第34話 好きになっちゃう
噂話に花を咲かせる男子たちの前に、自然と俺は飛び出していた。
「あの、そういうのは」
しまった! メアリー先輩の横顔を見ていたら、足が勝手に動いていたのだが!
俺は何をしているんだ!?
でも、笑っているのに、どこか悲しそうなメアリー先輩を見ていたら、自然に足が動いて……。
「誰?」
「なんか用?」
男子たちが訝しむ顔をする。コイツは何者だと。
「つまり、その……そうだ。あまり女子をセ○レとか言うのはどうかと……」
説明した俺に、男子たちの視線が刺さる。コイツは何で綺麗事を言っているのかと。お前も女をエロ目線で見ているだろと。
その通りだ。その通りなんだけど。でも、本人が聞いたら悲しむはずなんだ。
この女子はヤれるとか。この女子は無理だとか。
どうせ男子も女子も、隠れたところでは言ってるのだろうけどさ。
しまった、俺の行動で空気が! この場を何とかしないと!
「えっと、俺はメアリー先輩、良いと思うけど」
もうヤケクソだ! ここはメアリー先輩の良さを布教して乗り切るしかない!
首をかしげている男子たちに、俺がメアリー先輩の良さを教えてやる。
「確かにメアリー先輩はデカいけど、それを上回る可愛さがあるだろ! スタイル抜群だし、顔も美少女で髪も天然金髪だし! そして何より、明るく優しい性格」
俺の独演が始まり、男子たちはポカーンだ。
「それにさ、メアリー先輩は普段ずぼらで無頓着に見えるけど、実は可愛い服が好きだったりとギャップがあるんだぞ」
「そうなのか?」
「それは知らなかったぜ」
メアリー先輩の新たな一面を知り、男子たちの表情が変わった。
「普段エロいギャグとか言ってたり、経験豊富っぽく振る舞っているくせに、本当は恥ずかしがり屋で意外と真面目な処女なんだよ」
「そう……なのか?」
「処女……だと」
「マジかよ……」
処女と聞いて、男子たちの表情が一変した。
いつの世も、見た目は派手だったりギャルだったりするのに、実は清純な女子を好きな男は多いものだ。
「そしてこれだけは言っておきたい。逆身長差カップルは、逆に男を大きく見せるのだと!」
俺は何を言い出しているのだ。
「低身長でも高身長女子と付き合えるってのは、その男が何か持ってるって証拠だろ!」
「た、確かに……」
「普通女子は自分より高身長を求めるよな」
「自分より背が低くても付き合うってことは、それだけその男が魅力的ってことか」
俺の話で男子たちの意見が反転した。高身長女子は素晴らしいと。
俺は更に畳み掛ける。
「そうだ、高身長女子は最高なんだよ! つまり、メアリー先輩は最高なんだ! 俺はメアリー先輩が好きだな! たまらねえぜ!」
何かヤバいことを言った気がするが、もう引き返せない。メアリー先輩の良さを布教できたから良しとするか。
男子たちは「黒森芽亜莉、最高じゃね」とか「あの外見で処女とか超そそるぜ」とか「くぅ、ヤベェ、俺も好きかも」とか言いながら戻っていった。
「はぁ、俺は何をやっているんだ」
ガバッ!
突然、後ろからムッチムチの肉体に包み込まれた。
「ぬっへへぇ♡ 俊、あたしが処女なのをバラすなよぉ」
「ちょっと、メアリー先輩」
メアリー先輩の体が密着し、パツパツの胸や太ももが当たりまくる。何故か彼女の足が、俺の股に入っているのだが。
「ちょっと! そこはヤバいですって! 膝が当たってます」
「当ててるんだよ♡ ほらほらぁ♡ 俊のアソコが大変なことになっちゃうぞぉ♡」
「うわぁああぁ! やめろー!」
それは洒落にならん! 思春期男子の体を刺激するとかヤバすぎるだろ!
「そ、その、俊って、あ、あたしのこと好きなのか……?」
「ええっ、あ、あれは言葉の綾でして」
「ぬふふぅ♡ うんうん、分かるぞ。俊はドMだから、あたしと付き合って調教して欲しいんだろ?」
「全然違います!」
「隠すな隠すなぁ♡ こいつぅ♡」
ヤバい、メアリー先輩の何かに火をつけてしまった。もう完全に捕食モードじゃないか。
「ぜぇぜぇぜぇ…………」
やっとのことでメアリー先輩の肉体から抜け出した俺は、乱れた息と体を落ち着ける。
あと少しで体の変化を悟られるところだったぜ。
「俊、何で前屈みになってるんだよぉ♡」
「男には色々あるんですよ」
「ぬふふ♡」
あれは分かってる顔だな。バレバレかよ。
「もうっ、俊って意外とやる男だよな。あんなの言われたら好きになっちゃうだろ……」
メアリー先輩が何かつぶやいた気がしたけど、風の音でよく聞こえなかった。
「えっ? 何か言いましたか?」
「な、何でもない、何でもない」
「もう俺は戻りますね」
「何だよぉ♡ もうちょっと、あたしに構えよぉ♡」
「わああぁ、だからくっつきすぎだって!」
前よりもっと距離が近くなった気がするけど、もう深く考えないようにしよう。
これ以上意識すると色々とヤバい。
◆ ◇ ◆
「おい、大崎! お前の出番だぞ」
クラスの応援席に戻ると、長瀬が慌てて駆けてきた。
「もうそんな時間なのか」
「早くグラウンドに行けよ。借り物競争は、一番盛り上がるイベントらしいぜ」
「はあ? 俺は楽そうだから選んだのに」
確かに場内は謎の盛り上がりを見せている。
男子はそわそわと落ち着かないし、女子はキャッキャウフフと意味深な感じだ。
「何だこの異常なテンションは?」
「毎年この借り物競争で告白する生徒が多いそうだ」
「は?」
長瀬は何を言ってるんだ?
よく分からないままスタートラインに立ち、戦いの火ぶたは切られてしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
状況が把握できないまま、お題カードのある机まで走る。
机に置かれたカードの一枚を引いて、その意味をやっと理解した。
「は? 好きな人……だと」
えっと? 好きな……人、好きな人……好きな人だとぉおおおおおお!
つまりそういうことか! 周囲を見てもそれは明らかだ。他の選手も『付き合いたい人』とか『告白したい人』とか『デートしたい人』というカードになっている。
しくじった! 楽な競技だと思ってたけど、これ思い切り陽キャイベントじゃねえか!
「ど、どどど、どうする!? 誰か当り障りのない人を」
応援席を見渡しながら、そんな都合の良い人なんていないと気づく。これは告白イベントに使われるくらい噂になっているのだと。
「誰か、誰か選ばないと……そ、そうだ、真美さん……」
って、ダメだぁああああああ!
もうそれ、俺が告白してるようなもんだろ! 真美さんは幼馴染なのに、俺が一方的に恋愛感情を向けているなんて知られたら、今の関係まで壊れてしまうかもしれない。
「そ、それじゃ、メアリー先輩に……」
それもダメだぁああああああ!
ただでさえ『あたしのこと好きだろぉ』とかからかわれているのに、こんなのしたら『やっぱり好きだったんだぁ?』っていじられまくるに決まってるぞ。
「もう最終手段で凛とか?」
ダメダメダメだぁああああああ!
姉弟だから許されるとか思ったけど、それ俺がシスコンって言ってるようなもんじゃねーか!
なまじ美人で有名な凛だと、冗談にならないかもしれない。
その時、俺の視界にひと際目立つポニーテール女子が映った。
森の奥に人知れず咲く一輪の花のような。汚れた世界の中で、一人だけ気高さを忘れないような。
まさに孤高の女王と呼ぶに相応しい人。
「瑛理子先輩」
俺の足は、ひとりでに動き出していた。




