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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
十三章

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正体見たり

 正午を回り、各部活が昼休憩に入る頃になった。

「……集まりすぎじゃね?」

グラウンドには、元々そこで部活をしていたサッカー部と野球部だけでなく、体育館にいたバスケ部とバレー部、そして旧校舎から一番遠い実習棟にいたはずの吹奏楽部や美術部の姿まであった。ピクニック感覚なのか、コンビニのおにぎりやパンをかじっていたり、弁当の袋を提げている者が多い。

「アプリのホームに投稿しただけなんだけど、こんなに集まるとは思わなかったよね」

月下が、いやー、誤算誤算、と全く悪びれていない様子で言った。

「アンタのケイタイ誰かに盗られたら、この学校お終いなんと違う?」

「でも、まだ海鳥ちゃんの連絡先知らないからなー」

「今の状況見て教えるわけないやん」

「冷たいなー、でもそこがいい」

「アホなん?」

どつき漫才のような会話をしている二人をジト目で見ていた巧だったが、ため息をつくと、野球部の男子のほうを見た。

「最初に幽霊見たのって、野球部だったよな?どこの窓?」

すると、日焼けしたスポーツ刈りの男子が答える。

「えーっと……。三階の、あそこじゃなかったっけなあ」

やはり、指差した窓はげきま部が使っている物置教室の、いつもカーテンを開けている窓だった。しかし、巧は動じることもなく、スラックスのポケットに手を突っ込んだまま、ふーん、と興味なさげに言うのみだ。すると、

「ねえ、あっちのカーテン開いてるんだけど!」

そう叫んだのは、吹奏楽部の女子だった。一同の視線が、彼女の指差す方向に移動する。それは、げきま部の部室の隣の空き教室だった。

 そして、暗いガラスの向こうで、何かが動いた。

「今なんかいた!」

「人じゃなかった?」

「まさか、見間違いだって……」

騒然とするグラウンド。事情を知っている海鳥は、どうする気だと怪訝そうに巧の顔を見上げた。

「そんじゃ行くか?幽霊退治」

巧はちょっと近所のコンビニまで誘うようなノリで提案し、さっさと歩きだした。

「本気?」

「大丈夫?」

集まった面々は、互いに顔を見合わせる。中には幽霊よりも巧や月下に興味がありそうな女子もおり、隣を歩く海鳥に容赦のない視線が刺さる。各自の思惑が渦巻く中、物好きたちはぞろぞろとリーダーの後をついて行くのだった。


 校舎の中に入ると、幽霊捜索隊は

「旧校舎久しぶりに入った」

「保健室以外、あんまり用ないよね」

「てか、なんでまだ建ってんの?」

と、不安を紛らわせるように好き勝手に喋りながら巧と月下の後を追う。当の二人は、

「巧、足だいぶマシになったんでしょ?サッカー部戻ってこないの?フルは無理でも、試合出れるんじゃない?」

「やだね、気ィ使われながらやりたくねえ」

「監督も帰ってきてほしそうだよ?明らかに攻撃力落ちたもん」

だらだらと世間話をしていた。こないだの試合もさあ、と愚痴を零し始める月下に、

「一人抜けたくらいで負けるチームなんか、元々大したことねえんだよ。ガンバレー」

やる気のない応援をするが、それはどこか、自分に言い聞かせているようでもあり。月下はきょとんと巧の顔を見た後、

「言うねえ」

肩を揺らして笑った。


 そんなことを言っている間に、一同は階段を上り切った。

「ここだったよね?」

月下が、空き教室の出入り口の頭上の、何も書かれていないプレートを見上げる。そしてドアに手を掛けて、手ごたえの軽さに驚いた。

「あれ、開いてる。開けていいの?」

振り返って、巧に訊ねた。

「おう」

頷く巧に、じゃあ遠慮なく、と言って、月下は少し硬い引き戸をそろりと開けた。他の生徒たちも、固唾をのんで見守る。すると突然、内側からにゅっと手が出てきて、開き掛けのドアを掴んで強引に開けた。

「うぉあ?!」

「いやーっ?!」

「出たーっ?!」

三階にたくさんの悲鳴が響き渡り、

「来たな、探検隊」

開け放ったドアの向こうでうるさそうに耳を塞ぎながら、養護教諭の麻木雨響がにやにやと笑っていた。

「へ?麻ぽん先生?」

「お前もその呼び方すんの?」

ぽかんと口を開けた月下に、麻木は不満そうに口の端を歪める。

「なんで麻ぽん先生がここにいんの?」

「無視か?……そら、雨漏りの点検頼んだのが俺だからだよ」

「点検??」

廊下にいた、巧と海鳥以外の全員が頭上に疑問符を浮かべ、各々、空き教室の中を覗き込んだ。すると室内には、

「あ、巧!海鳥ちゃん!駆君がね、お弁当持って来てくれたんだ!食べない?」

「どうもー」

サンドイッチを片手に笑顔で手招きする春果と、紹介されて会釈する駆、そして、

「……」

眉間に皺を寄せている用務員の住吉が、机の上に広げた弁当箱を囲んで、椅子に座っていた。

 それを見た月下が、

「なんだ、そういうことかー」

納得した顔で頭を掻き、ため息をついた。

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