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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
五章

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土曜日の始まり

 四月三十日。昨日と同じく、午前八時過ぎにログインして、昨日と同じ場所でせっせと木工スキルを使っていると、マオマオがやってきた。

「おはよ」

「お、おはよう……」

顔を上げて声をかけると、びくっと肩を震わせた。しばらくおどおどと所在なさげにしていたが、俺が視線を下げると、ためらいがちに隣に座った。

「また貫徹?」

「今日は、ちょっと寝た……」

「へー、偉いじゃん」

「へへ……」

まさか、俺と喋っている最中に寝落ちないように頑張ったわけでもあるまいが、確かに今日はあまりふらついていない。寝不足だと、余計に変なことばかり考えてしまうものだ。よく食ってよく寝る、大事。

「……なんで、木工スキル上げてるの」

「ん?最近島買ってさあ。家具をね、自分で作ろうかと思って」

そう、プレイ歴二年にして、今更俺が木工スキルに手を出した理由は、新たな楽しみこと島のカスタムに必要だからだった。応用してあーさんのようなことができれば面白いかもしれないとも思っているが、それはおまけだ。

「……物好き」

「いやー、それほどでも」

俺からしてみれば、何の生産スキルも極めずひたすらモンスターを狩り戦闘に明け暮れている民族のほうが、物好きだ。

「マオマオも島買えば」

「そんなお金ないよ」

「生産やればすぐ貯まるよ」

「勧誘?」

「フッ、ばれたか」

 途中からマオマオも興味を持ち始め、ならば自分はまだ役に立ちそうな裁縫スキルをやると、道具屋から裁縫セットを買ってきて、クマのぬいぐるみを作り始めた。俺は俺で、モアイの置物で少しナイフの扱いに慣れたので、今日作っているのは、浅い木の器だ。クリームシチューなどよそったら良さそうだと思うが、器もそこそこのランクがないと作った料理の質が下がるので、まだ使い物にはならない。


 「おっ、Cランク!」

皿を量産し続けること二時間弱、ようやくCランクが一つできた。この、少しずつ上達していく過程が楽しい。そろそろ、マトリョーシカも作れる頃だ。と言っても、あーさんの操るマトリョーシカは、本人は消耗品のようにバカスカ割りまくっているが、容器として使えるのは継ぎ目が完全に密封されるSランクのみなので、実はものすごく作るのが難しい。なぜあれを武器に選んだのかも謎だし、物好きと言うより、もはや狂気の沙汰だった。

「難しい」

隣で、歪なネズミのような顔になったFランクのクマに、マオマオが眉根を寄せる。

「そのうち作れるようになるよ、あと、DEX付けると成功率上がる」

「DEXかー……」

マオマオは双剣だったはずなので、DEXにはあまり縁がないのだろう。インベントリを開けて見ているが、めぼしい石は持っていないようだった。

「仕方ないなァ、お兄ちゃんが分けてやろう」

インベントリからDEXステータスの石を取り出して差し出すと、

「えっ……。これ、+50って書いてあるよ」

スキルは何も付いていないが、弓や銃にはそれなりに需要はある。一般的にはポンと無償で渡すような石ではないので、マオマオが目を丸くしていた。と言っても、こちらとしては解体していたら出てきたもので、自分は間に合っているし、露店に並べるにもニッチな物なので煩わしく、商店街にでも流そうかと思っていたものだ。特に気にするようなものではない。

「その裁縫セット、二スロットでしょ。付けてみなよ、多少は違うから」

「う、うん」

マオマオはさっそく裁縫セットに組み込み、また二人で作業を続けた。作る速度が上がり、なんだか満足気だった。

 その後も、今日は晴れているが明日は雨らしいとか、最近神宮市にショッピングモールができたので行ってみたいとか、他愛ない話をしながらひたすら手を動かし続けていると、十一時半の鐘が鳴った。

「お、もうこんな時間か」

「帰るの?」

「うん。昼から用事があるから」

「……そっか。明日は?」

「何もなければ、また同じ時間に来るよ。もし用事ができたら、トゥルッターに連絡する」

一人っ子なので、こうして慕ってくれる年下というのは新鮮だ。

「わかった。……ありがと」

少し寂しそうな顔でにへっと笑うマオマオと別れて、ログアウトした。


× × ×


 背伸びをして、昼は何を食べようかと考えながら、とりあえずスマートフォンを見る。と、三十分ほど前に、真青からメッセージが入っていた。

『ちょっと巧に連絡してみてくれない?』

『メッセージ送っても返事がないの』

慌ててメッセージを返す。

『ごめん、気付かなかった』

『まだ寝てるんじゃないの?』

すると、すぐに既読のマークが付いて、

『昨日は、もう起きてたんだけど……』

『電話しても出ないんだよね』

我が家の父も、休日は昼まで寝ている時がある。それに、赤城はあまり熱心にスマートフォンを見ないので、よく連絡を読み飛ばして真青に怒られている。心配するようなことではないのではと思いつつ、

『わかった、連絡してみるよ』

大した手間でもないし、赤城にもメッセージを送ってみることにした。

『赤城、起きてる?』

『真青さんが呼んでるよ』

真青のメッセージに反応しないのにこちらに反応するわけもなく、用を足したり昼食の準備に冷蔵庫の中身を見たりしている間にも、返事が来ることはなかった。あまり電話を掛けるのは得意ではないが、渋々、アドレス帳から先日登録したばかりの番号を探す。しばらく逡巡してから、ええいままよと通話ボタンを押した。

 コール音が鳴り出し、三回、四回、と続いても、やはり出ない。七回目が鳴り、諦めて切ろうとした時だった。

『うぃー』

電話の向こうから、低い呻き声が聴こえた。明らかに元気がない。

「もしもし、赤城?真青さんが心配してるよ。返信してあげなよ」

『はらへったー……』

話の流れに全く関係ない、情けない声がした。

「は?」

『昨日から何も食べてねえの……』

「なんで」

『親も姉貴たちも連休で旅行行ってさー……。何か適当に食べろって言ってたくせに金置いて行くの忘れて行きやがった』

無いなら作ればいいではないか、と思ったが、『食べる物はテキトー』と言っていたし、彼は多分、いや間違いなく料理は作れない。

「……家、どこだっけ?」

『春果に訊いて……』

そして、電話は一方的に切れた。

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