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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
三章

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31/118

VS蘇芳

 「じゃあ、私が合図するね」

ルリが楽しそうに中間に立った。二回戦が始まると聞き、ギャラリーがまた集まってくる。

「二人とも頑張ってー!レディー、ファイッ!」

「キャスト、跳躍ラビットっ」

ルリが高く上げた手を垂直に振りおろした瞬間、蘇芳が跳んだ。それも、上ではなく斜めに。近くの建物の壁を蹴って、俺の右手側に突っ込んでくる。なんだその動き、マジで怖い。

抜刀タチウオ!」

加えて、降ってくる勢いに乗せて、刀スキルの中でも一番威力のある抜刀。殺意しか感じない。利き腕を潰し、あわよくば斬り落としてしまえという恐ろしい攻撃だった。俺の選択は、

白刃取スワン!」

「あっ、てめ!」

持ってて良かった、ありがとうある美さん。無効化して転がし、再び距離を取る。

「お前、俺が刀ってわかってるからって、そういうメタスキルどうかと思う」

「使えるものは使わないと!」

実は奥の手だったのだが、うっかり初手で使ってしまった。しかし結果オーライ、不意の一撃も白刃取で無効化されるという新たな警戒心を植え付けることが出来た。と思いきや、

「要は、白刃取を使わせなきゃいいんだろ」

起き上がった蘇芳は、

塵旋風イワシ!」

よりによって、範囲攻撃をぶつけてきた。確かに白刃取を刀のままで何とかしようとする場合、範囲攻撃が最も効果的だが、一瞬でその結論に辿り着く蘇芳が恐ろしいし、これを付けたある美さんもある美さんだ。

「無理ー!」

跳躍で避け、傘を開いてスキルの爆風で屋根まで昇る。ちょっと喰らってしまった。

「あっ!やっぱりただの刀じゃねえな?」

「あったり前じゃん!俺が使う武器に普通の武器なんかないよ!」

「言い切りやがった!」

「あんまり遠くに行かないでよ、見えなくなっちゃう!」

上空と地上で喧嘩していると、ルリと数人のギャラリーが眩しそうにこちらを見上げていた。

「あっごめん」

傘を閉じると、急速に落下する。

「キャスト、抜刀タチウオ

今度は俺の番だ。加速しながら、手元に仕込まれた細い刀身を抜いて斬りかかって来た俺を、蘇芳がすんでのところで避ける。

「だーっ!くそっ」

着地と同時に踏み込み二撃目を入れると、蘇芳の肩を掠った。三撃目は流石に受けられ、打ち合いになる。

「今晩は」

「アルミさん。こんばんは」

「楽しそうですね。わたくしも観戦して、よろしいですか?」

「はい」

「椅子、どうぞ」

「ありがとうございます」

ある美さんとルリが話している声が聴こえるが、姿を確認している暇などない。刺傘は刀身が細い分、刀同士の打ち合いでは威力が劣る。これは出し惜しみしている場合ではない。

「キャスト、水鉄砲エレファントノーズ!」

「うわーっ?!」

左手に持っていた傘本体の石突きから水が噴射され、蘇芳が水浸しになった。実は水鉄砲、威力的にはさほど強くないのだが、まともに喰らうと一定時間動きが鈍るので、対人戦に持ってこいなのだ。

「また、珍妙な武器を使っていますね」

「はい……」

「なんでそこから出るんだよ!」

「わはは、それが仕込絡繰の名前の由来だよ」

なんとこの刺傘、全武器で唯一、刀・昆・銃の三種の武器属性が付いているのだ。なんてお得。ちなみに、刀がATK、昆がDEX、銃がHITに依存するので、全て使おうとすると攻撃力が分散してしまうのが難点だ。

「刀じゃねえのかよ!」

「こんなのもあるよ!キャスト、蜜散弾ハニービー!」

開いた傘が回転し出したかと思うと、ドドドドドッと弾がばら撒かれる。

タートル!いってぇ!」

慌てて盾を展開するが、何発か当たった。これで良い。元々蜜散弾には、大した威力は無い。

「っ!毒か!」

三秒ごとに数ポイントだが、徐々にHPが削られ始めたのを見て、蘇芳が舌打ちした。弱い毒だが、こういう消耗戦の時には地味に効く。実力的には上の相手だろうと、スクールカースト最上層だろうと、自分の得意分野で負ける気なんてない。俺だって男だ。

「お前、回復ポット断ったの根に持ってるな?」

即座にいやらしい攻撃の真意を見抜く蘇芳。

「ふっふっふ。貰っとけば回復できたのにねー」

渡そうとしたアイテムの中には、状態異常回復ポーションもあったのに。あと、錬金術を軽視したのも根に持っている。

刺突カジキ!」

しかし蘇芳も負ける気はない。HPが削り切られる前に、こちらを倒してしまえばいいのだ。さすがある美さんカスタム、練度の足りない盾で防げるスキルは入っていない。喰らうか避けるか、選択は二つに一つだ。

身躱キャットっ」

「チッ!そのスキル面倒くせえな」

なんとか成功した。多分、次は失敗する。余裕は無い。

「キャスト、爆竹!」

「うわっ」

今度は錬金術アイテムだ。消耗品は、スキルと同じ威力を発揮しつつもクールタイムが短いので、便利なんだぞ。派手な音と煙をまき散らし、こちらの居場所をわからなくする。索敵を使えばすぐにバレるが、ここで迷彩。

『対戦残り時間、一分です』

「えげつない……」

「彼の本来の戦い方ですよ」

煙の立ち込める石畳の上で咳き込む蘇芳を見ながら、ルリが顔を引きつらせる。隣に腰かけた着物姿のある美さんは、静かに呟いた。二人が座っている長椅子は、先ほどの会話中にある美さんが出したのだろう。

「ですが、わたくしの刀を、甘く見ていただいては困ります」

「キャスト、薫風くんぷう

ある美さんの声とほぼ同時に、蘇芳が呟いた。同時に穏やかな風が吹き、煙が晴れていく。その様子を、目を細めて静かに見ていた蘇芳が、

「そこか!キャスト、真空刃カマイタチ!」

「げーっ!」

的確に、見えないはずの俺に向かってスキルを放ってきた。慌てて飛びのくが、真空刃が足を掠り、HPがまた削れる。しかも、迷彩は攻撃を喰らうと解けてしまう。恐ろしいことにこの剣士、晴れていく煙の道筋に目を凝らし、不自然に曲がる場所を探っていたのだ。迷彩は姿は隠せても、物体そのものが消えるわけではないので、よくよく見れば分からないこともない。が、残り時間一分の正念場で成功させるなど、人のことを言えない変態の所業だ。このまま毒で蘇芳のHPが削れるのを待ちながら、逃げ切ろうと思っていたのに、煙が仇になるとは。俺もまだまだだ。

「キャスト、跳蹴グラスホッパー!」

「っぶ!」

小手先のスキルは蘇芳には通用しない。ならばスキルを使う暇を与えず、倒してしまえばいい。顔目がけて飛び蹴りを喰らわし、

抜刀タチウオ!」

鞘甲クラブ!」

吹っ飛んだところに抜刀を食らわせたはずなのに、鞘で受け止められた。お互いの腕にびりびりと衝撃が走り、

「キャスト、鉄針!」

飛びのきざまにアイテムの暗器。

「うおっ!」

「くらえっ!ホームラン!」

転がって避け、体勢を崩した蘇芳に向かって、キャストした鉄球を傘本体で打つ。

「何でもアリだな?!」

またしても避けられた。しかしここまではフェイクだ。さっき使ったスキルのクールタイムが終わった。

「キャスト、抜刀タチウオ!」

「キャスト、刺突カジキ!」

俺の左肩を赤い刀身が貫き、蘇芳の脇腹を、俺の刺傘が切り裂いていた。

『対戦時間終了。勝者、×null×』

『YOU WIN!』の文字が点灯する。

「っあー!負けたー!」

「はーーーーーー疲れた」

俺と蘇芳は、同時に崩れ落ちた。蘇芳のHPの最後の数ポイントを、毒が削っていた。仰向けに転がった俺は、人工映像とは思えない青い空を見上げながら、なぜ刀スキルには魚の名前が多いのだろう、と、どうでもいいことを考えるのだった。

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