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新しい家族の一員

「む?」

夕食後のひととき。ソファに寝転がって、額に一円玉を積み上げていた幸次は、胸の紋が光っていることに気が付いた。200円ほど積みあがっている。何枚のせられるか美衣と賭けていたのだ。500枚越えたら、幸次が肩たたきしてもらう。500枚未満なら、その金額を美衣のお小遣いにするという趣向である。

「お、お父さん……」

最近やけに懐いているせいか、積み上げる作業を手伝っていた美衣が不安そうに父を見る。

幸次はじっと光っている紋を見つめながら考える。まだ対抗術が切れることは無いはずだが。

「あ、魔力足りなかったかな? 」

ふにふにと右胸をつつきながら呟く。それを見た美衣を思わず左をつつく。

「ひゃあ」

思わず出た声。積んでいた1円玉がざらぁっと散らばる。

「あ、ごめん。つい」

「お前な……あー、そういうことか」

1人で納得した幸次は、どっこいしょの掛け声とともに立ち上がる。

「美穂ーー!!」



「つまり、もう1人の人格が出てくると? 」

「うん、魂は混ざり合っているから、もう1人も俺だからな。よろしくやってくれよ。ああ、そうだ美衣」

「うん」

「遊園地でも連れて行ってくれんかな。こいつはまともに遊んだことが無いらしいから」

「そっか。うん、妹のように扱うよ。お父さんのように。いたたたたたた!」

ぐりぐりと美衣に「うめぼし」しながら「俺は妹じゃないぞ。頼んだぞ、美穂もな」と声を掛けて寝室へ向かう。

「今日はもう寝るよ。おやすみ」



朝。ディアーナはこの世界では初めて目を覚ます。

むくり、と起き上がり、きょろきょろと辺りを見渡す。

『ここがコージの世界……』

ペタリ、ペタリと扉に向かって歩く。

『ん、ここ、衣装部屋? 出口、どこ』

ガチャリと廊下への扉を開ける。

『あ、ここかな? ……狭いね。階段降りるのかな。急で怖いな』

体を横にして、よいしょよしいょと声に出して降りていく。階段を降りきると、話し声が聞こえる。

(どきどきする……ちゃんと挨拶できるかな)

『あの。おはようございます。コージからお話聞いているかと思いますが……あれ?』

ポカン、とした女性2人と男性1人。

(あ、ニホンゴ!)

「おはよう、ございます。ディアーナ、いいます。よろ、しく、です。コージ、さん、と、おなじ、です」

ぺこりと頭を下げる。


「……うわぁ」

美衣はキラキラと目を輝かせ、ディアーナに抱きつく。

「よろしくっ! よろしくね! わたしのことはお姉ぇちゃんって呼んでね!」

ディアーナは、抱き付かれて目を白黒させる。

「よろしく、です。おねぇ、ちゃん?」

きゃーと叫ぶテンションの高い美衣をどかして幸太が声を掛ける。

「おはよう、ディアーナ」

「おはよう、ございます。コータ、おにぃさま」

お、おおお。と変に感動しつつ、ディアーナを食卓に座らせる。

そこに、ご飯と味噌汁を持ってきた美穂。

「はい、ディアーナちゃん。お箸使えるかな?」

「はい、わたし、おはし、すこし、つかえます。みほおかあさま」

「ディアちゃん、かわいい! 幸次より」

「かわいい。父さんより」

「かわいいよねー。お父さんより全然」


食卓に並べられた朝食を満面の笑みを浮かべながら見渡す。

ベーコンエッグと納豆と豆腐の味噌汁とご飯。


「いただき、ます?」

首を傾げて、「合ってる?」と確認する。

3人がそれでいいと頷いたのをみて箸をとる。

たどたどしくお箸を使いながらご飯を食べる。


「おいしい、です」

と、柔らかく微笑むと、美穂は「よかった」と笑みを返した。


ちなみに、ディアーナは納豆に醤油をかけて食べ、若干不思議な顔をしつつ「おいしい、です」と食べていた。それを見た美穂が物凄くうれしそうな顔をしていた。


にぎやかに進む朝食。


初めての「家族」の食卓を経験したディアーナは、少しだけ泣きたい気持ちになった。

そして、ここに連れてきてくれたコージに心の中で『ありがとう』と言った。


こうして、佐藤家に5人目の家族が増えた。


つづき、ます。

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