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温泉(1)

細かく書きすぎたらタグに紀行とか入れそうなので、これくらい。

温泉地や、旅館は実在のものを使っています。流石に旅館名は変えますけど。

「温泉行こうか」


 父の49日法要が終わったある日、幸次はこう切り出した。

「幸太も美衣も休みだろ? 帰る途中2泊くらいでどうだ?」

「えー? お父さん、変にマニアックなところ行くからなぁ……奇麗なとこにしてよ!」

「む、あれはあれでいいものなんだが。鄙び系、だ」

「あ、俺はどこでもいいよ。父さん任せる」

「よし、1日目と2日目は趣向を変えてみるか」

と、幸次はスマートフォンを取り出す。


「あ、明日、一拍お願いしたいのですが……はい、佐藤です。はい、あ、車1台です。え!?」

一瞬幸次が固まる。

「……じょ、女性3人、男性1人です……はい、よろしくお願いします」

なんとなく、しょんぼり。といった風情で通話を終える幸次。

「なるほどなぁ、こんなときに中々にくるものがあるな……」

「……お父さん」「父さん」「幸次……」


「む、なんだその目は。あ、美穂! ぎゅってしなくていいから。頭とか撫でなくていいから! ほんと大丈夫だから!」

小1時間、幸次は美穂と美衣に撫でられた。


「どこにしたの?」

「鳴子と鎌先だな。どっちも俺のおすすめだ」

「えー? ちょっと、それって奇麗なんでしょうね?」

「鳴子はごにょごにょだが、鎌先はきれいなもんだ。女性にも人気の宿だな。期待していい」

「ふーん、じゃ、いいけど」



次の日、一家は車の中。運転は、美穂と幸太が交代で。幸次も免許は持っていたのだが失効してる。もっとも持っていたとしても使えるとも思えないが。

「うん、まあ、運転しないでいるとこんなことができるのだな」

と、ご当地ソフト、あずきソフトを食べている。

「あ、お父さん、半分こだよー」

「はいはい」

「あ、口ベタベタ」

「ん? ああ」

美衣は、幸次の口を拭いてやる。

「んっ、しかしあずきのソフトっていうのも珍しいね」

「しょうゆとか、あったよ」

「意外と香ばしくてうまいかもな」


車は高速道路を下りる。この辺りは、無料の区間が多い。


「あ、そろそろ次の道の駅だね。この辺、多いなあ」

道の駅は当然、全部入るのである。



昼ご飯。

ずるずる。幸次と美穂はうどん。稲庭うどんというやつだ。

「卵ふわふわだよ~」 美衣は親子丼。比内地鶏を使ってある。らしい。

「山菜のどんぶりってのもうまいね」 幸太はうどんと山菜のどんぶりのセット。卵でとじてある。

出来るだけご当地のものを食べたい、という方針なのである。


「ごちそうさん」「美味しかった~」「ごちそうさま~」「ごっそさんー」


「……む、トイレ」

「あ、じゃあ、わたしも」

女子ってやつは、どうして誰かとトイレ行きたがるんだろうな……って男も割とあるか。



「ここから先は峠越えるから、カーブ多いぞ。気をつけてな」

「うん」


一家は再び、車上の人となった。


「あ、この辺も温泉地なんだねー」

「ん、そうだな。ここは、父さん……美衣の爺さんと一緒に来てたな」

川遊びして、冷えた体を温泉で温めていた記憶がよみがえる。

「……」

車窓を眺めていると、美衣がじっと見ていることに気が付いた。どうも、この世界に帰還してから、美衣との壁が無くなったような気がする。喜ばしいような、本当に父として認識してくれているのか心配になるような。

「お父さん、やっぱり淋しい?」

「ん? いや、もっと悲しい気持ちになるかと思ったが、意外とあっさり普通に戻った感じだな。父親だったから、かもしれん。母さんが死んだら引きずるのかもしれんなぁ」

「えー? 爺ちゃんかわいそー」

「幸太は前見て運転しなさい。カーブ多いんだから。男親はそんなもんだろ」

「幸次の場合は、どんな気分になるのかしらね」

「美穂さん、それはどういう意味かえ?」

「あー、そりゃ男親か女親かってことかじゃない? 父さん、見た目がちょっとアレだしね」

「だから幸太は前見ろって……なんだ美衣?」

ぽすっと音を立てて幸次の膝の上に、美衣が頭を乗せてきた。膝枕、というやつだ。

「……女親っていうか男親っていうか」

「……その先は言わんでいい」

「お姉ちゃんか、妹か。見た目は妹だわねぇ」

「……」




「おい、美衣、そろそろ到着だぞ」

結局、律儀に(?) 美衣を膝枕していた幸次は、ゆさゆさと美衣を揺らして起こした。

「ん~……お父さんの膝、すべすべで気持ちいいねー」

「美穂……」

ぐいっと、美衣の体を起こしながら、「やっぱり、俺の服はスカート以外にしてくれ。こんな格好だから美衣が駄目になるんだ。うん」

「えー!? 駄目になんかなってないよ! それに、最近の服は私が選んでるんだから!」

美衣口を尖らせながら、幸次を睨む。

「最近の流行は美衣のほうが詳しいのよね。時間かけてお父さんの女子力上げていかないとね」

「女子力……」

まあ、どの道にじみ出るのは加齢臭のしないオヤジ力であるし、問題はないか。多分。臭いと言えば。

と、窓を開ける。顔が緩むこの臭い。

「あっ、臭い! 温泉っぽいね! お父さん」

「うん、温泉地来たって感じだな」

「あそこだわよね。いいなぁ、山にへばりつくように建ってる温泉地」

「あ、そこじゃないから。幸太、橋渡ったら左な」

「ええー!?」

「……鄙びてんなぁ」

「うむ。思った以上だな。東鳴子温泉。マニアックだ」

「うぇぇぇ」

「ま、旅館に入るか!」


旅館の駐車場に車を止め、一家はぞろぞろと旅館の入口へ向かう。幸次は跳ねるように歩き、先導する。


「見た目は完全に家族旅行ではしゃいでる女子高生? 女子中学生? だよね」

美衣のつぶやきに、幸次以外の2人は、苦笑を浮かべ頷いた。

まだ温泉入ってない! 続く!

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