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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
三章

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28/118

追跡と夕飯

 パソコン部との試合の条件はこうだった。


 一、メンバーは大会に申請する予定のメンバーで戦うこと。

 二、試合形式や規則は公式ルールに従うこと。

 三、正々堂々と勝負し、負けても相手チームを恨まないこと。


 鶴崎先生は特に、三つ目を強調して言った。俺はある美さんからの依頼以外に気負うようなことはないし、赤城も勝負慣れしているのでさっぱりしたものだが、もし負けたら、真青はひとしきり暴れるだろう。そしてパソコン部にしてみても、宝石学園杯を今野部長の華やかな引退試合にする予定だったのに、いらぬ邪魔が入ったわけで、こちらが勝ってしまったら確実に恨まれる。

「公式ルール通りにやるってことは、試合時間三十分、全滅か降参かタイムアップで終了ってことだよね」

「あと、課金使用不可な」

「情報が全然ないのが困るなァ。四人以上いたら、結構厳しいと思う」

「作戦会議はよそでやれ。ここは怪我人と病人の来るところだ」

輪になって一斉にわいわい言い始めた俺たちに、麻木先生がうるさそうに言う。鶴崎先生は、その光景をしばし微笑ましげに見ていたが、

「それじゃあ、僕はパソコン部に戻るよ。顧問だから、おおっぴらに君たちを応援は出来ないけど、頑張って。当日にまた、打ち合わせをしよう」

「はい。ありがとうございます!」

頭を下げる真青ににこやかに手を振って、保健室を出て行った。カツカツと規則正しい足音が遠ざかり、聞こえなくなったところで、

「猫被り」

「うるさいなー!」

ぽつっと赤城が言い、真青にはたかれた。

「お前らも、そろそろ帰れ。何かあったら連絡してやるから」

「はぁーい」

麻木先生に促され、保健室を後にする。


 昇降口を出て、無言で歩くこと数百メートル。

「な?」

赤城が、一言だけ発した。

「ホントだ……」

真青も呆れた顔で小さく呟く。

 五メートルほど後方から、俺たち三人をつけてきている人影があった。鈴木ではないが、なんとなく見覚えのある顔の、同じ二年の男子。初めは帰る方向が一緒なだけかと思ったのだが、歩きスマホをしているフリをしながらも、ちらちらとこちらの様子を伺っている。

「今日どっか行く?」

「いやあ、昨日遊んだからやめとこうかな」

こちらがわざと立ち止まって立ち話を始めると、彼もまた、止まってスマートフォンを弄るフリをする。

「尾行下手くそすぎるだろ」

「聞こえるよ」

「鈴木も、人選ミスだなァ……」

こそこそと話しながら、赤城の歩幅に合わせて速足で歩くと、やはりその男子も速足で一定の距離を保ちつつ、ついてくる。

「こりゃ、会議はインしてからだな」

「そうだね……」

真青が口を尖らせつつも同意すると、

「昨日のパフェ美味かったなあ」

赤城が普通の大きさの声で、突然切り出した。

「うん、パンケーキも美味しそうだったよね。また今度食べに行こうよ」

真青もすぐに追随する。昨日鈴木に話したことが嘘ではないことを強調しているのだ。二人とも役者だ。

「俺ナポリタンがいい」

赤城は、メニュー表を見た時からずっと言っていた。

「家で作ればいいじゃん」

モノクロのナポリタンは、昔ながらのナポリタンなので、美味しいは美味しいが家で作ってもさほど変わらない味になる。材料とフライパンがあれば作れるので、そう提案すると、

「家で?作れんの?冷凍じゃなくて?」

きょとんと、首をかしげた。

「赤城、普段何食べてんの……」

思い返せば、昼休みに集合したときは毎回コンビニの惣菜パンを食べていたり、何でもないハンバーグをやたら美味しそうに食べていたし、普段ちゃんとしたものを食べていないのではと心配になった。育ち盛りなのに栄養が偏るのは良くない。いや、もう十分に育っているが。

「ウチの親、食い物超テキトーなんだよ」

「ああ、イギリスで暮らしてたから?」

「イギリス?!」

「巧のパパ、ハーフなんだよー」

道理で、髪の色が明るいと思っていた。茶髪だが、染めた色ではない自然な栗色なのだ。どこまでハイスペックなんだ、赤城巧。少女漫画の住人か。

 詳しい話を聞くと、赤城の父方の祖父がイギリス人なのだそうだ。両親と共にイギリスで暮らしていた赤城父が、当時留学していた赤城母に一目惚れ。必死に口説いて付き合い始めるも、赤城母は日本で暮らしたいと断固譲らなかったので、赤城父が移住を決意。赤城母もその気合いと根性に負けて、プロポーズを受けたらしい。

「赤城のお母さんと、真青さんのお母さんが姉妹なんだっけ?」

「そうそう。うちのお母さんの旧姓が赤城なの」

「へー……」

だんだん混乱してきて、頭の中で家系図を描きつつ相槌を打つ。

「しかし、毎日三食手作りの料理とか、羨ましすぎるだろ。俺駆んちの子になるわー」

「でっかい弟だなァ」

「オニーチャン、晩ご飯オムライスがいいー」

「「気持ち悪い」」

猫撫で声を出す赤城に、思わず真青と声が重なった。

「でも、母さんに二人のこと話したら、連れて来いって言ってたから……。先に来る日伝えといたら、何か作ってくれるかも」

「ホント?『佐藤さんちの夕ごはん』の本物が食べられるの?」

「よし、じゃあ二日は駆んちで打ち上げだな」

にわかに二人のテンションが上がった。俺は慌てて宥める。

「まだ勝てるかどうか、分かんないでしょ」

「負けたら打ち上げが反省会になるだけだろ」

「うんうん。あ、でも無理だったら無理って言ってね?押しかけるの悪いし」

おそらく母は断らない。もはや我が家に集まるのは決定事項になってしまった。気がつくと、つけてきていた男子はいなくなっていた。


 「ってことなんだけど」

「いいよー!二日の夕方ね。空けとく空けとく!」

家に着き、今日は帰ってこないという母に電話すると、二つ返事で了解された。

「ばっちり作って待っててあげる!勝ったか負けたかも連絡よろしくね」

ということは、勝敗にメニューが左右されるということだ。これは赤城に伝えたら燃えるだろう。何を作るつもりなのかは、敢えて聞かないでおいた。

 電話を切った後、晩ご飯にはナポリタンを作った。赤城がナポリタンに執着するものだから、俺まで食べたくなったのだ。二人分作り、片方は蓋をしてレンジの中へ。スープは鍋に入れたまま、カップを隣に出して置いておく。

 冷蔵庫に貼られたホワイトボードに、いつもしているように父宛にその旨を書き記してから、自分の分を部屋に持っていき、ヘッドセットを被った。

「よっ」

「さっきぶり。今トルマリだけど、今日はアルミさんはいないみたい」

ログインすると、すぐに二人が声をかけてきた。一度パーティーを組むと、解散するか自分で抜けるかリーダーに蹴られるまで、同じパーティーが維持されるのだ。

「ふぁーい」

行儀悪く、現実でナポリタンを食べながら返事をする。脳波プレイの良いところは、手が塞がっていても操作ができるところだ。もぐもぐしている俺の声を聴いて、赤城が怪訝そうに訊ねた。

「何食ってんだ」

「ナポリタン」

「くっそー」

時間が惜しいので、合流せずに各地に散ってランク上げをしながら喋る。

「どうする?三連休でなんとかしないといけないよ」

「ナルはあれから、ランク上がったか?」

「今四十六」

「はえーよ」

七十から八十が上がりにくいということは、裏を返せば七十までは、サクサク上がるのだ。アバターも三人目だし、時には人の手伝いもしていたので、どのクエストをどの順番で受ければいいかは把握している。

「でも、さすがに三連休で八十の壁は無理だよ。スキルの熟練度も全部上げるのは難しい」

八スロット装備とは言え、ステータスが万全でなければ、その力は半減する。

「ホント、気合い入れて掛からないと負けるかもしれないよ。……多分パソコン部チームは、四人以上いる」

「どうしてそう思うの?」

「大会に申請する予定のメンバーで戦うことって条件出されたでしょ。多分、鶴崎先生は俺らが三人から増えないことを、パソコン部に伝えたんだ」

顧問をしているからには、その部が大会に出ることが望ましいに決まっている。だからこそ、恨むなという条件も付け加えた。

「なるほど、勝機があるから受けたってことか」

「人数以外のことは全く知られてないはずだよね?単純に、私たちが強ければいいってことじゃない?」

「そう。ということで提案なんだけど」

そして、俺は言った。

「ルリ、俺と勝負しない?」

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