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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
七章

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思い出のアルバム

 父も加わった食卓でも、赤城の勢いは衰えなかった。

「良い食べっぷりだなァ。駆は食が細いからねえ」

「そうよねえ。巧くんくらい食べたらもっと背も伸びるんじゃないの」

「無茶言わないで……」

食が細いと言っても、俺も一人前は普通に食べる。赤城の食欲が旺盛すぎるだけだ。


 「ごちそうさまでした!」

皿の中身を綺麗に平らげてしまった一同は、満足気に手を合わせた。

「はーい、お粗末様でした」

母が皿を引こうとすると、

「あ、あの、片付け手伝います」

「うちも」

真青と海鳥が慌てて立ち上がった。

「いいのいいの。言ったでしょう、お客様なんだから」

「でも……」

「よっし、駆の部屋行こうぜ!」

ご馳走になったのに何もしないのが憚られるようで、恐縮している女子陣に対し、赤城は全くブレない。見かけだけでもちょっとこう、遠慮とか誠意とか、何かないのか。別に構わないけれども。

「ほら、二人も一緒に行ってらっしゃいよ」

「別に面白いものはないと思うけどなァ……」

結局どうしても拒否ができず、背中を押されて案内させられる俺だった。


 階段を上って、一番手前のドアが俺の部屋だ。

「ホント、何もないからね」

一応念を押して開ける。

「おー、片付いてんじゃん」

「お邪魔しまーす」

「ほんまや、綺麗にしてんねんな」

フローリングにカーペットを敷き、真ん中に黒い座卓、壁際にスチールラックと本棚とベッド。勉強机とPCデスクは隣同士に並べて配置して、一つの椅子で横移動ができるようにしている。そしてテレビとテレビ台。衣類はクローゼットの中なので、殺風景なものだ。綺麗にしているというか、物が少ないので散らからないというだけだったりする。唯一飾りらしい飾りと言えば、ベッドで添い寝してくれる例のぴーすぃーちゃんぬいぐるみくらいだった。

「うわ、画面二つある」

「さすが、パソコンごっついなー!」

赤城が引き、海鳥はPCデスクの脇に置いているタワーPCをまじまじと見る。父に頼んで組んでもらった、ハイスペックな愛機だ。組むのが好きな父と結託して、かかった費用は母には言わないことになっている。

「この分厚いテレビ、久しぶりに見たよ」

今ではほとんどお目にかかれなくなったブラウン管テレビに、真青が目を丸くする。

「ゲーム専用だから、放送は映らないんだけどね」

リビングにあったものを液晶に買い換えた時に運び込んだので、やたらでかい。

「へー」

「つーか、めちゃくちゃゲームあるな」

スチールラックに並んだ機材の数々を眺め、赤城が嘆息した。古き良きカセットの時代から、黒くてスタイリッシュな最新機まで、一通り並べてある。といっても、古いほうから半分は、父と共有財産のようなものだ。

「ソフトもめっちゃあるやん」

本棚の上段を埋めるタイトルに、海鳥のテンションが上がっている。やっぱりゲーム好きのようだ。

「アンタ実はお坊ちゃんか」

嗜好品と贅沢品のオンパレードに、思わず海鳥が突っ込んだ。

「母親がテレビ出てるんだもんなあ」

赤城も呆れている。

「お父さん、何してる人なんだっけ」

「システムエンジニア」

「なんか高そうな職業やーん」

よそと比べてどうなのかとか、親の収入のことは、正直よく知らない。ゲーム機やデジタル機器に関しては、父の趣味と被っているので品揃えが良いということもある。

「漫画も綺麗に数字揃えて並べてあるし、几帳面だなーお前」

「そう?」

並んでいないと、いざ読みたい時に探すのに苦労するではないか。

「巧がずぼらすぎるんだよ。何でもその辺にほったらかすんだから」

また真青に小言を言われ、赤城が煙たそうに眉をしかめた。

「……もう、いいですか……。そんなに面白い部屋じゃないでしょ」

「いや、待て待て。これ卒アルじゃね?」

本棚をつぶさに見ていた赤城が、最下段のケース入りの本に目を付けた。

「わーっ!」

「ええもん見つけたやん赤城!見よ見よ」

奪おうとする俺の顔を赤城が掴み、その間に海鳥と真青が速やかにケースから出して開く。なんだそのチームワークの良さ。クローゼットに仕舞っておくんだった。

「やだ、小学校のじゃん!駆君何組だった?」

「言わないからね」

「ほんなら探すまでや!えーっと、佐藤、佐藤」

座卓にアルバムを広げて三人で額を突き合わせ、真剣に探し始めた。そして、

「あっ!これちゃう?!」

海鳥が、三組に目的のものを発見した。

「既に前髪長え」

なんせ反抗期真っ盛りの頃からなので、この前髪とは長い付き合いだ。

「せやかて、生まれた時からやないやろ?もっとちびっこいの探したら、顔見えてるのあるんと違う?」

「一年生の写真から見よう」

「よう考えたらうち、駆の顔知らんわ」

言い出しっぺの割に、海鳥が早々にリタイアした。

「ちょっと待っててね、絶対一枚くらいあるって……。あ!これじゃない?!」

真青が指差した写真は、体操服を着ておにぎりを頬張っている写真。多分、小一の運動会の時のものだ。

「はあ?!めっちゃ可愛いやん!!女の子みたいやん!!!」

海鳥が今の俺と顔を見比べて、悲しそうに眉を歪めた。とても無礼な表情だ。言いたいことがあるなら言え。

「あ、ここにも写ってるよ」

今度は合唱コンクールの写真だった。他にも、二年の社会科見学、三年の文化祭と、真青は順調に見つけて行く。案外写っていて、自分でもびっくりだ。ドヤ顔でピースサインを決めているものまであったが、全く記憶にない。若かりし頃の俺は、こんなにやんちゃだっただろうか。

 四年以降は、カメラを忌避し始めたこともあって、集合写真以外で写っているものはなかった。

「確かに、師匠と似てんな」

上から覗き込んだ赤城が、先ほど見たばかりの母の顔と比べるように、視線を斜め上に逸らして言った。

「うんうん、そっくり」

「今も?」

海鳥が、写真と実物を再び怪訝そうに見比べる。そんなに信じられませんか。

「今も似てるよ。ねっ」

「そうかなァ……」

「ほぉん?」

にやりと笑った海鳥の手が、俺の前髪を狙ってわきわきと動いたので、俺は危険を察して慌てて離れた。

「流石にガード堅い」

獲物を狩る目をしたハンターが、舌打ちした。直視されるのは勘弁願いたい。真青にやられたときなど、本気で心臓が止まるかと思ったのだ。

「しかし、よく置いてたな、卒アルなんか。俺中学卒業した時に捨てたぞ」

「大丈夫、万理ちゃんがこっそり拾ってたからどっかにあるよ」

「は?マジかよ」

思春期の男子あるあるだった。

「元々、写真は取っとく派なんやろ?ほら、あっちにも写真立てあるやん」

俺の前髪を暴くのを諦めた海鳥が、スチールラックの一角を指差した。

「ホントだー」

それは、先ほど優勝盾を飾っていた段だった。真青が立ち上がって、覗きにいく。不自然に空いているのがバレませんようにと、俺はそれだけを祈る。他の写真は、中学の卒業式に家族で撮ったものと、父の実家で飼っていた猫の写真くらいで、見られたところで大したものは――。

「あれ?これは?」

真青が、奥に隠れるように立っていた、埃を被った一枚を手に取った。

「なになに?」

海鳥と赤城も脇から覗き込む。

「なんだっけ、それ」

俺も、置いてある写真の内容などすっかり忘れていて、改めて覗き込み、息が止まった。

「この人、誰?」

「綺麗な人やなあ。てか、コレ駆の素顔か。可愛い顔してるやん」

「ツーショット?彼女……じゃあるまいし、芸能人か何かか?」

三人が口々に、疑問符を並べる。それは、珍しく前髪を上げて笑っている俺と、凛とした空気をまとい微笑む、黒髪の美しい女性の写真だった。

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