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お父さんってにんきものだなー

「あら、良く撮れてるじゃないの」

雑誌の発売日に届いたファッション誌「jiji」のページをめくる美穂。

「うーん。これ、俺が美衣と姉妹になってるんだよな……外で酒飲めないぞ……いつものとこならいいか」

あまり考えずに撮影に応じてしまった幸次は、しまったと渋面になる。

「あ、そうねぇ。これからは気を付けた方がいいわね」

「うーん……お? これも……美衣、か?」


ぺらぺらとめくるページがとまる。



「……」

ハイティーン向け雑誌「jiji」を睨むように眺める幸次。以前の体であれば、「舐めるように」と形容されるであろう行為。

睨んでいるページは実にどうも、肌色の部分が多い。

通常であれば、鼻の下を伸ばして美穂に冷たい目で睨まれるのであるが、今回は伸ばしようがないのだ。

水着特集的なページには、実の娘が健康的な肌を晒しているのである。

「……美衣、これ、女の子向けだよな……?」

「え、うん。そうだよ?」

「……だよなぁ……」

ふぅぅぅぅ……と深く息を吐き出す。どうにも落ち着かない幸次だ。

確かに男性向け雑誌と違い、過度な布面積ではないようだ。ポーズもいたって普通。しかし。

幸次の中の「男子的な視点」で見ても、美衣の眩しい肢体は刺激的ではないかと思う。もう、この雑誌ではトップを走っている気がする。親視点も多分に含まれているが。


「そういう水着くらい、昔から普通じゃん! ていうか、ちょうど水着買いに行くところだけど、お父さんもいこっか?」

「む。行こうか……」


なんだかんだで、娘の誘いは断ったことがない幸次だ。



「……」

とある百貨店の水着売り場。催事場なのか、ずいぶん広いフロアに、これでもかと水着が並んでいる。

あの少ない布で、よくもこれだけのバリエーションが出来たものだと、幸次は呆れるばかりだ。


「……」

長々と水着選びに精を出す。美衣。

最初は興味津々で、美衣の水着選びに付き合っていた幸次だが、試着室で「うっかり」美衣のヘソをくすぐってしまった結果、試着室から離れることを命じられ、ぼんやりとフロアを眺めるだけになってしまった。




不機嫌そうに美衣の水着選びを眺める幸次。

そのとき、目の端にこちらに向かって手を振る一団が見えた。


「ディアちゃーん!」

「!?」


高校生ほどの年齢だろうか。4,5人ほどの少女達が幸次を取り囲む。

相手のテンションが高そうな様子に怯む幸次。

「え、えと、なにかな?」

「jijiに載ってたモデルのディアさんですよね!? すっごく可愛かったです! 応援してます! 頑張ってください!」

「え、うえ。はい」

「どうしたの? おとう……ディアちゃん……」

騒ぎに気が付いた美衣が何事かと近づいてくる。それに気が付いた少女たちは、さらに騒ぎ出す。

「あーっ! ミィちゃんだ! ディアちゃんとお買い物ですか!?」


たちまち騒ぎが騒ぎを呼び、周囲に人だかりが出来ていく。

聖女してたときは、気遣いが出来る出席者ばかりのパーティでこなせていても、ここまで無遠慮な子供たちの攻勢におろおろするばかりだ。

対する美衣は慣れた様子で受け応えしていく。もう41代目の聖女は美衣でいいんじゃないかと思う。

「ディアちゃん! WEBでも見ましたよ! 可愛いから私も参考にしてるんです!」

と、目の前で話す女の子は、数日前に載った幸次が着たコーディネートにそっくりだ。

「あ、ありがとうね。あ、今日のコーデはね。美衣が選んでくれたんだよー」

「え、そうなんですか!? あ、ミィちゃんてお姉さんですよね! いいなー!」

「ディアちゃん、それ地毛なのー?」

「う、うん。もともとこういう髪だよ」

「きれいー! なんかサラサラだぁ……いいなぁ……」

「肌も白いよねー」

「あ、ディアちゃん! サインください!」

「あ、わたしも!」

サインは幸次も慣れているのである。

「ペンあるかな?」

「はいっ!」

差し出されたペンで少女が持っていた雑誌jijiにサインする。サラサラっと。

異世界で書類にサインすることに慣れていた幸次は、異世界の言語でサラサラっとサインした。

「……へぇぇ……これでディアちゃんのサインなんですね! すごーい!」

あっ! と気が付いた時はもう遅い。

嬉しそうに、ばっちり書かれたサインを見せびらかす少女を見て、幸次は「ま、いっか。どっかにハートマークとか書くべきだったかな……」と呟いた。




帰り道、ふと気が付いて聞いてみた。

「美衣、水着買ったということは、海でも行くのか?」

受験勉強したほうがいいと思うが……

「うん。みんなで一泊するとか言ってたよ。お母さんが。お父さんもいいって言ってたって」

「あれ? そなの?」

んんー? と首を傾げる。

そういえば、酔っぱらってたときに何かそんなことを言われたような。生返事したような。

「そういえば、こんどお父さんの水着も買わなきゃだね!」

「……はいはい」

「2回雑誌載っただけで人気者だもんね! わたしも選んであげるよ!」

目をキラキラというか、ギラギラさせつつ幸次の両肩を掴む美衣。


はぁ。とため息をついて(どんなのがあるか知らんが、おとなしめのにしないとな……)と自身が着ることになる水着を想像してもう一つ大きなため息を吐いた。


「あ、お父さん」

「うん?」

「あの変なサイン、わたしにもちょうだいね!」

「……おう」


聖女のサインって、数週間待ちだったんだがなぁ……と、向こうの世界との違いを思うとため息が出る。


「……はぁ」


(棒)



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