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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
六章

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アップデート

 いよいよ、五月二日がやってきた。とーすとのアップデートの日であり、パソコン部との校内戦の日であり、勝っても負けても夕飯は皆で母の手料理。なかなかエキサイティングな一日になりそうだなァと思いながら、登校する。

 「おはよ。荷物、多いね」

「おはよ。ああ、うん」

席に着くなり、小声で話し掛けてきた真青に頷く。何しろ大食いの赤城を含む三人分なので、母が何かのイベント事に差し入れで持って行く、大きな二段の弁当箱に詰めてきた。実はそれだけではないのだが、どうせ放課後にはわかることなので、今は言わない。真青が、荷物の量を鈴木に突っ込まれるのではと奴の席を見るが、鈴木はこちらには目もくれず、真剣にスマートフォンの画面に向かっていた。


 昼休みになり、真青が部室の鍵を貰うために、先に出て行った。俺も向かうべく教室を出ると、

「駆ー!」

赤城が満面の笑みで近付いてきて、ガッと首に腕を回して捕獲された。

「行こうぜ、ほら荷物持ってやるよ」

「は、はあ……」

強引に弁当の入った鞄を奪い、上機嫌で廊下を進んでいく。ライオンか、野生の狼か何かを餌付けした気分だった。

「こんな堂々としてて大丈夫?また追けられたりするんじゃない?」

「大丈夫、手は打ってきた」

「手?」

振り返ると、地味男子同盟と思しき小太りの男子が、サッカー部のウェイ系に絡まれているのが見えた。

「春果のストーカーがウチの学校の奴使って監視してくるっつったら、快く協力してくれた」

赤城の人望なのか、真青の人望なのか分からないが、俺は鈴木に協力した名も知らぬ彼に同情すら覚えるのだった。


 PCの電源を一台だけ入れて、マットの上に弁当を広げる。

「うわぁー!」

蓋を開けた瞬間、真青が目を輝かせる。赤城は先ほどから、待てを命じられた犬のようになっている。

「おにぎりは、海苔巻いてるほうがおかか」

紙皿と箸を配るが早いか、

「それじゃ、いただきまーす!」

赤城が元気に手を合わせ、まず海苔を巻いたほうのおにぎりに手を伸ばした。ラップで包んでいるので、手掴みで食べられる。豪快に一口で半分ほど削り、残り半分もすぐに消えた。

「いただきます!」

真青も手に取って、小さな口でかじりつく。まふまふと美味しそうに食べてくれるので、なんだか嬉しい。

「ピクニックみたい。屋上で食べればよかったねえ」

「そうだなー」

「おっ、やってんな」

ドアが開き、麻木先生が入ってきた。アップデートと同時に公開される、対人戦エリアの細かいルールの確認などをするために、来てくれたらしい。

「麻木先生も食べます?」

余分に持ってきていた紙皿と箸を渡すと、

「いいのか、お前らの取り分が減るだろ」

受け取りつつも、麻木先生は少し遠慮しているようだった。

「俺らは夕飯も駆んちで食えるから、いいんだよ」

「ああ、例の『佐藤さんちの夕ごはん』か。そいつは羨ましいな。じゃあ、遠慮なく」

麻木先生は、ふっと笑うとマットに胡坐を掻いて、おにぎりを手に取った。一口かじって、

「美味いな」

「だろぉー?!」

何故か赤城が答えた。

「酢飯か?作るの大変だったろ。こいつら我儘だからなあ」

「ある程度は作り置きだから、そんなでも」

「なんでこの唐揚げ、冷えてるのにサクサクなの?」

「ああ、それは――」

「卵焼きうめえー」

あっという間に弁当箱は空になり、各々、持ってきた飲み物で一息つく。

「美味しかったー!ごちそうさま!」

「久しぶりに昼にいいもん食った気がする。ごちそうさまー!」

「たまには、騒がしいのも悪くないな。ごちそうさまでした」

よっこいせ、と立ち上がった麻木先生が、とーすとの公式サイトを確認すべくPCの椅子に座った。弁当箱を片づけて、俺たち三人もその周りに集まる。

「アップデート、これか」

サイトのトップページに大きく表示された、『対人戦エリア開放!』のバナーをクリックする。

「えーっと。この度、対人戦専用エリアがオープンしました。詳しいシステム・ルールは以下の通りです」

麻木先生が読み上げる横から覗き込み、真青が真剣に画面を見ている。


 アップデート内容は、こうだった。


 ・対人戦専用エリア、『ストレンジアズ・コロセウム』が実装。場所はイベントフィールド宝石学園エリア西側。

 ・コロセウム内ではシングルバトル・パーティーバトル・メーレー(乱戦)の三種類の対人戦ができる。

 ・同時に、バトルポイントとランキングシステムが実装。コロセウムでのバトルの成績に応じてプレイヤーごとにポイントが蓄積され、公式サイトでランキングが発表される。月間ランキング上位、年間ランキング上位には報酬がある。

 ・メーレー以外のバトルでは、部屋を立てて対戦者を募って戦う。パスワードを設定し、特定の相手とのプライベートマッチも可能。

 ・部屋を立てると、フィールドを選ぶことができる。現在選べるのは、パイライト荒野・トルマリ市街地・アレキス山間・海中遺跡アクアマリンの四種類。

 ・他のプレイヤーは、現在行われているバトルを観戦できる。設定で観戦不可にすることも可能。


「じゃあ、今回はパスワード付きのパーティバトルってことだな」

麻木先生はメモを取る。

「どっちが部屋を立てるか、決めないといけないですよね。フィールドを選べるほうが有利になりますから」

真青が、不安そうに眉をハの字にした。

「そうだなー。まあ、向こうも同じこと思ってるだろうから、詳しいことは放課後に決めよう。お前らは、自分らが選ぶことになった場合にどこにするか考えとけ」

その言葉で、二人が俺の顔を見た。俺は訊ねる。

「どこがいい?」

「遺跡はぜってえやだ」

赤城が即答した。俺も嫌だ。ただでさえ動きにくい水中で対人戦なんて、ぞっとしない。

「荒野って、あの岩しかない広いところでしょ?障害物少なくて戦いやすそう。どうかな」

「良いと思うけど……。隠れる場所もないってことだから、ガチバトルになるよ。今までの一対一の対人戦だと思えば、似たようなものだけど」

「そ、そっか。三分じゃなくて、三十分なんだよね。ちょっと怖いかも」

真青が腕組みして悩む。俺としては、本人が思っているより真青はずっと戦えるので荒野でもいいと思うのだが、一応、デメリットも挙げた上で考えた方がいい。なんせ敵チームの情報が何もないのだ。

「そういや、どっちか全滅だったらわかりやすいけど、敵とこっちの人数が違う場合、例えば二人ずつ残ったりしたら、勝敗どうなんの?」

「んー?ああ、バトルポイントの多い方、ってなってるな。つまり三対四だったら、二人倒してるから三人組のほうが勝ちだ」

バトルポイントは個人のポイントなので、チーム戦の場合は致命傷を与えたプレイヤーの手柄になり、パーティメンバーの合計が勝敗に関わるらしい。もし、三対三で両方が一人ずつ残った場合などには、今までの一対一バトルで適用されていたルールと同じく、HP残量の割合が多いほうが勝利になるそうだ。

「ふーん。じゃあ、最悪二人倒して残り時間隠れ続けるって手もアリか」

恐らくパソコン部は四人以上いるはずなので、あまりスマートではないが、戦法としてはそういう手も十分にある。

「隠れるところが多いってなると……アレキス山?」

「その分、見晴らしも悪いのがなー」

そう、隠れるところが多いのはこちらだけではない。相手にも隠れる場所を与えることになる。

「別に、そういう作戦もあるってだけだから、俺は荒野でもいいぞ。要は一人三分で片付けりゃ、今までの対人戦と変わんねえってことだろ?」

「駆君は?どこがいいと思う?」

結局、真青は俺に意見を求めてきた。

「俺も、遺跡以外ならどこでもいいけど……。トルマリは?さっきから挙がってないよね」

「だって、山と一緒で、建物多くて難しそうじゃない?」

「そうでもないよ。足場は舗装されてるから悪くないし、明るいし、山よりかなりマシだと思う。何より普段から歩き慣れてるから、道もわかるし」

「相手も一緒だろうけどな」

「難しいなー。やっぱり荒野?」

消去法で決めそうになっている真青を静かに見ていた赤城が、不意に口を出した。

「春果、提案なんだけどさ」

「何?」

「最初の五分、俺とお前だけでやらねえか」

「へ?」

その言葉に、麻木先生が面白そうに口角を上げた。

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