当たり前なんだけど」

少し寂しそうな顔をしたルリを見て、かにたまが新しいおもちゃを見つけた顔をし、アルミニウムは無表情のまま、少し目を細めた。そんな二人の反応に、ルリは口を尖らせて続ける。

「四月の始めに席替えしてから、ずっと前後ろだったのに。なんか悔しくて」

「……ご褒美やったんやないやろか……」

「わたくしもそう思います……」

本人にどれだけ自覚があるかはさておき、佐藤駆という男は、好みの美人になら大体何をされてもいいという生粋の変態だ。アウトオブ眼中の放置プレイ、大好きなさらさらの黒髪の後ろ姿見放題など、彼にとっては完全に前世の徳か何かによるボーナスステージだ。そんなことは知らないルリは、仔兎を慈しむような二人の視線に、ん?なにが?と首を傾げるばかりだった。

「てか、アルミ様、噂より喋りやすいひとやな」

「大体どんな噂なのかは存じておりますが、本当に歯に衣を着せない方ですね」

「正直者やねん。正直ついでに訊くけど、アルミ様はナルのことどう思ってはるん?」

ニヤニヤしながら置かれた突然の爆弾に、ルリの頭上に!マークが点灯した。驚いた時などに勝手に表示されるアイコンで、設定で消すこともできる。一抹の不安と、女子トークに興味津々といった様子を隠さないルリだった。

「どう、と言われましても、わたくしはゲーム上の付き合いしかありませんから……」

無表情に少しだけ困惑を滲ませながら、目を伏せるアルミニウム。

「……よくわからない人、というのが本音ですね。好意を隠さない割に、あっさりしているというか」

少し言い辛そうに答えた彼女に、かにたまはうんうん、と大げさに頷いた。

「そらそうやろな。あわよくば、みたいな下心があらへんもん。言うたらアイドルとファンや」

「海鳥ちゃん、すっごいわかってる感じだね。昨日までは、名前も知らないって言ってたのに」

「同志のニオイがすんねん。あ、心配せんでも、好みやないから大丈夫やで?」

かにたまはアイスティーの残りを行儀悪くズズーッと音を立てて吸い、取ったりせえへんよ、と悪戯っぽく笑った。

「大丈夫って、別に、そういうのじゃないよ?!」

必死に弁解するも、見る見るうちにルリの顔が赤くなっていく。取ったりって、ものじゃないんだから、とぼそぼそ言う頃には、耳まで真っ赤になっていた。アバターの反応は正直だった。

「いやーんやっぱりかわええなー。絶対あの男には見せてやらんわ」

ふにゃっと表情筋を溶かし、俯くルリの顔を覗き込むかにたま。そんな二人のやりとりを黙って聞いていたアルミニウムが訊ねる。

「貴方、もしかして中身は女性なんですか?」

「察するのが遅いで!ちょっと悲しい!」

オーバーリアクションで胸を押さえるかにたまだった。

「……そういえば駆君、私が名前で呼んでって言った時は断ったのに、海鳥ちゃんのことは初めから名前で呼んでたんだよね」

「言われてみれば、赤城のことも赤城て言うのに、うちのことは名前で呼ぶなあの男」

向こうも同志やと思てんと違う?と、図星を当ててきたが、ルリは腑に落ちないようだった。そしてアルミニウムは、

「あの、先ほどから個人情報が漏れていますが、わたくしは聴いていても大丈夫なのでしょうか」

居心地が悪そうに口を挟んだ。

「協力者なんやろ?かまへんやろ、別に」

あっけらかんとした様子の二人に毒気を抜かれたような顔をしてから、珍しく少しだけ微笑んだ。

「でしたら、一方的に聴いているのも憚られますし、わたくしの本名も教えておきます。本名は、二海堂にかいどう有美ゆみと言います」

「それでアルミさんなんですね」

有美という字の読み方を変えたのだと、すぐに気付いて関心するルリと、

「……ほんまに、中に人がいてたんや」

人工知能プログラムかなんかやって言われても信じるところやった、と真剣な顔で言うかにたまだった。

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