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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
七章

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好み

 いつだったか、写真をプリントアウトして丁寧にアルバムに収める作業をしている母に、どうしてかさばるのにわざわざ出力するのかと訊ねたことがあった。すると、

「今は何でもなくても、いつか見返したくなる時が来るから」

そんな言葉が返ってきた。

「別に、見返すならデータのままでもいいじゃん」

首をかしげると、母はくすくすと笑った。

「そうね。近い未来、本当に何もかもデジタルのデータだけって時代が来るかもしれないけど……。人間もパソコンも、忘れたくないことを簡単に忘れちゃうでしょう」

「つまり、ログをローカルにバックアップ取ってるってこと?」

「お父さんと同じこと言うのね。まあ、そういうこと」

親子ねえ、と笑われた。


 そもそも棚の写真類は、俺が置いたものではない。時々、母がそっと増やしていくのだ。俺が増やしたのは、父の実家の猫の写真だけ。

 よくよく思い出してみると、舞台を観に行った後、ゲーム中にやってきて『ここに置いておくからね』と言われ、生返事をしたような気もする。まあ、今はその話はどうでもいい。

「うん、知り合いの役者さん」

「へえー」

母の仕事柄か、どうして知り合ったのかなどは特に詮索されることもなかった。

「お前、分かりやすいよな」

ぼそりと、赤城が言った。女性の好みの話をしているらしい。悪いか。

「こだわり派なんだよ」

「言ってろ」

脇腹を強めにど突かれた。痛かった。

「何話してるん?混ぜてや」

「女子はちょっとあっち行っててくださーい」

海鳥が間に割って入ってくるが、しっしっと赤城が追い払った。

「むっ、うちらに聞かせられん話?……エロ本の隠し場所の話か!」

「ちっがうよ!!」

あらぬ方向に邪推されて、全力で否定した。大丈夫、そういったものはそれこそ全部データなので、漁られても部屋の中にはない。じゃなかった。

「とんとん、ちょっといーい?」

ベッドの下かクローゼットの奥か本棚の裏かと勘ぐられている間に、母が出入り口から顔を覗かせた。ドアを開けっぱなしだったので、ノックの代わりに口で言った。

「食後にプリンも用意してたの忘れてたんだけど、食べる?持って帰る?」

「「食べるー!」」

一瞬で、彼らの邪心は食い気に負けて霧散した。

 ダイニングに戻り各々プリンを平らげ、会話の中で姉が二人いると言った赤城は、余った分を母に強引にお土産に持たされた。

「今日はご馳走様でした」

深々と頭を下げる真青に、母が笑う。

「いいのよ、また来てね」

「はいっ」

完全に胃袋を掴まれたげきま部一同は、もう一度両親に丁寧に礼を言うと、上機嫌で帰っていった。


 「賑やかでいい子たちねえ。……駆、春果ちゃんみたいな子好きでしょう」

後片付けをしながら、母が不意に言った。

「何のことかな」

「あなた昔から、綺麗な黒髪の子が好きだもんねえ」

しっかりバレていた。そんなにわかりやすいだろうか。まだ何か追求したそうな母の声を遮って、ダイニングから空の皿を運んできた父が言った。

「巧君って子、かっこよかったねえ。あれはモテるだろう」

なにやら含みのある顔で笑っている。助け船と見て、俺は受け取って洗いながら話を逸らした。

「うん、真青さんと付き合ってるって噂があっても、しょっちゅう告られてるって聞いたよ」

「チャレンジャーもいるのねえ」

鈴木が言っていたが、真青を逆恨みして嫌がらせをしてくる女子もいるらしい。本人は何も言わないが、酷い話だ。すると、母がにやにやと笑いながら言った。

「巧くんは、海鳥ちゃんが気になるみたいだったよね」

「え?マジで?」

遠巻きに見ていたからこそわかることなのか、人生経験のなせる業なのか、母は口に手を当てて下衆の微笑みを隠した。言われてみれば、ショートカットでボーイッシュな子が好きだという条件に、海鳥はちょうど当てはまる。まさか、保健室に海鳥が現れた時に大人しかったのも、好みのタイプで緊張していたからか。

「そうだったのかー……」

改めて思い返すと、思い当たる節はいくつもあった。真青の彼氏だという海鳥の認識を即座に否定したのは、初めて話した日に言っていた「どっちかに好きな奴でもできれば、訂正して回ろうかと思ってるけど」という言葉の通りだ。彼女がいると勘違いされたくなかったのだ。俺の部屋が見たいと言ったときすぐに諦めたのも、急に海鳥に触られて驚いたから。

「海鳥ちゃんは、どう思ってるのかなァ」

「あれ、さすがにそこはわかんなかったんだ?」

「うん。なんかあの子、駆と似てる気がするんだよねー」

「そう?明るくて元気で、駆とは真逆じゃない?」

つまりそれは、俺が暗くて元気でもないということか。我が父ながら失礼ではないか。

「何にせよ、若いっていいよねえ」

赤城のことは、ずっと異次元の人間のような気がしていたが、なんだか急に親近感が湧いてきた。微力ながら、陰から応援してやろう。密かに心に決める俺だった。

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