表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/118

道楽の価値

 「やあやあ、遅かったね!」

ろびんに気付いた銀髪が、大げさな身振りを交えて立ち上がった。

「タクヤ様を待たせるだなんて、いいご身分ですわね」

金髪縦ロールが、ペシペシとクイーンスタッフを手の平で弄ぶ。執事は、静かに二人の背後に佇んでいる。

「すっげー、気合い入ったキャラだなァ」

「みい姐さんといい勝負かも」

いつか倒したアレキスドラゴンのジャーキーを二人で噛みしめながら、屋根の上から完全に他人事として観察する俺とあーさん。

「ウチのマスターを連れてきたっす……」

はあ、と既にうんざりした様子で、ろびんが店長を紹介した。

「俺に何の用だ」

「まあまあ、とりあえず座りたまえ!」

パチンと気障に指を鳴らし、椅子を一脚増やすタクヤ。妙なキャラとペースに巻き込まれて、店長が渋い顔をしている。

「ボクはタクヤ!わざわざご足労いただいてすまないね!」

「全くだよ、要件はさっさと済ませてくれ」

「口の利き方を知りませんの?平民のくせに」

パンチの効いた縦ロールだ。店長の眉間の皺が深くなり、ろびんが後ろではらはらしている。

「口の利き方がなってねえのはそっちだろう。オイ、いいおべべ着てるくせに、年上に対する態度も知らねえのかい」

大柄な顎ヒゲに凄まれ、さすがに縦ロールが怖気づく。伊達に駅前繁華街のゲーセンで何年も店長をやっていない。怒ると刃物を持ったヤンキーも逃げ出すほど怖いのだ。これもまた噂だが、昔は硬派一徹の武闘派不良軍団の総長を務めていたとか、なんとか。

「まあまあ、ミサトも抑えたまえ。すまないね、ボクの許嫁が無礼を」

「女はちゃんと選べよ、苦労するぜ」

どこまでがキャラ設定なのかわからないが、珍妙な客には慣れている店長は、だっはっはと豪快に笑って返した。隣で、ミサトがふんとそっぽを向く。

「それでは、時間を取らせるのも悪いから、さっそく要件を言おう。彼にも言ったが、貴方のギルドは生産品を作っているプレイヤーが多いそうじゃないか。そこで、今後三ヶ月、貴方のギルドのメンバーに、露店や取引で装備や武器を売らないでいただきたい!」

「はあ?」

間髪入れずに、全力のしかめっ面をしてきた大男に、一瞬怯むタクヤ。

「メンタル弱そう」

「俺もそう思ったとこ」

差し出された手に今度はスルメを渡すと、あーさんは大人しくしゃぶり始めた。本当にこれをリアルの夕飯代わりにする気ではないだろうな。

「もちろん、無償でとは言わないよ!その間に売る予定のものは、全てボクたちが買い取ろう!」

「一応、理由を訊こうか」

あの巨大商店街の武器屋と装備屋で売られるものを全て買い取るだなどと、そんな無茶なことができるわけがない。しかし店長は大人な対応だ。

「それはもちろん、皆に売られると困るからですわ」

「困る?なんでだよ」

「ボクたちは、宝石学園杯に出る予定なのさ!宝石学園杯は、課金装備やアイテムが使えない決まりだろう?皆八スロットの装備を手に入れられたら、ボクたちが不利になってしまうじゃないか」

「平民のクセに、八スロット装備を手に入れるだなんて、おこがましいですわ」

ああ、いよいよ店長が頭の痛そうな顔をしている。

「面白い理論だねー」

スルメの端を執拗に噛みながら、あーさんが暢気に言う。彼もまた課金兵なので、立場としては中立だ。

「突っ込みたいところは非常にたくさんあるが……。とりあえず、断る」

「何ですって!タクヤ様に逆らいますの?!」

ミサトとやら、高飛車な割にタクヤにはきちんと好意を持っているようだ。

「どうしてだい?大会が終わるまでの三ヶ月でいいんだ。それに、全て買い取ると言っているんだから、悪い話では――」

「まず第一に」

店長が、タクヤの言葉を遮った。

「ゲームマネーはいくら持ってんだい?ウチの団員は生産特化だからな。全部買い取るなんざ、生半可な金額じゃねえぞ」

「そんなもの、ガチャで出たものを売ればいくらでも手に入るじゃないか」

ダメだ、完全に金銭感覚が破綻している。どうやらリアルお坊ちゃまのようだが、大丈夫か。

「オレとは宗派が合わないなー」

あーさんは呟きながら、ゲソを千切って噛み始めた。そりゃあ、あーさんだってガチャから出た装備やアイテムを売ることもあるが、あくまでもいらないものを、欲しがる人に売っているだけで、ゲーム内マネーを作るためにリアルマネーを溶かすようなことはしていない。課金兵にもいろいろある。

「第二に、お前らに専売することで俺たちに利がねえ」

「? 通貨が手に入るだろう」

「俺たちはそもそも、作って売って儲けるのが目的じゃなく、作ることそのものが目的――要は、趣味で生産やってんだ。お前らみてえに欲しくもねえのに買い取るような奴には、売りたくねえ」

料理だって、美味しいと言って食べてくれる人がいるから、他人のために作る。ゲーム内の生産も、初めは自分用の装備が欲しかったり、ただの娯楽だったりするわけだが、使ってくれる人がいるから売っているのであって、買ったものをどうするかわからないような輩には売りたくない。商店街のメンバーには、特に職人気質が多いのだ。

「一つ一つ、手間掛けて作ってんだぞ。使ってくれるならまだいいが、どうせお前ら、すぐに廃棄するだろう」

「ふん、所詮はゲーム内のデータですのに、何を大げさなことを」

とことん、ミサトは店長の神経を逆撫でするのが得意らしい。

「じゃあ逆に訊くがよ、お前らこそ、データ如きにそんだけ現実の金かけて、俺たちプレイヤーを巻き込んで、何しようってんだ?」

「学校の名前を出して戦うのです。大げさにもなりますわ」

「そりゃあ大義なこったな。じゃあお前らが学園杯に出たとき、全部バラしてやろうか。『この学校は俺たちが作った装備をリアルマネーで買い占めて独占し、公平な勝負をさせないようにした』って。さぞやご自慢の学校名が綺麗な色になるだろうなあ」

「んなっ!」

「加えて、うちの団員の個人情報を突き止めて報復するだとか、脅してきたそうだな?こっちは完全に黒だな。証拠も、映像と音声で残ってるぜ」

悪い笑顔だった。ろびんがサッと顔を逸らした。ミサトの顔が真っ赤になり、プルプルと震えている。

「利益の話をもう一つしようか。俺たちが作る装備や武器は、マザーグランデのどこに出しても恥ずかしくねえSランク品だ。別にお前らみたいなのに買ってもらわなくても、普通に売れる」

ハッ、と鼻で笑った。一方的に見下し、大したものではないと思っているからこそ簡単に金で買うという発想になるのだろうが、八スロット装備は課金装備より高値が付くこともあるのだ。ある美さんが蘇芳に譲った灼鉄剣のように。

「それよりも、お前らの提案に乗ってよそに売らないと知れると、俺たちの評判が落ちるんだよ。つまり利どころか害だ」

「わ、私を誰だと思っていますの?!」

「この世界のことを何も知らねえ、ただのお嬢ちゃんだろ?」

この世界。仮想現実空間、トレジャーストーン。現実の権威も金も関係ない、楽しい世界だ。なおも何か言い返そうと口を開いたミサトの肩に、タクヤが手を置いて首を振った。

「ミサト。頼んでいるのはボクたちだよ。この方の言っていることのほうが正しい」

「ですが、タクヤ様……!」

タクヤは考えることはみみっちいが、まともな考えのできる男のようだ。しかしミサトの怒りは収まらないようで、テーブルを叩いて言った。

「どうしてですの!どうせ、遊びでやっているのでしょう!協力してくださっても、いいじゃありませんか!」

「遊びだから真剣にやってんだろうが!!」

とうとう、店長も声を荒げた。テーブルを割る勢いでドンと叩き、ティーカップが転がって中身が零れる。ミサトがびくっと肩を震わせた。落ちる前に、執事がキャッチした。良い手際だった。

「お前らの親が何の仕事してんのか、どういうつもりでお前らに金を与えてんのか知らねえが、俺たちは生活するために働いて、その合間の少ない時間で遊んでんだよ」

ミサトはその尋常でない様子に、ようやく自分が恐ろしい相手を怒らせたと気付いたらしい。気丈に見据えながらも、小さく震えている。

「だから真剣にやってんだ。仕事でもねえのに、礼儀も知らねえ不愉快なクソガキを助けてやる義理が、どこにあんだよ。言ってみろ」

仕事ならば、多少嫌な事でも引き受ける。仕事ならば、妥協もする。しかし、これは遊びだ。だからこそ自分たちのやりたいことをやるし、一切手を抜かない。宝石町商店街は、そんな店長だからこそ、大きなギルドになったのだ。

「お嬢ちゃんの着てる金と権威は、本当にお嬢ちゃんのもんか?――生産ギルド宝石町商店街、総勢百八名。喧嘩してえんなら、受けて立つぜ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ