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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
六章

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校内戦 前編

 俺が転送された先は、中心部からかなり離れた小道だった。索敵を使うと点々と敵と味方のアイコンが点灯しているが、蘇芳とルリ、どちらも近くはない。二人は先生の指示通り、真っ直ぐ合流を目指していた。

「それじゃ、打ち合わせ通り、最初五分は任せた」

「おう」

「大丈夫かなあ」

即座に迷彩で姿を隠し、俺は走り出す。

「大丈夫、ヤバそうだったらすぐ援護できるようにするから」

「わかった……」

まだ不安そうなルリの声。

「できる限り多対一に持ち込め。そうすりゃ少々格上の相手でもなんとかなる。あとは、背後を取られるな、敵から目を逸らすな、クリティカル部位は体の中心を通ってることを意識して積極的に狙え」

複数での対戦が実装されたのは今日からなので、その指示はリアルファイトの経験に基づく戦略だった。怖いぞウサギ先生。

「ウヴァロ杯の時の情報だけど、コン先輩は刀、まっするは双剣だったと思う。よかったね、練習しといて」

「お前のは刀じゃねえよ」

刺傘のことをまだ根に持たれていた。

「コンと凛子、セイゴが迷彩で消えたな。広場のほうに行ってるのはかにたま。わざと開けた道ばっか走ってる。囮っぽいな……」

「了解」

ウサギ先生のオペレーションが、ものすごく心強い。おそらく、コン先輩とまっするがチームの主力だ。

「じゃあ、狙いはまっするだな。ルリ、迷彩して来い」

「オッケー」

近付いていた点の片方が消えた。ルリだ。さらに、蘇芳もまっするを示す点に軌道を変えながら消えた。まっするが、大通りから一本入った路地で止まる。蘇芳がこちらに向かう動きを見せたので、待ち構えることにしたようだ。俺は相変わらず走っている。

 それから少しの間、膠着状態が続いた。

「コンはかにたまの傍にいるだろうな。残り二人のどっちかは、まっするのほうにいるはずだ。下手すると二人ともいる。気を付けろ」

「あいよ」

「ウサギ先生、迷彩の効果時間ってどれくらいだったけ」

「Fだと五分、Sだと三十分だな。食いもんと一緒だ」

「わかりやすい説明ありがと」

俺は、一つだけ敵チームのメンバーに思い当たる点があった。確証ではないが、もしそうなら。

「まっするを確認。ルリ、あとどれくらいだ?」

「もうすぐ着くよ。『マリーのパン屋』の屋根の辺り」

「分かった、交戦するぞ」

迷彩の弱点は、味方でも姿が見えなくなってしまうところだ。トルマリは目印が多いので、やはり初戦には持ってこいのフィールドだ。

「了解、気を付けて」

「なんだか、本格的だねえ」

原田校長がそわそわしている声がした。

「キャスト、抜刀タチウオっ」

まっするの真後ろから現れた蘇芳が、一閃した。まっするが間一髪で飛び退く。近くで見ている仲間に注意されて慌てて飛んだ、という感じの動きだった。

「キャスト、二連真空刃カマイタチノタワムレ

「キャスト、タートル!」

まっするのスキルを蘇芳が防ぎ、スキルの反動中に斬り込む。刀は重さもあるので、近接での打ち合いに強い。その上に、天然スキルが載っているのだ。まっするはなんとか受け止めるので精一杯のようで、徐々に追い詰められていく。

「っ凛子!」

まっするが叫んだ。同時に、蘇芳の背後の、屋根の上が光った。ボウガンを手に持ち、低く構えた眼鏡の女子が現れる。迷彩は、攻撃及び他の戦闘スキルと同時に使えないので、姿を見せなければならない。

「キャスト、盾っ」

飛んできたボウガンの矢は、振り向いてすらいない蘇芳の後頭部に展開された盾に、止められた。

「ナイス、ルリ」

蘇芳が、犬歯を見せて獰猛に笑った。凛子がいる反対側の屋根の上に、黒髪を靡かせるルリがいた。

 赤城と真青は、生まれた時からずっと一緒にいるようなものだ。喧嘩もよくするが基本的には仲が良く、ここぞという時の息の合わせ方は、そう簡単に他人が真似できるものではない。合図などなくても、姿が見えなくても、必要な時に互いの補助に回るくらいのことは、普段から無意識にやっていることの延長線だ。

「キャスト、跳躍ラビット!」

屋根の上から飛び出し、驚いて一瞬反応が遅れた凛子に、ルリが真上から襲い掛かる。慌てて矢を射出するが、焦っているせいで動く的に狙いが定まらない。上手く狙えても、剣で弾かれる。凛子の肩をマリンブルーソルジャーが貫き、屋根に縫い付けられて悲鳴を上げた。

「きゃ、キャスト、煙幕イカスミ

「わっ」

目の前で爆ぜた目くらましに慌てて飛び退くルリ。相変わらず、反射の良さは一級品だ。そして、

「キャスト、捕縛スネーク

「きゃあっ」

飛び退きざまにルリの双剣の先から伸びた縄が、凛子を縛る。俺が見せた後、有用と判断して仕入れていたらしい。凛子は腕ごと締め付けられているので、魔法攻撃を自分に向かってぶつけるか、仲間に切ってもらうしかない。しかし、先ほどの肩への攻撃でHPが削られているので、これ以上HPを自分で削るのは避けたい。そしてまっするは蘇芳が牽制しているので動けない。逡巡している間に、縄に引っ張られ引き寄せられて、

「キャスト、刺突カジキ

ルリの剣が、凛子の胸を貫いた。

『戦闘不能、凛子』

無慈悲なシステム音声が響き、凛子の姿が光となって消えた。奇襲を逆手に取られて仲間を炙り出されたまっするは、苦々しげな顔で飛び退いて距離を取り、

「キャスト、迷彩カメレオン

体勢を立て直すべく、一度逃走を図って視界から消えた。この二人を相手に二対一は不利だと、すぐに判断したのだろう。が、しかし。

「キャスト、ペイントボム」

瞬間、蘇芳の手でピンク色のボールが弾けた。辺り一面に中身の液体が飛び散り、蘇芳の顔や服にもベタベタと付くが、それ以上に、迷彩で消えたはずのまっするの輪郭を炙り出した。

 例の練習試合の後、迷彩対策は変態薫風作戦以外にないのかと聞かれて、ペイントアイテムのことを教えた。本来は捕獲したいモンスターや逃げるAIが入っているボスにぶつけて、マップ上で索敵なしでもマーキングするためのものだが、迷彩で隠れたプレイヤーにも効果があるのだ。これで、まっするは隠れても蘇芳のマップに映り続ける。ペイントボムは、一体ではなく範囲に向かって仕掛けるペイントで、近くにいる敵全てに付く。しかも、俺お手製のSランクなので、効果時間はバッチリ三十分だ。水でも被らない限り、この試合中に消えることはない。そしてトルマリの水場は、広場の噴水と外壁の外のクリークだけだ。

 次々と手を封じられるも、まっするはせめて他のメンバーと合流すべく、走り出す。大通りに出るまっするの後ろから、

「逃がすかよ!塵旋風イワシ!」

「うわっ?!」

蘇芳の範囲攻撃。まともに喰らった。

「キャスト、カマキリっ」

立て続けに、降って来たルリからも追撃が入る。

「盾!」

辛うじて防ぐも、一人であの二人の連携攻撃を捌くのは、並大抵のことではない。

「キャスト、抜刀タチウオ

静かに切り込んだ蘇芳の一撃が決まり、まっするの身体は上下に真っ二つになった。


 「やるじゃねえかお前ら」

「えへへー」

先生に誉められ、ルリが嬉しそうに笑った。

「これで三対三だな!」

このまま逃げ切ってもバトルポイントで勝てるが、蘇芳はそのつもりはないらしい。かにたまがいる広場のほうを向くと、同時にかにたまの点が消えた。

「チッ、なんだよ」

蘇芳は自分もペイントを被っているので、迷彩の意味が薄い。自分で付けたペイントなので他人のマップには映らないが、近くにいればペイントが見えてしまうのだ。隠れる気もないようで、手を灼鉄剣に掛けたまま、大通りを歩き出した。

「待って、蘇芳」

「なんだ、ナル」

俺は、蘇芳を呼び止めた。

「さっき、五分過ぎたんだ」

「参戦するか?」

「それもなんだけど、多分、そろそろなんだ」

「そろそろ?何が?」

俺の言葉の意味がわからず、首をかしげる蘇芳。索敵を続けていると、突然、ぽつっと広場の端に点が現れた。

「来た。多分セイゴだ。そうじゃない?ウサギ先生」

「確かにセイゴだ。……よくわかったな」

何故このタイミングでセイゴが姿を現したのかと、ウサギ先生は怪訝そうな声だ。

「あいつだけ、迷彩スキルがFランクなんだよ」

「えっ」

つまり、わざと迷彩を解いたのではなく、効果時間が終了したのだ。これではっきりした。

「――セイゴの中身、鈴木だ」

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