家族のたたかい
「ああー! おい、幸太! ちゃんと回復してくれよ!」
「いや、父さんが前に出すぎなんだよ! それに、美衣も見てないで攻撃してくれよ」
「え、わたしは強い魔法どかーんって撃ちたいの! ちまちまファイヤーアローとかやだし!」
「わがままいいすぎだよ! 母さんも変なところに落とし穴作ってないで、弱体化させてよー」
「ええ……さっき穴掘ってろって幸次が言ったから」
「あ、ちがうぞ美穂。この敵はまた違う作戦じゃないと駄目なのだ」
一家は今、MMORPGであるところの「ホーリーソードオンライン」のプレイ中である。先日書斎にて大惨事を引き起こした幸次が、美穂に土下座して新しいパソコンを購入した。その際、便乗しておねだりした美衣と美穂にもノートパソコンを買ったため、どうせならみんなで遊んでみようと始めたネットゲームだ。
それぞれの部屋からログインし、パーティプレイ中。美穂は書斎にいる幸次の隣だ。こっぴどく幸次を叱った後、超整理術にて机の面積を倍にしてノートパソコンの置き場を確保することに成功した。
幸次はむきむきマッチョな戦士。
美穂は華麗だと思っていた女盗賊。穴を掘るのが主な業務であるが。
幸太は回復役の女僧侶。クラスアップすると聖女なるらしい。
美衣は渋い老人の魔法使い。うろうろ動いてたまに強い魔法を打ち込む。
幸次のキャラクタ名はコジロー。自身の名前をちょっともじっている。
美穂のキャラクタ名は、はんばーぐ。キャラを作ったその日はハンバーグであった。
幸太のキャラクタ名は、ディローナ。何を元にしているのか、家族にだけは丸わかりだ。
美衣のキャラクタ名は、フジヤーマ。幸次がびくついたのは気のせいか。
幸次のパーティは中ボス戦で全滅したところである。
「全員集合しよう。リビングだ」
パーティメンバーで作戦会議である。
チラシの裏に各々のポジションを書き込みながら動きを確認していく。
「だから、このタイミングでブレスを吐いてくるから、父さんは横にステップしてくれよ」
「うむ。タイミングがシビアだからなぁ……あ、そうだ幸次。リアル聖女からのアドバイスだが、回復の時は詠唱を先にしといた方がいいぞ。遅れるときつい」
「あ、そっか。了解」
「わたしは、魔法撃ちたいんだけど、撃っちゃうと敵のヘイトがこっちに来ちゃうのよね」
「ああ、母さんが目くらまし仕掛けておけばいいはずだよ」
「うん、やってみるわ」
「よし、次で決めるぞ!」
全員がパソコンの前に着く。
「戦闘開始!」
幸次が攻め、幸太が支援魔法を操り出し、美衣が魔法を当てる。敵意が美衣にくるまえに、美穂の目くらましで幻惑させる。
途中まではいい調子であったのだ。
しかし家族の素晴らしい連携は、家族の何気ない言葉で崩壊した。
「あ、みんな、晩御飯なににしようか」
「え、あ、いまそんなこと言われても」
たった一言がパーティをグダグタにし、あっさり全滅させた。
晩御飯。一家の重要課題はどんな敵より強いのである。
「おれたちの冒険はこれからだってか。さあ、飯飯」
ゲームの名前は適当です。小説家になろうでよく見るVRMMOも面白そうなんですけどね。




