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着た

「これは……っ!」


 鏡に映るのは、腰まで流れる金髪に柔らかな微笑み。真っ白な肌を露出した胸元、豊かなそれを覆うのは上下セットの下着だ。締まった腹部とそこから引っ張られるように突き出た腰骨に引っかかるようにして下着が装着されている。なるほど腰で履くよな、女子って。と目の前の鏡に映る女は満足そうに笑った。惜しいのは元々履いていたトランクスの上からなので、本来の良さが半減していることだ。

 毎度変身するたびに、なんでこの目の前のいい女が自分なのか、まずそれを考えてしまうが、手のひらから返される柔らかく、滑らかな感触に今度は若干いやらしくニンマリ笑うと大体満足もする。これはいいものだ。腰骨の上あたりをつつっと指を滑らせると、指先には柔らかな感触、腰にはぴりっ電流が流れるような感覚。全身がびくっとする感じがなかなかよろしい。禄でもないことをしている自覚はあるが、自覚があってもやってしまうところが健康な男子なのだ。自分の体だし。


「……何してるんです」

「うぉぉっと!」


 おもわず体をびくつかせて振り向くと、半眼の梨花(りんか)がカーテンから顔を出していた。



「いいね。これ」

 タイトなスカートにジャケットと周りに溶け込みそうな出で立ちに満足そうに頷く幸太。ストッキングもなるほど寒さを軽減して非常によろしい。顔立ちが日本人離れていることを除けば。

 つまるところ悪目立ちしているわけだが、いいテンションになっている本人はあまり気にしていない。というか、周囲の反応を楽しんている節さえある。


 その後パンプスを購入し、選んでくれた梨花に礼を言い、ついでに連絡先を交換した。


 別れ際、再度の礼に「いいのよ。それより会社、いいの?」「あっやばっ! もう遅刻だ!」と、若干歩きにくそうにする幸太に「はい、気を付けてね」と送り出す。

「うひゃー……なんか恥ずかしいな」と言いながら駅の出口に向かって歩いていく女? に梨花はこっそりと呪を投げかける。定着。東部の魔術とは違う体系の(まじな)いを印を切りながら発動させる。相手へのマーキング……これはうまくいったようだ。もうひとつ、相手の魔力量を把握する呪い……「!?」を発動させる寸前でまるで手で払われるように弾かれた。人ごみに遠ざかっていくその姿は、若干無防備そうに歩くただの女に見える。駅構内のトイレと隣の奥まったところにある事務室周辺の僅かな暗がり。

 「?」目を凝らさないと見逃してしまう。遠いからではなく、暗いからでもなく……「透けてる」白い着物に包まれた脚が覗く。移動しているのだ。梨花は自分の体が震えるのに気が付くが体は動かない。金縛りに遭っているのだ。そうして半身が見え……こちらを向いたその顔は、着物姿とはいえ見間違いようがないそれは幸太と同じものであった。


 気がついたら駅の医務室、ベッドの上だ。


「あー怖かったぁ……誰あれ? 守護霊?」暖かい毛布の中なのに、悪寒を覚えた梨花はぶるりとその身を震わせた。


「えっ!? つーか、誰すか!? 幸太センパイのパスワードなんで知ってるんすか! 漏洩!」

「煩いぞ後輩」


 出社後、手持ちのカードキーで入室し、当たり前のように「はよーっす」と色っぽさを感じる声で挨拶して幸太の席でデスクトップPCを起動し、ログインして作業し始めた女に居室にいる面子が呆気にとられるのも当然であった。

「佐藤幸太。訳あって今はいまちょっと美女ってるのだ」前もってブラウスのボタンをひとつ外していた胸元を後輩に向けつつ後輩を魅了せんと上目遣いで目を合わせる。いつもの言葉使いってところがミソだと思う幸太だ。案の定、胸元と顔とストッキングで包まれた脚の間を忙しなく視線が動く。やったぜ。

「おう後輩。視線を感じるなぁ。胸とか脚とか」

「え、あ、う、いやいやいや! 見てませんて!」

「女子は視線に敏感なんだぞ。気をつけろよ?」もっとも女子歴(?)が浅い幸太には視線なんかたいして気にならないのだが。女子歴を重ねればその辺分かるようになるのだろうか。今度父さんに聞いてみよう。

「え、はい……ていうかマジで幸太センパイなんすか? ホルモンとかそういうアレっすか? 飲みに行くところモツ焼きばっか選ぶからっすよ。安いけど」

「ホルモン違いだが、旨いだろうが。若いうちはホルモンの脂で呑み、食うのだ」3千円もあれば気持ちよく酔えて、お腹も膨らむいいチョイス。

「なんか本物っぽいしゃべり方……じゃあ、メールで設計の確認お願いしてるんでお願いしますね」

「おう、任せろ」


 この後、後輩君に鬼のように指摘が入り、「あ、やっぱこの(ひと)センパイだわ」と納得することになるのであった。

 上司とも似たようなやりとりがあり、女子社員にはトイレの使用に関するルールが制定された(やはり最優先事項なのだ。これは)。

 別に男子トイレの個室でもいい気がするのだけれど。


「それはそれで問題ありすぎでしょ」


 やっぱり駄目なのである。

すいません。お久しぶりですね。

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