実質三対一
ルール上、味方が攻撃に巻き込まれて戦闘不能になる、いわゆる同士討ちやフレンドリーファイアが起きた場合、どちらのチームにもポイントは加算されない。
『ルリ、出る準備。タイミングは自分で』
「はいっ」
パーティーチャットで、淡々と指示が走る。
「キャスト、跳蹴」
休む間もなく、せくめとは仕掛けてきた。
「キャスト、盾」
冷静に受けて再度距離を取りながら、ライムが苦々しげに口を開いた。
「味方ごと刺すとか、アホなん?」
「そっちも同じことしようとしてたろ?」
せくめとは飄々と言い返しながら、距離を詰めてくる。
「うちらは、できれば上手いこと避ける予定やったんで」
大鎌の柄で鉤爪を弾くが、モーションの速い拳装備に圧され、徐々にグラウンドの端へと後退していった。
「それじゃダメだぞー。本気で行かないと。むしろ本人に一切伝えず味方に狙いをつけるくらいで丁度いい」
「参考にさせてもらうわー……」
勝つためならば手荒なことも厭わず、また犠牲になった側も恨まない。戦闘狂の集団だからこそ、できる戦い方だった。
「てか、デスサイスなんかいつの間に仕入れたんだよ」
「借りもんや」
「へー、もちろんSランクだろ? ……わかった、あの白い奴だ」
「うるさいなー、もう。舌噛むから話しかけんといて!」
「修行が足りんぞー」
「腹立つわー……」
半分はせくめとへ、もう半分は言い返せない自分への苛立ちを呟きながら、ライムは徐々に圧されていく。
そして、
「いっ?!」
ガキィン、と一際大きな火花が飛び散り、ライムが大きく体勢を崩した。
「キャスト、盾――」
「隙ありィ!」
もちろん、せくめとは一切手加減をしない。展開される盾よりも速く、鉤爪が振り下ろされた。
「キャスト、真空刃!」
ライムの胸元を切り裂くかに思われた鉄の爪が、寸前で弾かれ軌道が逸れた。更に、
「キャスト、らぶぃくん!」
ルリの声が、グラウンドに響く。
瞬間、地響きと共にパステルブルーのウサギが現れ、弾力のある腹でせくめとの鉤爪を受け止めた。
「助かった! さすがルリちゃんやーん」
何が起きたか理解し、ライムはほっと笑顔を漏らした。
「らぶぃくんだとう?」
「らぶぃくんパンチ!」
耳の間に座ったルリから指示が出る。らぶぃくんゴーレムは思いの外俊敏な動きで、右ストレートを放った。
迂闊に近寄れば踏み潰されるので、せくめとは渋々距離を取る。その間にライムは後方に下がり、体勢を立て直した。
「らぶぃくんビーム!」
らぶぃくんの小さな口がパカッと開き、青白い光線が地面を抉った。
「ビームまで出るのか!」
間一髪で避けつつ、せくめとは面白そうに笑った。と、
「くらえっ」
ライムも負けじと真空刃を放つ。
「キャスト、盾! っとと」
矢を弾いた反対側から、大きな腕が襲ってくる。さすがのせくめとも、実装されたばかりの新型ゴーレムに対しては経験が浅い。衝撃波でHPが削れ、にやりと口角を上げた。
「一撃は軽いが見た目の割にそこそこ素早い。攻撃型のスピードタイプか」
即座に見抜き、そこからは早かった。
「キャスト、跳躍!」
「わわっ、らぶぃくんビーム!」
「ビームは反動が長いんじゃないか?」
器用に空中で身体を捻り、紙一重でビームを躱す。
「キャスト、千重波!」
「キャスト、転移!」
「わあっ?!」
ライムの攻撃を避けたと思ったら、急に目の前に現れたせくめとに驚いて、ルリがバランスを崩した。らぶぃくんの頭上から落ちそうになり、慌てて耳に掴まる。
「お嬢ちゃん、期間中にイベントゴーレムをSランクにするたあ、なかなかやるじゃねえか。廃人の素質がある!」
「そこかい!」
突っ込みと共に放たれた矢を鉤爪で叩き落とし、せくめとはルリに牙を剥いた。
「ルリちゃんから離れろこの露出狂!」
再びデスサイスを手にして跳躍したライムが、ここぞとばかりに背後から罵倒する。
「ビキニアーマーの良さがわからんとはおこちゃまめ!」
しかし、振りかぶった刃はまたしても、鉤爪に弾かれた。
「着込んでナンボやろ! 文明を何やと思てんねん!」
どうでもいい主張をぶつけ合いながら、らぶぃくんの頭から飛び降りるせくめとを、ライムが追う。
「ええっと……」
危機を脱したルリだったが、謎の勢いに気圧され、ひとまずライムの後を追って地上に降りた。
*****
『くっそー、楽しそうにバトるなあ』
控え室に飛ばされた蘇芳が、モニターで様子を見ながら、腹立たしげに呟く。
「あれ? 俺、急がなくても良さそう?」
『いや早く行けよ』
「はーい……」
現場が窮地を脱したことを察して鉄天馬の速度を緩めると、蘇芳に即座に叱られた。ルリとライムからの反応はない。せくめとさんの相手をするだけで精一杯なのだ。俺は迷彩で姿を隠し、再び速度を上げた。
住宅街を抜けると、広いグラウンドに点のように三人と一匹の姿が見えた。らぶぃくんゴーレムを盾に、逃げ回っているようだ。
しかし防御型ではないらぶぃくんは、あーさんのハナコよりも脆い。ファンシーなウサギが傷ついている姿には、心が痛む。早く行ってやらなければ。
「突っ込むよ。二人とも、避けてね」
「へ? 突っ込むって」
ルリの声を掻き消すように鉄天馬が唸り、その音を聞いたせくめとさんがこちらを向いた。対象が見えていないのに、的確に音のした方角を聞き分けるとは、やはり気持ちが悪い。
「よそ見厳禁!」
一瞬の隙を突いて、ライムが筋肉質な腹に切り込む。
紙一重で避けたせくめとさん目がけて、俺はフルスロットルで突っ込んだ。




