泳ぎに行こうか、な
もっきもっきもっきもっき。
同じ制服を着た少女たちが、チーズハンバーグランチ180g・ライス大盛を食す幸次を囲むように席を取り、思い思いに食事を楽しんでした。幸次と違い、年頃の女性らしく食べる量は控えめではあったが。ファミレスとはいえ、ハンバーグはどこのファミレスでも人気商品。幸次は、そのジューシーな味わいとご飯のハーモニーを堪能していた。
今日は、美衣の友人と後輩の子たちと旅行の計画だ。午前中に粗方済んでしまった今は、ランチを楽しんでいる。この後は、駅までの道のりをふらふら遊びながら……ということらしい。ちなみに後輩の少女はモデルとしての美衣のファンであるらしい。
その少女の1人が、美衣の妹(という設定である)でモデルとして一緒に写っていた幸次=ディアと話してみたいと美衣にせがんだのだ。
美衣達の旅行の計画だというのに、「ディアちゃんはどうしたい?」「ディアちゃんだったらどこに泊まりたい?」 「ディアちゃん、嫌いなものとかあるの?」
とやたら絡んでは、この年頃の少女に囲まれるという経験が少なく、あたふたと答える幸次の反応全てに「はわわ~……ディアちゃんかわいいです~」と頭を撫でていた。
「ディアちゃん、よく食べるよね……モデルさんなのにねー」
少女……美衣の同級生の一人が、口いっぱいにハンバーグを頬張る幸次の食べっぷりに目を丸くする。
「うん? 食べられるなら、ともちゃんも食べた方がいい……わよ」
微笑みを浮かべて答えながら、自ら発した語尾にサブイボを立てる。ともちゃん、と呼ばれた少女は嬉しそうに「デザート食べちゃおうかなー」とメニューを取り出している。
前日、美衣に女性の言葉使いを要求されてから、幸次は外でイメージが重要になりそうな場面では、女性の言葉使いやしぐさを意識して取り入れることにしていた。
しぐさについては、向こうの世界で散々この身に沁み付けてきている。言葉使いに関してもだが、日本語で女性の言葉使いは殆ど経験がないのだ。大体は敬語で済ましていた幸次は、今回もそれで通すつもりであった……が。「同年代の子にそれは不自然」と女性としての言葉使いを仕込まれたのである。
「……というわけで、ここにいる6人でいいのよね? 美衣」
「うん。白浜かぁ……楽しみよね~」
と顔を綻ばせる美衣。
「えっ!? おれ……わたしも?? あれ?」
自分が面子に入っているとは露程も思わなかった幸次が、焦った顔で美衣を見る。
「……聞いてなかったの?」
じとーっと美衣に睨まれつつ、首を傾げて考える。
「わたしが行くなんて誰も言ってなかったよ?」
「あれ? そうだっけ」
いわれてみれば、誰も幸次を連れていくとは言ってなかった気がする。というか、このランチに出席した時点で旅行に同行する前提なのであった。
幸次にしてみれば、寝耳に水である。
「み……お姉ちゃん……」
心底困った顔で、目を潤ませつつ隣の美衣を見上げる幸次。
「はぁぁぁ……ディアちゃんかわいいですー」
蕩けるような笑みを浮かべるともちゃん。
「でしょう!? でも残念! 妹はあげないからね!」
と幸次に抱き付く美衣。
……呆然とそのやり取りを横目で見つつ、「はんばーぐたべる……」と抱き付く美衣の腕をほどいた。
呆然としつつもパクリと口に入れたハンバーグは既に脂っこい砂の味だ。
「……ディアにも好みとか聞いてたじゃないの……」
美衣のツッコミ……言われてみれば、自分の好みや旅行のあれやこれやを聞かれていた気がする。
幸次がこれほど困る理由。引率で着いていくという意味であれば、幸次もそれほど困らない。困らないのだが。
宿泊時には全員同じ部屋で、パジャマパーティとやらを開催する予定であることをミーティング中に聞かれ、能天気に「楽しそうね!」などとノリノリで答えてしまったことを思い出したからである。
2014.6.9 誤変換を修正しました。また、細部の表現を若干修正しました。
……まてよ。パジャマなんとかって、自宅でやるんだっけ。そうでもないのか。




