BBQと、不審な影
ぱちぱちぱちぱち……
炭に燃え移る様子をじーーっと見つめる幸太。
女性陣3人はバドミントンで盛り上がっている。
「一人は父さんなんですけどねー……そろそろいいかな」
炭をおこすための容器から、バーベキューコンロに炭を移していく。
「おーい、そろそろいいぞー!」
「はーい!」
「ビールどこビール」
「はいはい」
「わたしジンジャーエール」
「はいはい」
「私はウーロン茶」
「はいはい」
「あ、肉ひっくり返して」
「……はいはい」
「あ、塩かけなきゃ!」
「……」
「ん? なんだ幸太、聞いてるのか?」
きっ! と周囲を睨む幸太。
「あなたたちも仕事しなさい!」
「……へーい」
「……はぁ、おにぃちゃんがそこまで言うならしょうがないね」
「あらあら」
「にーく! にーく! にーく! にーく!」
「にーく! にーく! にーく! にーく!」
「にーく! にーく! にーく! にーく!」
和牛のヒレ肉がいい感じに焼けていく。
一家のテンションはうなぎのぼりである。
かりっかりっかりっかりっ。幸太がコショウを振りかける。
「よし、いい感じだ。さあ、食え! 欠食娘共!」
「いただきまーす!」
「俺まで欠食娘言ったことについて、後で話し合おうじゃないか。でも、たまらんっっっ! いっただっきまーす!」
「……ちょっと、席外すわ。幸太のうま肉で腹が驚いたか」
「はいはい、いってらっしゃい」
先ほどから感じる視線と、微弱な魔力。
幸次は全身に魔力を纏わせ、転移した。
「あれがディアって子か……魔力がアナログ表示なのが残念だ……あれなら贄に……」
キャンプ場から離れた雑木林に紛れ、一風変わった双眼鏡を使って佐藤一家を覗いている。
「アレを贄にしたら……莫大な魔力が得られる……」
(あのサインを目にしたときは、興奮で眠れなかったぜ……)
「しかし」
「ありゃ、いい女だよな。贄に捧げた後は……俺の……」
下卑た笑いを浮かべた瞬間、双眼鏡の向こうにいる少女がこちらを振り向き、掻き消えた。
「そうか……俺に用事だったか」
背後から掛けられた声に、驚いて振り返る。そこには、腰に手を当てて男を睨む幸次の姿。
思わず後ずさり、声をあげてしまう。
「い、いつの間……!……っ!」
幸次は、左手で人差し指を立てて、しーっとおとなしくさせるジェスチャー、右手を突き出し、術式を構築する。
途端に、男がどれだけ声を出そうと、呼吸音だけとなってしまった。
「折角家族でバーベキューしているんだ。邪魔しないでほしいな」
ぱくぱくと口を動かす男の胸ぐらをつかんで引き寄せる。
「……わかるか? 2度と付きまとわないと誓えば、今回だけは俺の記憶削除だけで許してやる……どうだ?」
だらだらと汗を流すだけの男を見てため息をつく幸次。
「もし、2度目があるかもしれないと、俺が判断したら……」
首に手を当て、術を行使する。ジリジリと男の首を握る手が熱くなっていく。男は怯えの見える目で、コクコクと首を縦に振る。それを見た幸次がニコリと微笑む。
「よろしい。では記憶を消す。2度と私のことを思い出すことができないように」
男の頭に手をかざし、術を行使する。
ここで男の意識は暗転した。
「あ、父さん遅いな! 朝、ちゃんと済ましてこなかったの!? いてっ」
気遣い0な幸太の出迎えに、チョップで答える幸次。
「お前はほんとデリカシー的なのないよな!」
「父さんにだって無いじゃないか……」
わいわい言い合いながら、美穂と美衣に近づいていく。
「お、焼きおにぎり!」
醤油の焼けるいい香りが漂う。佐藤家の醤油はバターを溶かしたものをハケで丹念に塗り込むスタイルだ。
「おー、美衣が作ってるのかー」
「あ、お帰りお父さん。もうちょっと待っててね。あ、こっちの焼き鳥はいい感じだよ!」
幸次はネギマを手に取り、はむっと一口。
「お、うまい。うむ、ビールある?」
「はいはい。ん、まだ冷たいね」
ぷしっとプルタブを開けてグビリと一口。
「あーーーー」
実にオヤジ臭い、それでいて可愛らしい声がキャンプ場に響いた。
数日後、地元紙の3面に小さな記事が載った。
「XXXキャンプ場近くの雑木林で徘徊していた老人を保護」




