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ビーチの呑み娘

 白い砂浜。青い海、若者や家族連れの楽しそうなどこか浮かれた声。真っ青な空の下、ビーチパラソルの下で寝そべる白く細い肢体。

側を歩く男たちが皆一様に目を向けてくるような体を持つ少女は……

 ごきゅっごきゅっごきゅっごきゅっ……

「かーっ! やっぱり夏は冷えたビールだな!」


 酔っていた。


 初日だけはどうにか1人になれる時間を作り、クーラーボックスに缶ビールなどの飲物を詰め込み、焼き鳥やらお好み焼きやら欲望の赴くままに買い込み、ビーチチェアで万全の態勢である。

「げふーーー」

 凡そ美と付くような少女がするとは思えない、なんともおやじくさいげっぷを出す。実際、アルコールといか焼きの混ざった酷い臭いに幸次は思わず顔を顰める。空き缶入れに使っているレジ袋には、既に2本のアルミ缶。500mlである。

サングラスで顔が隠れており、髪の色や肌の色もあって、年齢を咎められることは無いのが更に飲酒行為に拍車をかける。


 ぷしっ。


 ひんやりとした手触りに、にんまりと笑みがこぼれる。右手にビール缶、左手に焼き鳥。「サテサテ」

 焼き鳥を齧る。甘口のタレと鶏肉が持つ旨みを堪能し、ビールを喉に流し込む。


 ごきゅっごきゅっごきゅっごきゅっ……


「くはーーー! 極楽、極楽」

 異教のトップは自分の宗教には無い概念の言葉を持って、自分の幸福度を表現すると、串に刺さっている焼き鳥を口に放って、ビールを飲む。

「ふう……ふぁ……」

 弛緩しきった体と精神は、すぐに眠りへといざなわれる。


 数人のナンパにまるで気が付かず眠っていた幸次は、自身の「ふがっ」という鼾で目が覚めた。

「お、いつの間にか寝てたか……ん?」


 海の方を眺めると、野球帽を被った子供が歩いてくる。夏であり、服装的にはそれほど違和感を感じないはずの様子にも関わらず、どうしたことかその子から目を離せず、首をひねる。

 違和感の正体は、やはり服装であった。ビーチにも関わらず、水着を着ていないのだ。Tシャツと子供が履くような半ズボン、白いソックスに運動靴。周囲もまったく気にしていないかのような振る舞い。その歩いてくる子供だけが別世界にいるかのような違和感。


 子供は、スッと幸次の脇を通り過ぎると、ビーチの出口へと歩いていった。


「……なんだありゃ」


 呟きながら、缶ビールのプルタブを開ける音と、「あーっ! こんなところにいた。おとう……ディア、そろそろホテルいこ! 温泉あるんだって」


 美衣の声が重なった。



「なんまんだぶなんまんだぶ……」


 ホテルの浴場である。幸次の視界には沢山の肌色が広がっている。モデルをしてしまうような年頃の娘たち。自分が高校生だったときには、このような光景にお目にかかるとは思いもしなかった。

 それらに向かって、ありがたやと鼻の下を伸ばし、手を合わせる幸次だ。


(やっぱりうちの子が一番だな!)

 親の贔屓目を全開にして美衣と他のモデルたちを見比べる。(よし、負けてない。むしろ勝っている! こりゃ美衣も本格的にモデル業していいんじゃないかねぇ? 知らんけど)


 トモちゃんも中々可愛らしい。可愛らしい体型だ。こういう娘が好みの男もいるだろうな、と思う。そういえば、幸太はどういうのがいいんだろうな。


 よいしょ。と幸次は浴槽から出る。

「さてっと。髪洗うか……」

 見ているのは幸次だけではなかった。入れ替わりで浴槽に入った女子が、幸次の体を見ているのだ。

「白いよねぇ」

「お腹の括れがすごいです!」

「お尻がキュッとしてていいなぁ……」

「はわわわわわ……格差を感じます~」


(……なんだこれ。緊張してきた)

 持ち込んだいつものシャンプーを手に取り……取ろうとしたら横からシャンプーを持っていかれてしまった。

「え?」

「私がやるよ」

 お父さん、と小声で囁いて美衣がシャンプーを手に取る。

「なんか緊張してる?」

 美衣はクスリと笑って幸次の地肌を優しく洗う。

「む。うむ。美衣と同世代の娘と風呂なんて初めてだからな」

 あー、そっか。と幸次の頭をコツンと叩く。

「興奮とかした? 実の子と同世代の裸」

 ぶっ! と噴いた幸次がゲホゲホと咽ながら「んなわけないだろ! ……ないよな?」ううむ唸る。


「……ねえ、疑惑のお父さん」

「な、なんだ、疑惑って」

「ロ……疑惑のお父さん」

「ロ? ロ……! いやいや、違うって」

 あらぬ疑いを掛けられ、慌てる幸次に美衣が畳みかける。

「私、スマホ買い替えたいの」


「そこかい」


 幸次が遠い目で窓を通して見た外は、徐々に日が傾いてきていた。


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