おはよう
ピピッピピッピピッピピッ……ぺちっ。
目覚まし時計の音で目が覚める。カーテンが閉まっている室内は、まだ薄暗いけれど、鳥の鳴き声が聞こえてくるので、今日も外は晴れているのだろう。
今日は空港から10:00の便に乗るため、若干早起きだ。荷物の大部分は、先日中にホテルあてに発送済みである。今日は大荷物を持ち歩く必要はない。最も私は異空間に荷物を放り込んでおけるので、態々宅配便で送る必要もないのだけど。
ところで、私はまだ布団の中である。がっちり体をホールドされているのだ。我が妻に。以前は私が腕枕なんぞをしていたのだが、戻ってからは私が抱かれる側になっているような気がする。そして夜の生活もすっかり逆転……そこはどうでもいいか。
……早く起きてくれないかな。
(コージ、コージ)
おや。私の第二人格であるところのディアーナさん。おはよう、そしてなんだか久しぶり。
(ええ、おひさしぶりです。昨日はお楽しみでした?)
おおう。寝てたんじゃなかったんかい。
(……寝たふり。いたたまれなかったわよ。でも仲良しでいいね! あったかい気持ちになるね!)
それはどうも……
ディアーナは、私と妙な魔術で生成された際に媒体の1つとなった際に組み込まれた人格だ。普段は私が起きているので、ディアーナは寝ているのだが、こうして話したいときや私が隷属術式の副作用で封じられているときには、表に出てきたりもする。つまり、ディアーナの人格は、隷属の術式があるからこそ出てこれるのだ。
……そう、私は本来封じられた存在だ。呼び出した者からすれば、私は誰でもない。何物でもない存在なのだ。ディアーナも。
どうやら、術式を消すとどちらの自我も消える可能性があって、新しい自我が生まれるか、廃人になるか、今までと変わらないか、どちらかの自我のみが生き残るか。どういう結果になるのか、わかっていないのだそうだ。
「んんぅ……」
妻が抱き付いてくる。
妻。
そう、私は本来は男性であった。それが、女性となって帰還したことで、美穂には大いに迷惑をかけてしまっている。はずだ。
はずなのだが……この、なんというか、体をまさぐる手つきはどうにかならないものか。実に、的、確なん、だがっ! 朝から、この、夜の、あの、美穂さん……
(やだ、コージ……朝からイヤラシイわ……)
子供は寝てなさい。
(こ、子供じゃないし!? ラガービールも美味しく呑めるし? あと、遊園地も大体怖くなかったし?)
「ふぁっっっ!? ちょっ! 美穂! 起きろぉ! ひゃあ!」
そのとき、寝室のドアが開いた。ドアの向こうには顔が真っ赤な美衣。
「お楽しみのところ、大変申し訳ございませんが」
「んぅ…… えっ! いや、楽しんでないぞ!?」
「そろそろ起床の時間でございます……」
「ありゃ!?」
「んー……幸次、おはよう~」
やっと美穂が目を覚ましてくれたようだ。
「おはよう……うひっ……」
「……幸次、シャワーしてらっしゃい」
誰のせいでこんなことになっとると思ってるんだ。
ようやく、私は蒲団からはい出ることに成功したのだった。
まさかの初お父さん視点でした。
※ 2014.7.2 字下げと若干の加筆をしました。




