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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
十四章

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実質三対一

 ルール上、味方が攻撃に巻き込まれて戦闘不能になる、いわゆる同士討ちやフレンドリーファイアが起きた場合、どちらのチームにもポイントは加算されない。

『ルリ、出る準備。タイミングは自分で』

「はいっ」

パーティーチャットで、淡々と指示が走る。

「キャスト、跳蹴(グラスホッパー)

休む間もなく、せくめとは仕掛けてきた。

「キャスト、(タートル)

冷静に受けて再度距離を取りながら、ライムが苦々しげに口を開いた。

「味方ごと刺すとか、アホなん?」

「そっちも同じことしようとしてたろ?」

せくめとは飄々と言い返しながら、距離を詰めてくる。

「うちらは、できれば上手いこと避ける予定やったんで」

大鎌の柄で鉤爪を弾くが、モーションの速い拳装備に圧され、徐々にグラウンドの端へと後退していった。

「それじゃダメだぞー。本気で行かないと。むしろ本人に一切伝えず味方に狙いをつけるくらいで丁度いい」

「参考にさせてもらうわー……」

勝つためならば手荒なことも厭わず、また犠牲になった側も恨まない。戦闘狂の集団だからこそ、できる戦い方だった。

「てか、デスサイスなんかいつの間に仕入れたんだよ」

「借りもんや」

「へー、もちろんSランクだろ? ……わかった、あの白い奴だ」

「うるさいなー、もう。舌噛むから話しかけんといて!」

「修行が足りんぞー」

「腹立つわー……」

半分はせくめとへ、もう半分は言い返せない自分への苛立ちを呟きながら、ライムは徐々に圧されていく。


 そして、

「いっ?!」

ガキィン、と一際大きな火花が飛び散り、ライムが大きく体勢を崩した。

「キャスト、盾――」

「隙ありィ!」

もちろん、せくめとは一切手加減をしない。展開される盾よりも速く、鉤爪が振り下ろされた。

「キャスト、真空刃(カマイタチ)!」

ライムの胸元を切り裂くかに思われた鉄の爪が、寸前で弾かれ軌道が逸れた。更に、

「キャスト、らぶぃくん!」

ルリの声が、グラウンドに響く。

 瞬間、地響きと共にパステルブルーのウサギが現れ、弾力のある腹でせくめとの鉤爪を受け止めた。

「助かった! さすがルリちゃんやーん」

何が起きたか理解し、ライムはほっと笑顔を漏らした。

「らぶぃくんだとう?」

「らぶぃくんパンチ!」

耳の間に座ったルリから指示が出る。らぶぃくんゴーレムは思いの外俊敏な動きで、右ストレートを放った。

 迂闊に近寄れば踏み潰されるので、せくめとは渋々距離を取る。その間にライムは後方に下がり、体勢を立て直した。

「らぶぃくんビーム!」

らぶぃくんの小さな口がパカッと開き、青白い光線が地面を抉った。

「ビームまで出るのか!」

間一髪で避けつつ、せくめとは面白そうに笑った。と、

「くらえっ」

ライムも負けじと真空刃を放つ。

「キャスト、盾! っとと」

矢を弾いた反対側から、大きな腕が襲ってくる。さすがのせくめとも、実装されたばかりの新型ゴーレムに対しては経験が浅い。衝撃波でHPが削れ、にやりと口角を上げた。

「一撃は軽いが見た目の割にそこそこ素早い。攻撃型のスピードタイプか」

即座に見抜き、そこからは早かった。

「キャスト、跳躍(ラビット)!」

「わわっ、らぶぃくんビーム!」

「ビームは反動が長いんじゃないか?」

器用に空中で身体を捻り、紙一重でビームを躱す。

「キャスト、千重波(ドルフィン)!」

「キャスト、転移(フォックス)!」

「わあっ?!」

ライムの攻撃を避けたと思ったら、急に目の前に現れたせくめとに驚いて、ルリがバランスを崩した。らぶぃくんの頭上から落ちそうになり、慌てて耳に掴まる。

「お嬢ちゃん、期間中にイベントゴーレムをSランクにするたあ、なかなかやるじゃねえか。廃人の素質がある!」

「そこかい!」

突っ込みと共に放たれた矢を鉤爪で叩き落とし、せくめとはルリに牙を剥いた。

「ルリちゃんから離れろこの露出狂!」

再びデスサイスを手にして跳躍したライムが、ここぞとばかりに背後から罵倒する。

「ビキニアーマーの良さがわからんとはおこちゃまめ!」

しかし、振りかぶった刃はまたしても、鉤爪に弾かれた。

「着込んでナンボやろ! 文明を何やと思てんねん!」

どうでもいい主張をぶつけ合いながら、らぶぃくんの頭から飛び降りるせくめとを、ライムが追う。

「ええっと……」

危機を脱したルリだったが、謎の勢いに気圧され、ひとまずライムの後を追って地上に降りた。


*****


 『くっそー、楽しそうにバトるなあ』

控え室に飛ばされた蘇芳が、モニターで様子を見ながら、腹立たしげに呟く。

「あれ? 俺、急がなくても良さそう?」

『いや早く行けよ』

「はーい……」

現場が窮地を脱したことを察して鉄天馬の速度を緩めると、蘇芳に即座に叱られた。ルリとライムからの反応はない。せくめとさんの相手をするだけで精一杯なのだ。俺は迷彩で姿を隠し、再び速度を上げた。


 住宅街を抜けると、広いグラウンドに点のように三人と一匹の姿が見えた。らぶぃくんゴーレムを盾に、逃げ回っているようだ。

 しかし防御型ではないらぶぃくんは、あーさんのハナコよりも脆い。ファンシーなウサギが傷ついている姿には、心が痛む。早く行ってやらなければ。

「突っ込むよ。二人とも、避けてね」

「へ? 突っ込むって」

ルリの声を掻き消すように鉄天馬が唸り、その音を聞いたせくめとさんがこちらを向いた。対象が見えていないのに、的確に音のした方角を聞き分けるとは、やはり気持ちが悪い。

「よそ見厳禁!」

一瞬の隙を突いて、ライムが筋肉質な腹に切り込む。


 紙一重で避けたせくめとさん目がけて、俺はフルスロットルで突っ込んだ。

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