表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/87

車内での迷惑行為は止めましょう

「しかし、あれだね。結構視線を感じるものだね」

 と、幸次がため息交じりに零す。

(気持ちはよくわかるんだけどな)

 電車のロングシートに並んで腰かけていると、向かいの席や立っている乗客からチラチラとこちらへの視線を感じるのだ。

 年頃である3人の少女が足を晒して座れば、そこに目が行くのは健康な男性であれば仕方のないことではあると、元男性である幸次にはよくわかることではあるが、若干鬱陶しいのも事実である。聖女であった頃は、視線を感じるのが当然であった日常ではあったが、このように性的な意味で向けられる視線はあまり無かったのである。


「あわわ? ディアちゃんはそういうの慣れてると思ってたけど、違うんです?」

 この容姿であり、たまに(美衣についていった時だけ)モデルのようなこともしていることを知っているトモちゃんは、幸次の愚痴に違和感を感じたようである。前述のとおり、あまり慣れていない、意識することもなかった幸次はやっぱりあまり慣れていない。なにせ聖女前は加齢臭香る中年男性であったのだ。

 聖女後(いや、現役聖女なのであるが)は、フェロモン的なアレが香る、誰が見ても美しい少女なのである。落差についていくのは一苦労であっただろう。もっとも、間に聖女期間(今も続いているのである)を挟んだおかげで、そのインパクトも若干薄らいだと思われる。

「ん、まあ、こういう格好するようになったのは最近のことだしね。前は地味で男っぽい格好だったんだよ」

 嘘は言ってない。以前の性別を教えてないだけである。

「はえええー!? 意外! 美衣先輩教えてあげなかったんです?」

 いちいち妙な驚き方をするトモちゃんが、美衣に話題を振ったことで一息つく幸次。自分の話をするのは、どこかで破綻しそうで精神的な疲労を感じるのだ。


 意外にも粘つくような視線、というのはあまり感じないものである。女子歴が低い幸次には気が付かないだけかもしれないが。大体は目を向けるとこちらから逸らしてくれるのだ。

(こりゃおもしろい。いや、遊んだら駄目か。むっ!? あの3人組、美衣を見てるぞ。ん?)


 遊びにでも行くのだろうか。高校生くらいの3人組がドア付近にたむろしていたのであるが、もし美衣がこんなのを連れてきたら、その場で殴り倒すであろう雰囲気を纏う、要するに矢鱈とちゃらい感じのがこちらに歩いてくる。

「ねぇねぇ。君、オレら見てたけど、興味ある感じ? 気になる感じ?」

(ありゃ? 俺に言ってるんだよな。これ)

 唖然と男を見上げる幸次。吊革に両手でブラリとぶら下がっている。タンクトップであり、丸出しの腋毛が冷房にそよぎ、酸っぱい臭いが漂ってくるような。

「いや……」(まあ、俺相手なら別にいいんだけど)

 チラ。と横を見ると、2人とも下を向いている。

「無視してないでさぁ。なんか言ってよー」

 おもむろに幸次の腋に手を通して抱き上げた。

「えっ!?」

 慌てる美衣。

「あわわわわわ」

 やっぱり妙な声をあげるトモちゃん。

「……」

 予想外の行動にいまいちついていってない幸次。自分の事なのであるが。律儀に抱えやすいように両手を横に伸ばして抱えられる。

 草食系と言われて久しい日本の男性。中々どうして、ガツガツしているのもいるではないか。と呑気に考える。もっとも。

「なーんで、お……わたしなのかしらね」

 抱き上げている男の耳を両手で勢いよく叩く。ぱあん。と良い音がしたと同時に崩れ落ちるように倒れる。

「あれだ。車内での迷惑行為はやめましょうってやつだな」

 とん。と着地して、残りの2人を睨む。

「周りも見てるけどねー。どうする?」

 言いながら、なお手を伸ばしてくる別の男の手を引き寄せる。少女とは思えない怪力でがっしり固定された腕に驚く。

 幸次は耳元に口を寄せ「動けるか? 動けないだろう。このまま通報されるのを待つか? それとも、次の駅で降りるか?」

 ギリッと手に力を入れる幸次。男は小さくヒッと悲鳴を上げ、「わ、わかったよ。降りるから離してくれ……」


 まだぼうっとしている男を両脇から抱え込み3人は、よろよろと別車両へと消えていく。

「ふん……」ついでに、ギロリと辺りを威嚇するように見渡して、座席に座る。

「ううううう! ディアちゃん大丈夫ぅぅぅ!?」

 余程怖かったのか、トモちゃんは涙目だ。そりゃそうだ。あんなのが3人も来たら女性であれば恐怖を覚えて当然だ。

「大丈夫。心配かけたね。美衣……お姉ちゃんも」

 美衣も胸に手を置いてほっとしている。



 空港へ直通で運行される電車である。

 辺りは旅行バッグを持つ乗客が増えてきているようだ。同時に沈みかけた2人のテンションも戻ってきている。

「はわわわ! お2人とも水着そんなに持ってきてるんですか!」

「うん、貰い物もあるんだけど。お母さんも買ってくれたりね」

 ようやく戻ったいつもの明るさに、幸次もほっとする。


アナウンスが聞こえ、電車は空港のホームに滑り込んだ。


ダァシエリイェス!


※ 2014.7.7 よくぼうのおもむくくままに、加筆しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ