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ハネムーン(2回目)

 これでいいのか……と幸次は思う。向こうの世界に行くのは自分だけでいいのではないかと。安全を考えると、現代日本の方がはるかに安全だ。置いていった方がいいのか、皆付いて来てくれるとは言っているのだが……

 思い返してみると、戻ってくるのも向こうに行くのも自分の都合だ。自分が家族に会いたくなって戻ってきたのだし、再度向こうの世界に行くのも自分の判断なのだ。どちらも家族や側近を振り回しているだけなのではないか。


 ……でも、もう1人は嫌だと幸次は思う。そんな極めて自分勝手な理由なのだ。家族を連れていくのは。


 それで、3人に3人の精霊を与えた。


 青炎の精霊、魔力の精霊、豊穣の精霊。


 2人の子供たちはその力を取り込むことにまだ躊躇している。当然だ。


「……こんな結果じゃな」


「ん? なんか言ったか? 幸次」


「……いや……」


 まあ、幸太は会社の仕事があるのだし、美衣は……まだ通学しなくては。せめて卒業させたいと思う。


 運転席から、景色が流れる車窓に目を向け、幸次はちょっとだけうんざりと顔を顰めた。






 カランコロン……と温泉街に下駄を鳴らす足音が二つ。


 1人は淡い金色の髪をまとめた少女。小柄で抜けるような白い瑞々しい肌と深緑の瞳。細くつるりとしたうなじは、女性特有の艶を醸し出している。

 1人はやや暗い金色の髪を後ろで束ねた青年。浅黒い肌と深緑の瞳。すらりと高い背とやや甘い顔は、異性に対して大きな武器になるであろう。


 青年が少女の肩を抱くように歩いている様は、やや危ない雰囲気ではあるが、少女のやや照れるように頬を染めながらも、気を許した穏やかな顔を見るとそんな雰囲気は霧散する。


 群馬は四万の温泉街。落ち着いた雰囲気は、若い見目には似つかわしくないのであるが、見た目よりしっとりとした歳を重ねて育んだ雰囲気が、不思議と鄙びた街並みに溶け込んでもいたのだ。


 青年が「あれをやってみよう」と右手で少女の肩を抱き左手でスマートボールを指さしてみれば、少女は嬉しそうに「うん」と頬を染めて青年を見上げる。

 少女が物欲しそうな顔で、温泉まんじゅうのセイロをみると、青年は1つ買い求めて少女の桜色の唇を割り入れてそっとまんじゅうを食べさせる。少女は少し恥ずかしそうにしながらも、青年の行為を受け入れる。

「ん、おいしい」

 少女の笑顔を見た青年は笑みを深め……少女の頭を自らの胸にかき抱いた。

「わっ」

 少女は、少しだけ深緑の目を見開いて驚いていたが、静かに目を閉じるとふわりと力を抜いた。





「……で、風呂まで一緒か」


 少女が呟きながらちゃぷちゃぷと手足をばたつかせるのを抱きかかえるように、青年は少女の腹に手を回す。ちょうど抱っこしているような形になった態勢だが、少女は特に気にした様子もない。それどころか、少し困ったような照れるような微笑みを浮かべると、青年の胸に頭を載せる。5,6人は入れる広さではあるが、その隅で戯れる男女。


「……折角こんなに可愛くなった幸次を、こんなに愛してあげられるようになったんだ。いろんな幸次を味わいたいんだよ。()は」


 青年はそう言いながら、ふにふにと少女の腹や脇をくすぐる。少女は体を震わせながらくすくすと笑う。


 そうしながら、少女=幸次は後ろを振り向き、潤んだ瞳で青年を見上げ……


「あいたっ」


 その頭をひっぱたいた。


「何やってんだ、何やってんの? やっぱりちょっとおかしいんじゃないのか。なぁ、俺はそういうことのために注意したんじゃないだよ。うっかり想像しちゃうと、想像に姿が引っ張られるってのはな。あっ、ちょっと、どこ触ってる。今は説教の時間なんだよSEKKYOUなんだよ。ぷっ、あははは! 手つきがちょっとどころじゃなくイヤラシイんだよ! ……なにカチンコチンにしてるんだ。いや、力持ちになったのはわかったから、抱っこで運ぶのは止せ。抱っこは。あれ、お前なに布団敷いてるの」








……一時間後、幸次は珍しくカンカンに怒っていた。それはもう、ぷりぷりと怒っていた。


「あのな、布団敷いたのはいいけど、ここの夕食は部屋出しだぞ。わかってるのか? 仲居さんからお盛んですねとか、あらあらまあまあとか言われるんだぞ。いや、そりゃ新婚旅行の時は俺がお盛んだったのは認める。認めるが、お前あれか? 幸太と美衣の弟か妹が出来ちゃったらどうするんだよ。……ああ、はいはい。気持ちよかったと。そりゃまたヨカッタですね! とにかく! この布団を……んむっ!」


 ぷんぷんと怒っていた幸次の口を青年の口で塞ぐ。あれだけ怒っていた割には抵抗もせずに、青年の首に手を回した少女の躰を壊れ物ののようにそっと布団の上に横たえる。


「……夕食までには済ましてくれよ……」


 幸次は呆れと嬉しさを綯交(ないま)ぜにした笑顔を青年に向けると、全身の力を抜いた。



……一時間後、部屋に入った仲居は布団でぐったりしている幸次と、寄り添うように横になり、頭を撫でている青年を交互に見て「あらあらまあまあ」と何かを察したような声をあげる。幸次はそれにビクリと身を縮ませたが、青年はにこやかに「この子、湯あたりしちゃって……あ、食事はおいていっていただければ、あとはやっときますから」と、笑いかける。仲居は幸次に、「こんなに優しくてかっこいい彼氏さん、いいわねぇ」と笑う。幸次も思わず苦笑い。


 落ち着いた(何が?)幸次が茶碗蒸し(青年の分)をつるつると食べている。青年も見た目は日本人離れしているが、箸を器用に使いながら、焼き魚をほじりながら熱燗をキュッと飲む。


 幸次が海老の天ぷらを咥えながらぼそりと呟いた。


「……まじで3人目は勘弁してくれよ、美穂」






 佐藤美穂、青炎の精霊に憑かれた幸次の妻はTSした。



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