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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
六章

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校内戦 後編

 かにたまは石畳に軽やかに着地すると、鎌に付いた鎖を、ちゃり、と鳴らして構えた。鎖鎌は二本の鎌の柄が鎖で繋がれていて、刺傘ほどではないが変則的な動きができる武器だ。趣味が良い。

「キャスト、二連真空刃カマイタチノタワムレ!」

「キャスト、盾!」

盾は、スキルを受けて割れた。

「えっ、嘘?!」

まさかSランクの盾が二連真空刃一回で割れるとは思わなかったようで、やっと追い付いたルリが声を上げる。が、それが鎖鎌の特殊効果だ。刃の形が特殊でクセが強い代わりに、真空刃と二連真空刃、いわゆるカマイタチスキルの攻撃力が一.五倍になる。

「弓と見せかけて、鎌がメインかよ。やらしいなァ」

「あの距離からゴシブラを首に命中させる変態に言われたくないねえ」

俺の攻撃を鎌で逸らし弾き叩き斬り、近接の間合いに持ち込もうとするかにたま。俺は一定の距離を保ちながら後ろに下がる。

「キャスト、転移フォックス

真後ろに移動して後頭部を狙うと、

「キャスト、身躱キャット

こちらを見ずに避けた。本当に、戦い慣れているというか、スキルの効果をよく知っている。構わず撃ち続け、時々転移を混ぜて不意打ちをするも、やはり避けられる。

「それっ」

左の鎌を投げてきた。

「おっと」

俺は面を撃って威力を削ぎながら避ける。この鎖鎌の厄介なところは、鎖の長さが任意で変えられることだ。五メートルくらいまでなら自由に伸縮するので、中距離まで対応できる。その動きを見て、俺はふと思い出した。

「……もしかして、『百鬼夜行』のメンバー?」

百鬼夜行は、マザーグランデ屈指の規模を誇る対人戦が好きなプレイヤーが集まったギルドだ。静かにマザーグランデ全土に蔓延る商店街と対極の、血の気の多い派手好きな面々が所属している。

「あれ、なんでわかったの?」

なぜって、ウヴァロ杯の後しばらく、団員が代わる代わるやってきて、対戦を申し込んできたからだ。奇襲は好まない集団なのか、ギルドの方針なのか、皆きちんと名乗ってくれるので暇なときは相手をしていた。鎖鎌を使っていたのは、裾がボロボロの黒いフード付きマントを被り、ヴェネツィアンマスクを被った男。確か、名前はタラバ。なるほど、調理されてかにたまになったのか。

「当ててみなよ。キャスト、暗幕タコスミ

イカスミが煙幕なら、タコスミは暗闇付与だ。銃口から黒い液体が飛び出し、かにたまの目元を覆った。

「うえっ」

ペイントと違い拭えばある程度は落ちるが、一時的に視界が狭まり隙ができる。

「キャスト、ナタネ油」

クールタイムが発生した左手のブラスイーグルを仕舞い、代わりに取り出した瓶を投げる。かにたまは腕で防ぐが、弾けて中身が服に染みた。

「ちょ、まさか」

「キャスト、点火ホタル

右手のブラスイーグルが火を吹き、かにたまの腕から炎が燃え広がった。点火は攻撃力はほとんどなく、読んで字の如く火を点けるのが主な用途だ。弓使いは火矢にして飛ばしたりするので、俺には馴染み深いスキルだった。

「鬼ーっ!」

燃える袖を慌てて千切り捨てるかにたま。よいこのとーすとには、人体が焼け焦げたりするグロ表現はない。代わりにダメージを受けた部分に光るノイズが発生し、ちりちりと砂のようになって零れていくのが、火傷のエフェクトだ。徐々にHPが削れていくのは毒と同じだが、一定時間経つとHPの減りが止まって部位破壊になる。

「冷めたかに玉は美味しくないでしょ?キャスト、爆竹」

「火加減てもんがあるだろお?!」

抗議の声を爆音で消し飛ばし、再び取り出したブラスイーグルで煙に紛れて狙うのは、

「キャスト、風斬砲ハヤブサ

「ひっ?!」

かにたまではなく、屋根の上からこちらに狙いを付けていたセイゴ。しかし、

「キャスト、盾!」

思わず頭を伏せたセイゴの前にコン先輩が現れ、それを防いだ。

「蘇芳、任せた!」

「よっしゃ!」

「しまった!」

陽動作戦成功だ。これ以上仲間を減らせない状態で、かにたまの動きを制限してセイゴを狙えば、きっとコン先輩が出てくると思ったのだ。

「あーっもー!先輩、まんまと釣られて!」

「かにたまがさっさと仕留めないから!」

「無茶言わないでくださいよー」

煙が晴れた中から顔を覗かせたかにたまは、口を尖らせているがちゃっかり火傷が治っている。さすがに冷静だ。

「仲間割れかぁ?」

笑う蘇芳の抜刀を避け、コン先輩が屋根から飛び降りた。蘇芳も後を追って一つ向こうの通りに行ってしまったので、交戦する音が聴こえるだけで、もう姿は見えない。ルリは相変わらず、屋根の上でセイゴを見張っている。

「ルリ、やれるか」

「やってみます」

先生の声に、ルリが小さく頷いた。

「は-あ。リア充見せつけられるし、残りもののぼっちは強いし、最悪」

「残りもの言うな」

悪態をついたかにたまに、思わず発砲した。鎌で弾かれた。ぼっちはぼっちでも、戦略的ぼっちだ。そこらの受動的ぼっちと一緒にするのはやめていただきたい。あと、二人は付き合っていないので残りものでもない。などと戯れているうちに、

「キャスト、加速チーター!」

ルリが、俺がやった直前加速で間合いを詰めてセイゴに斬りかかり、屋根から落とした。肩から地面に叩きつけられてセイゴが呻く。セイゴの銃は特に特殊なものではないので、肉薄する距離になれば双剣の間合いだ。

「鈴木君!なんで私たちに付き纏うの?!」

「げっ、中身バレてんじゃんあいつ」

「はいはい、よそ見はやめてくださいねえ」

パンパンと威嚇射撃して注意を逸らす。

「なんでって……別に……」

鈴木的がしどろもどろになっている。多分、人生初の女子からの押し倒され事案だ。まさか首に剣を突き付けられるオプション付きだとは、奴も思わなかっただろうが。ちょっと羨ましいとか思っていない。本当だ。

「急にとーすと始めるっつーから何事かと思ってたけど、なんか事情読めてきたわー。アンタらも大変なのねー」

「中身がどなたか存じませんが、広めないでいただけるとありがたい」

「オッケーオッケー、鈴木と違って、俺そういうのあんま興味ないしね」

喋りながら振るわれる鎌を銃身で弾き、こちらの接射は身躱で避けられる。

「かにたまって、ウヴァ杯出てなかったの?」

「出たけど予選であれあにやられたんだよ。あの爆弾魔、人間じゃないぞ」

さすがあーさん、戦闘狂の妖怪軍団にすら恐れられていた。

「答えてくれないなら、もういい」

和やかに喋りながら鎌と銃を交えている向こうで、押し黙ったセイゴにルリがぽつりと言った。諦めと軽蔑の混ざった死刑宣告ののち、

「キャスト、刺突カジキ

逆手に持った青い剣の先が、セイゴの首を貫いた。

『戦闘不能、Se15』

「しびれるー!ちょっとやられてみたい」

「思うよね?」

思わぬ同志発見に、思いきり早口で答えてしまった。冷ややかに軽蔑の視線を向けられながら馬乗りで刺されるなんて、最高のシチュエーションだ。

「リアルじゃ穏やかなお嬢様って感じなのに、実は結構アツいんだ?」

「そこがいいんだよ」

「ルリ、蘇芳の援護に回れ」

「はいっ」

あまり気合いの入っていない斬撃を躱しつつ雑談していると、先生が指示を飛ばし、ルリが屋根に登って向こうの通りに消えた。

「でも彼氏いるじゃん。残念だったな」

「そういうのじゃないから。有象無象は、黙って女神を崇めてればいいんだよ」

「違いない」

パソコン部にこんなに話のわかる奴がいたとは。あとで正体を教えてもらいたいところだ。が、それにはこの戦いを終わらせなければならない。

「キャスト、転移」

「キャスト、身躱。あっ」

かにたまが、小さく声を上げた。身躱が失敗したのだ。今のはスキルに頼らずセルフで避けるべきだった。あんまりだらだら喋っていたので、油断したのかもしれない。俺の銃弾をモロに背中に食らい、HPがごっそり削れた。かにたまは前のめりによろけるが、そのまま前転して、起き上がり様に右手の鎌を投げてくる。鎖が俺の左手に絡まった。

「随分戦い慣れてるけど、まさかウチの団員じゃないよねー」

「違うんだなァ」

鎖が外れそうにないので、俺は引っ張ってかにたまを引き寄せる。

「キャスト、風斬砲」

「だーっ!」

自由になる右手で撃つと、かにたまは鎌から手を放して転がり避けた。しかし、

「キャスト、電磁砲」

「キャスト、盾!」

まだ鎖が巻き付いたままの左手から発射された、銃スキル最大火力を誇るレーザー砲は、盾を貫通しその使用者の胸元に達した。

「うっそだろお……」

「ブラスイーグルの特性知ってる?」

「あー……そうだった……」

速さが無い代わりに、攻撃力が高い。速射が付いているせいで、そのことを失念していたのだろう。

『戦闘不能、かに☆たま』

同志が光となって消えた直後、

『戦闘不能、Kon+。チャレンジャーが全滅しました。オーナーの勝利です』

眼前に『YOU WIN!』の文字が浮かび、

「よっしゃー勝ったー!!」

建物を挟んだ向こうから、蘇芳の雄叫びが聴こえた。

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